次世代に向けて改革を進めているのは、日立製作所だけではありません。次世代産業社会では、「モノ」つくりの体勢も、その基本が変わります。次世代電気自動車時代になると、部品は全て、カーメーカーの関連会社や下請け企業が、作るわけではなくなります。次世代移動体の部品産業の集団作りに着手した企業も出現しました。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年8月 (№129)
□ 椎野潤(続)ブログ(340) 日本電産EV生産20社連合 「次世代産業の黒子集団形成」に出発 2021年8月10日
☆前書き
日本電産は、電気自動車(EV、注1)の一括受託に向けて、20社の部品会社と連合を組んでいます。クルマ作りの次世代産業の黒子集団作りに着手しました。2021年5月11日の日本経済新聞は、これを記事に書いていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。まず、この記事の「書き出し文」の引用から始めます。
☆引用
「日本電産は中国で、電気自動車(EV)の一括受託に向けて20社の部品会社と連合を組む。世界最大のモーター新工場の周辺に拠点を集積。走行全般に関わる部品群の製造受託を目指しており、複数社と交渉に入った。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業も受託製造に乗り出すなど、EV時代は黒子が影の主役になる。(参考資料1、2021年5月11日、日本経済聞(渡辺直樹、福冨隼太郎)から引用)」
☆解説
中国東北部の遼寧省大連に、2021年3月に、日本電産の新工場の第1棟が完成しました。2022年には、第2棟として、さらに内陸部にも新工場を建設します。日本電産は、大連の新工場で、「EVの心臓部」である駆動モーターを生産します。今年3月に稼働した新工場の生産能力は、最大で、米テスラの2020年生産実績の2倍にあたる年100万台で、世界最大のEV用モーター工場です。
日本電産は、高い性能を保ちつつ、小型化できる技術を武器に、EVモーターで「2030年に世界シェアー4割強」の目標をかかげています。ここで特筆すべきは規模ばかりではないのです。同社が新工場で進めている、EV部品を中心に工場を近隣に集積させている「サプライヤータウン構想」です。
具体的には、駆動用モーター関連部品に加え、ブレーキやパワーステアリング関連など、20の部品の工場を誘致する考えです。この部品工場の集積については、既に複数のサプライヤーに打診を進めています。工場用地はメドがつきました。新工場は今後、自社のモーターにインバーターやギアなどを加えた駆動システムやブレーキなど「止まる」「曲がる」を操作する中核部分の組立ても手掛け、EVメーカーなどに一体で売り込むつもりです。
日本電産は、将来、車の土台にあたる車台を手掛けることも構想しています。ボディ部分や電池を除いた車体の多くを押さえ、1台当たりの販売額は、「60万〜70万円分になる」仮に車全体のコストを200万円程度とすると、単純計算で、全体の3分の1、電池を除くと6〜7割を手掛けることになるのです。
☆まとめ
日本電産の関潤社長は、「IT企業などの異業種参入組から、EV(注1)に必要な部品をまとめて供給することが、いまや当たり前に要求されている。」「今後は、一括で受託するプレーヤーが競争優位になる」と述べています。私はここで、日本電産が現在、目指しているのは、「ドイツのボッシュの姿」だと直感しました。世界の車メーカーに、幅広い部品を供給しているドイツのボッシュの姿です。すなわち、世界を制覇するメガサプライヤー(注2)の姿です。
でも、私は、日本電産が目指しているのは、現在、皆が認識しているボッシュの姿ではないと思います。第4次産業革命が達成した後の次世代「移動体産業社会」で、中核をなすと思われるボッシュの姿に違いないのです。
次世代のクルマ社会では、クルマは「所有するモノ」ではなく「使うモノ」になっています。また、次世代では、クルマの設計・生産・販売は、ダイレクト・ツウ・コンシューマー(D2C、注5)になるはずなのです。次世代産業社会では、生産者は、顧客(コンシューマ―)とダイレクトに結ばれるのです(注5)。ですから、ここでは、今の自動車メーカーの営業・販売の姿は、煙のように消えていくのかもしれません。
