林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年6月(№110)
□ 椎野潤(続)ブログ(321) [塩地博文さんの論文] 塩地博文の大型パネル事業〜急変した木材需給バランス 2021年6月4日。
☆前書き
2021年4月3日、塩地博文さんから、貴重な論文が送られてきました。その論文の題名は「塩地博文の大型パネル事業〜急変した木材需給バランス」です。それは、とても貴重な論文でした。でも、塩地さんは、この論文を書かれた直後に、体調を崩して入院されたのです。ですから、お元気になるまで、この貴重な論文は、お預かりしておくことにしたのです。塩地さんが、元気になられるのを待って、2人でこれを基に、日本の未来を支える立派な論文を書きたいと熱望したからです。
塩地さんは回復され退院されました。でも、まだ慎重に療養をする必要があります。無理は絶対に禁物です。
私は、今、伊佐裕さん、小柳雄平さんと、ブログを書いています。これも、今の日本にとって重要なブログです。これを執筆中に、塩地さんのこの論文を引用したいと痛感しました。
そこで、塩地さんに、ご相談して、引用させていただくことにしたのです。今日のブログでは、塩地さんの論文を、そのまま紹介をさせていただきます。読者の皆様が、この論文を読んでから、来週の私のブログを読まれれば、理解は凄く深くなるはずです。塩路さんの論文には、極めて明確な視点が各所で輝いています。是非、読んでください。
[引用した塩地論文]
「急変した木材需給バランス」 文責 塩地博文
椎野ブログに採り上げて頂いた2021年初頭から、わずか2か月程度で木材市場は急変を始めています。1か月で二回の値上げが通告されるなど、取引価格が急上昇し始めています。これは需給というよりも、供給サイドから一方的に始まっています。業界紙である日刊木材新聞には特集が組まれて、「輸入材全面高で歴史的転換点」と、一面掲載されていました。
「とうとう始まったか〜」という感想を持ちました。そして準備してきた大型パネル、そのソフトウエア、生産拠点などを今こそ活かさなくてはとも思いました。
戦後何度か経験したウッドショックという歴史を振り返りますと、環境問題に端を発した30年前のウッドショックは、南洋材からロシア材、米材から欧州材への供給切り替えを加速させました。インドネシアの伐採制限によるウッドショックは、国産材活用による合板の国内生産とその工場の大規模化により沈静化していきました。今回のウッドショックも同様のインパクトをもたらすと想定されますが、どうも主因が過去とは違っています。今までは特定産地の輸出規制が引き金でしたが、今回は世界的な木材需要の拡大であり、代替産地があるわけではありません。世界的な木材需要の高騰と資源枯渇が底流に流れています。もはや日本は高値を出して調達するしかない状況になっています。
日本に残された選択肢は、国産材への代替加速です。日本の自給率は40%に迫っているはずです。海外材にどうしても依存してきたのは、横架材と言われる梁や桁といった強度を必要とする部材です。この分野でも横架材の国産材比率を高めるため、ハイブリッドビームという海外材と国産材を混成させた横架材も開発され、一般化しています。国産材代替への道筋は準備されつつあるのです。真に自立する内的外的要因が満ち始めています。図らずも木材供給の主役の座への道が開けています。
ただ、国産材にはどうしても乗り越えねばならない二つの課題があると思います。今回のウッドショックの原因が特定産地の供給不能ではなく、世界的な需要構造の上昇にあるように、国産材は最後の砦だという自覚が求められます。流通過程や加工過程で露呈している低い歩留まり率、需給予想を過去の経験則だけに依存するプロダクトアウト生産、複層的な流通など、デジタル技術を即座に導入して、無駄なコストを追い払う事がまずもって必要です。次には高騰する需要に比例する形で、再造林を活性化する事です。資源を使い果たさない、森林を再生産する道筋を義務化する強い決意が必要です。そこを空白にしたままでは、このウッドショックのショートリリーフ役に過ぎないでしょう。
この木材需給バランスの喪失に、「神の見えざる手」が働いたとしたら、長く資源価値として低位に甘んじていた木材を、二酸化炭素吸収固定価値として市場経済の上位に位置付けた事だと思います。人類の生存本能に、森林価値が組み込まれたとも考えられます。大切に無駄なく使う事以外に、答えは見つけられないでしょう。
『油断!』。オイルショックの始まる前に、堺屋太一氏はこの著作を書き始めたようです。現実にオイルショックが起きたため、社会不安を助長させないように出版は暫く見送ったとも聞いています。「木断」になってはなりません。木断には、3つの意味が警鐘されています。木材の総量が不足してしまう事、木材の価値が流通加工過程で失われてしまう事、木材が一過性の伐採で終わってしまう事、です。
国産材が木材供給の主役の座に昇る日はそう遠くないでしょう。生産技術も情報連動技術も既に準備されています。一つ一つを冷静に対応する事、国産材の持つ需要地と生産地が近接する「場所メリット」を最大化する事で、飛躍的な価値向上が待っていると思われます。
☆まとめ
塩路さんの体調を見極めて、二人でこの論文を基に、立派なモノを必ず書きあげます。今年の夏中の実現を目指します。(椎野潤記)