林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年4月(№97)
□ 椎野潤(続)ブログ(308) 本社を人口700人の山梨県小菅村に移したら 多様な人材が集まってきた 2021年4月23日
☆前書き
本社を多摩川の源流域の村に移転したビール醸造会社があります。この本社移転で意外なことが起こりました。従業員の雇用が、都心にいたときよりも、容易になったのです。また、有能な外国人技術者の中には、山深い田舎が大好きな人も、実はいたのです。世界に向けて、インターネットで募集すると集まってくるのです。2021年3月20日の日経ビジネスは、以下のように書いています。
☆引用
「人口700人強の山梨県小菅村。ここは多摩川の源流部であり、秋にはツキノワグマも目撃されるなど山深い田舎だ。ここに2020年秋、ある企業が東京渋谷から本社を移した。「東京ブロンド」「東京ホワイト」などで知られるクラフトビールメーカーのFar Yeast Brewing(ファーイーストブルーイング)だ。
同社は小菅村に源流醸造所という製造拠点を持つ。営業などがある東京本社を、源流醸造所と一体化したのだ。この東京から小菅村への本社移転を決めたのが山田司朗社長。新型コロナウイルスの蔓延による、働き方の変化が後押ししたこの決断は、思わぬ副産物を生もうとしている。」(参考資料1から引用)
☆解説
2011年に渋谷区で創業した同社が、小菅村に工場を作ったのは2017年です。生産量が段々と増えてくると山田社長は、製造業にとっては、最も大事な製造拠点に本社を置くのが、効率的で最善ではないかと感じるようになりました。社長は2019年に、本社を小菅村に移転してはどうかと、従業員に問いかけたことがあります。でも、この時は、凄く意外な提案と受け止められた感じでした。ですから、この時は思い止まりました。
そしてコロナの悪魔が襲来しました。会社は、いやおうなく、リモートワークになり、緊急事態宣言が出るとオフィス使用を禁止しました。でも、リモートワークで働く社員のパフォーマンスは、少しも落ちなかったのです。社長は、ここで移転を決断しました。
本社移転で、昨年秋までに社員が、2人退職しました。でも、それ以外には、本社を移したデメリットは何もかったのです。逆に良いことづくめでした。
特に何よりも大きかったのは、人材の獲得が凄く楽になったことです。さらに驚いたのは、外国人が喜んで来ることです。
同社に、米国人が2人入社しました。1人は日本在住外国人で、品質保証の経験者です。もう1人は、米サンフランシスコの有名ブルワリーに勤務していたオペレーターです。この人は、ばりばりの即戦力です。そして、都会よりも自然の中で、ビール造りに集中できることに喜びを感じているのです。
さらに、日本人が感じている外国人像とは、大分違うのです。不便な田舎暮らしも、米国人には、マイナスには見えないのです。鹿が出ると言っても、少しも驚きません。「ド田舎」への本社の移転は、思わぬ国際人材の獲得に繋がったのです。
また、新たな人材獲得につながったのは、外国人ばかりではありません。広報やマーケッティングを担当する若月香さんは、2020年11月に入社しました。東京・有楽町の広告代理店で働いていましたが、本社移転の記事を目にして、応募してきたのです。山登りが趣味で、都会よりも田舎の生活を希望していたのです。同様な応募が、その後も続きました。社長は、小菅村の方が東京よりも、人材吸引力があるのかもしれないと思い始めています。(参考資料1、2021年3月20日の日経ビジネス(本奥貴史)を参照して記述)
☆まとめ
日本の林業スタートアップとして最先端を牽引してくれている、百森の中井照大郎さんとネット討論をしました。これを2021年4月16日のブログで発信しています。そこでは、私の「画像の撮影は、ドローンで行うのですか。森林所有者管理ソフトは、誰でも使えるものとなっているのですか。また、そのソフトは、自治体が使うもの、民間山主が使うもの、森林組合が使うものコンシューマー(お施主さん、市民)が使うものなどが、それぞれあるのですか。」の質問にたいして、中井さんは、以下のように答えています。(「 」内参考資料2から引用)
「西粟倉村ではドローンではなくセスナ(注1)です。しかしコンサルティングをするその対象地域が行うレーザー測量の手法は問いません。そのレーザー測量によるデジタル画像解析に基づき森林資源量の把握と解析・ゾーニング(注2)のコンサルティングをさせて頂きます。汎用ドローンによる解析のアドバイスなどはしています。森林所有者管理ソフトは基本的には自治体や森林組合のような方々が使うことになると想定しています。導入前に放置林のビジョンづくりや業務整理、構築をして、そのあとソフトを導入します。そして業務遂行の段階に移るのですが、それぞれの段階でさらに細かく実施するタスク(注3)があります。」(「 」内参考資料2から引用)
これは、林業〜家作りの長いサプライチェーンで、その最上流の大改革を進めているスタートアップ中井さんが、最下流の家作りの改革をしている、小柳さんに対して、森林所有者管理のノウハウを、透明に開示してくれた、貴重なネット討論の中で、出てきた言葉です。