次世代のクルマは、その新時代の人々の生活の相棒であり、幸福で充実した生活の仲間です。このような社会を生み出すのがクルマ産業であり、その生産の中核の黒子の姿が、次世代のボッシュの目指すポジションだと思います。
この文を書いていて私は、かってのブログに書いた、日立製作所とホンダが合弁で作った「クルマのメガサプライヤー会社」のことを思い浮かべていました。そして、ここで見付けた日本電産の関潤社長の言葉の中の「IT企業などの異業種参入組から、EVに必要な部品を、まとめて供給することが当たり前に要求される」の言葉に、はたと気がつくものがありました。ここでの「異業種参入組」とは、この一連のブログで書いた日立製作所のような企業のことなのです。
今や日立製作所は「金物部品作り人の製造業集団」ではなく、「人工知能(注3)、IoT(注4)の最先端技術の達人のデジタル情報業集団」だからです。
私は、近年のブログは、「林業再生」と「山村振興」をテリトリーとして執筆してきました。しかし、このブログは大分乖離ました。でも私が、これまでブログの中心においてきた「林業再生」「山村振興」も、当然のこと、この産業・社会の激変の中にあるのです。ですから、このような産業社会の中で、林業・山村は、どうあらねばならないかを考えねばならないのは必然なのです。
コロナの悪魔の襲来を受けて、日本の人達も、今や世界の激しい変化の流れに、日本が、どんどん、遅れていることを強く実感しました。なんとか追いつき追い越さねばならないという意識が、最近、強烈に強くなってきています。日本国内の変化の早さも、激烈な速度で加速すると思います。私のブログも、それに対応しなければ、追いつけなくなります。今回は、そんなことを考えて、新しいブロクテリトリー「次世代産業社会へ」を開設し新たな門出をしました。これからは、それを強く認識して「林業再生」「山村振興」ブログを書きます。
(注1)EV=電気自動車:電気をエネルギー源とし、電動機(モーター)で走行する自動車。略称はEV(Electric Vehicle)。内燃機関(エンジン)を持たない事から、走行時に二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物が出ないゼロエミッション車である。
(注2)メガサプライヤー:グローバルな規模でかつ多様な領域で自動車部品の研究開発、製造、供給を行なっている者。日本のデンソー、ドイツのボッシュ、フランスのヴァレオ、アメリカのアプティブなどがこれに分類されている。
(注3)AI(artificial intelligence)=人工知能:「『計算(computation)』という概念と『コンピュータcomputer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。人の頭脳の代わりに、記憶し考える機械システム。
(注4)IoT(Internet of Things):モノのインターネット:あらゆる「モノ」がインターネットで接続され、情報交換により相互に制御する仕組
(注5)ダイレクト・ツウ・コンシューマ(D2C Direct to Consumer):製造から販売までを垂直統合したビジネスモデルのうち、実店舗を介さず、インターネット上の自社ECサイトでのみで販売するモデル。インスタグラムなどのSNSを通じた消費者(コンシューマー)と生産者の情報交換が主力になる。
参考資料
(1)日本経済新聞、2021年5月11日。
(2)日本経済新聞、2021年8月3日。
[付記]2021年8月10日。
[コメント]
2021年8月3日の日本経済新聞の巻頭に、下記の記事が出ていました。
[EV基幹装置 主導権争い 業界勢力図 一変も]
「自動車メーカーが電気自動車(EV)の心臓部の動力装置を、部品会社から一括調達する動きが出てきた。動力装置は産業ピラミットの頂点に立つ車メーカーが自ら開発・製造するという枠組みが崩れ、EV部品にシフトする既存の部品大手や新規参入企業に商機が膨らむ。EVが世界で普及期に入るなか、基幹部品を軸に業界の勢力図が変わる可能性がある。」