林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年9月(№39)
□ 椎野潤(続)ブログ(250) ダイレクト・ツウ・コンシューマー
花卉の廃棄を防ぐ 産地直送プロジェクト 2020年9月29日
☆前書き
コロナ危機の襲来で、育てていた花卉を、多量に廃棄せざるを得なくなりました。この危機を防ぐプロジェクトが立ち上がっています。2020年6月23日の日本経済新聞(参考資料1)は、これを記事に書いています。以下のように書き出しています。
☆引用
「出社ができない、取り引き先に会えない。お客をよべない--。新型コロナウィルスの感染拡大は、ビジネスに多くの試練を迫った一方、オンラインを駆使して事業領域を広げ、危機をチャンスにする動きも広がる。花のスペシャリストは、生産者らとオンラインでつながるビジネスで危機を克服しようとしている。」(参考資料1、2020.6.23、日経、荒沢涼輔から引用)
☆解説
「青山フラワーマーケット」で、世界で展開しているパークコーポレーション(注1)は、2020年4月から、コロナウイルスで休業していました。生産者のためにも、花を売りたい。でも店を開けられない。「では、生産者から直接、消費者に花を届けたらどうか」と井上英明社長は考えました。
井上さんは、自社の電子商取り引(EC)サイトで消費者に直接売る「D2C、(ダイレクト・ツウ・コンシューマー、注2)」に、7年前に、既に挑戦していたのです。でも、巧くいきませんでした。
ここで「もう一度やる」と決意しました。コロナ危機が、心を突き動かしたのです。自ら、オンラインショップの担当者や仕入れの担当者などを集め「産地直送」プロジェクトチームを結成したのは、緊急事態宣言が出た3日後の4月10日でした。
4月20日、井上さんの産地直送の再挑戦が始まりました。今回は、急造「産地直送」に対応できる設備を持つ3つの生産地の協力を得て、合計160点分を、オンラインショップで売り出しました。競りなどを通す必要もないため、通常の店頭で花を売るよりは安くなり、消費者の手もとに届く日数も、3日も早くなるのです。
これは、すぐに、売り切れました。井上さんは、慌てて200点追加を用意しましたが、売り切れ表示は続きました。システム担当者に電話をかけると、「社長、追加分も一瞬で売り切れたんです」と、取り乱した返答がかえってきました。
井上さんは、オンラインならではの仕掛けを、コロナ危機が終焉した後も続けると言っています。動画で花の開く様子を掲載することで、消費者が飾る姿をイメージできるようにするなど、オンラインならではの仕掛けを続ける計画です。オンラインに特化したプロジェクトチームのメンバーを集めており、「花は生き物で、変化を楽しめるもの。その魅力を伝えるためのオンラインの活用は、まだまだこれからだ」と熱く語っています。
☆まとめ
コロナ危機では、国中の全員が仕事をする手段のない状況でした。その危機感で、今回は動きが早かったのです。市民の反応も迅速でした。井上さんの、未来を見つめて考えていたD2C(注2)は、これまでは「正しいけれど」「面倒くさい」「赤字になる」と、皆が躊躇していました。でも、コロナの危機が、大分先にあった「未来社会」を、一気に引き寄せたのです。
でも、プロジェクトチームで、なすべき重要なことが残っています。すなわち、D2C(ダイレクト・ツウ・コンシューマー)が出来たという姿にするには、まだ仕事があるのです。すなわち、D2Cの定義を「製造から販売までを垂直統合したビジネスモデルのうち、実店舗を介さず、インターネット上の自社ECサイトでのみで販売するモデル(注2)」とすると、生産者と消費者の間にあるオンラインショップを「実店舗」とみなさないですむかどうかが鍵なのです。
D2Cが完成すると、生産者の負担は急増します。個々の顧客と個別にきめ細やかな対応が求められ、配送準備なども煩雑になります。花を作る時間がなくなります。これを支援する機能は、是非必要です。反面、サプライチェーンの中に、実店舗が一つ入ると、生産者と顧客の間の、きめ細かい情報交換は、俄かに遮断されます。情報を遮断する実店舗を排除して、農場を支援する機能を巧みに設置しなければなりません。これが、今回、開設するプロジェクトの重大な課題になるはずです。
このようなD2Cの花卉供給のビジネスモデルは、山村においても貴重な仕事です。井上さんが募集するプロジェクトに、山村の花卉生産者が参加して挑戦するのは、絶好の機会だと思います。(参考資料1、2020.6.23、日経、荒沢涼輔を参照して記述)
(注1)パークコーポレーション:世界に展開しているフラワーマーケット。青山フラワーマーケッ
ト:青山フラワーマーケット公式|花屋、ホームページ。https://www.aoyamaflowermarket.com/
(注2) ダイレクト・ツー・コンシューマー: D2C(Direct to Consumer):製造から販売までを垂直統合したビジネスモデルのうち、実店舗を介さず、インターネット上の自社ECサイトでのみで販売するモデル。インスタグラムなどのSNSを通じた消費者(コンシューマー)と生産者の情報交換が主力になる。
参考資料
(1) 日本経済新聞、2020年6月23日。
[付記]2020年9月29日、椎野潤記