このブログを、丁度、まとめた直後に、私は、このブログを書きました。そこで、はたと思い当たるところがあったのです。山梨県小菅村の鹿のいる多摩川の源流の村に、本社を移転したビール醸造会社に入社した、米国の有名ブルワリーのベテランオペレーターは、本当に良い処にきたと、物凄く喜んでいたのです。豊かな日本の自然環境の中で、ビールを作る仕事は、本当に夢見ていたことだったのです。
ですから、日本の森が大好きで、日本の森の中で、森林をさらに豊かにする仕事を、本当にしたいと熱望している外国人もいるはずです。そこで、私は考えました。以下の主旨のことを英文で書いて、SNS(注4)、インスタグラム(注5)で、世界に発信してみたらどうでしょうか。
「日本の森の大自然の中、鹿と共生する素晴らしい環境の中で、『樹を育てて森をさらに豊かにする仕事』に、来てくれる人を募集しています。ここへ来たい人はいませんか。これは従業員として募集するのではありません。経営者として招聘したいのです。米国などの大自然の中での経験が、豊富な人にチャンスを与えたいのです。
利益をあげれば、利益は、ご自身のものとなります。利益はさらなる事業展開に投資して、日本の森林拡大につながる事業の拡大にかけていきます。日本国には、得られた利益に相応の決められた法人税と所得税を納入していただければ良いのです。事業の初期投資、つなぎ融資の資金については、今、国は様々な支援をおこなっています。
勿論、未来でのこのような事業経営を目指して、チャレンジしたいという、若い方々、経験の浅い人、未経験の人の参加も、大歓迎です。」
このような情報を、交流サイト(SNS、注4)、インスタグラム(注5)に、継続的に掲載し続ければ、きっと反応があるはずです。日本では、鹿のいる小菅村に本社を移したと言うと、多くの人は驚くと思います。でも、日本の大自然の中での事業を夢見ている欧米人にとっては、鹿がいるのが良いのです。鹿は、憧れのビジネスのシンボルなのです。
このブログ執筆で引用・参照した日経ビジネス(参考資料1)は、米国でも、本社の移転ラッシュが起きていると書いていました。米オラクルも、ヒューレット・パッカード・コーポレーションも、2020年12月に、本社をカリフォルニア州から、テキサス州へ移転させました。オラクルの経営者は、この本社の移転は、従業員の生活と仕事の質の向上をもたらすだろうと述べています。これは私が、これまで考えてきた、本社の郊外移転とは、相当異なる視点で見ているのだろうと思います。
日本の中のことでも、パナソニックが淡路島に本社を移転をしたことを知ったときは、驚きを持って聞いていました。でも今日は、また、全く別の思いで感動しています。
私は若い頃、淡路島に、菜の花を見に、春の訪れの早い淡路島を訪ねたことがあるのです。それは菜の花が満開の時期でした。そこでは低い山々の森林が遠くに見えて、それに続く幾段もの段丘が、反対側の青い海に至るまで、黄色一色の菜の花で満ち溢れていたのです。
それは凄い感動でした。そして私は、今日、パソナグループの社員の人達は、新しい本社へ移ってきて、この感動の中にいるのだろうなと思ったのです。
地方は、一度、ステークホールダー(利害関係者、注6)を形成すると、力強い存在になるのです。ここでは、菜の花も、鹿も、森林の緑も、杉も檜も、その全体の景観も、皆、人間のステークホールダー(利害関係者)です。人間に巨大な利益を与えてくれる関係者です。
私の山村振興も、ここで大きく発想を転換しなければならなくなりました。今日は大転換の日です。(参考資料1、2021年3月20日の日経ビジネス(本奥貴史)を参照して記述)
(注1)セスナ:セスナ・エアクラフト・カンパニー(以下セスナ社と略称する)が製造している 軽飛行機。代表的機種、セスナ スカイホーク(Cessna Skyhawk):4座席、単発プロペラ推進、高翼式の軽飛行機。1995年に初飛行し翌1956年に引き渡しが始まった。 近年、森林撮影に使用されるドローンは、無人飛行機だが、これは有人飛行機。
(注2)ゾーニング:森林所有者管理において、類似した性格の空間をまとめて計画していく行為。
(注3)タスク (プロジェクト管理):作業の目標に向けて、その期限までに達成する必要がある活動のこと。
(注4)交流サイト(SNS:Social Networking Service):人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。
(注5)インスタグラム(Instagram):写真や動画の共有に特化したソーシャルネットワーキングサービス(SNS)。
(注6)ステークホルダー:企業が経営をするうえで直接的または間接的に影響を受ける利害関係者。
参考資料
(1)日経ビジネス、2021年3月20日。
(2)椎野潤(続)ブログ(306)林業再生・山村振興ブログ 林業・山村スタートアップの先導者たち(その3)百森とのネット討論、2021年4月16日。
[付記]2021年4月23日。