林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年1月(№176)
椎野潤(新)ブログ(387) 伊佐裕・小柳雄平ブログ(その2)ウッドショックにおけるサプライチェーン効用 2022年1月25日
☆前書き
今回は、ウッドショックにおけるサプライチェーン効用についてお話しいただきます。
☆引用
ウッドショックにおけるサプライチェーン効用
文責 伊佐裕 小柳雄平
[ウッドショックの襲来]
コロナ禍を背景に2021年3月ごろから顕在化した「ウッドショック」。
未曾有の木材不足、価格高騰の影響で、特に建築用の構造材の価格が跳ね上がり、施主に対して35坪の住宅当たり100万円ほどの値上がりを余儀なくされ、住宅着工が半年も遅れるといったことも起き、2022年1月現在でも、回復の目途は立たっていない。さらに合板にも影響が広がり長期化している。
[東京・秩父地域の林業・家つくりサプライチェーン実運営][確実な連携確立]
そのなかで東京埼玉エリアの地域住宅産業と埼玉秩父の地域林業を結ぶサプライチェーン「森林再生プラットフォーム」の実運営をしてきた森林パートナーズの状況をご紹介したい。
結論から言うとサプライチェーン内で流通する木材に関して、参画する工務店にとってウッドショックによる大きな被害は出ていない。これは工務店の原木直接購入による材のストックと、何よりもマッチング(注1)ではないしっかりとした連携が構築されているためである。
[予定物件想定 木材事前調達][木材高騰回避]
予定物件を想定した事前木材調達のストック在庫があるので、木材が高騰したなかでもその在庫材からプレカット工場へ納品ができ、ひとまず材不足の状況を回避し、その間にその後の需要情報に則って、信頼関係の強い連携の中で、製材所、プレカット工場の大いなる努力のもと木材調達を行った。その結果、ウッドショックのさなか、木材高騰を回避できた。
ただウッドショックが長引き、国産材の市場価格も高止まりしているので、本プラットフォーム内での木材調達価格も、一般流通からは遅れてではあるが値上がりしてきている。今後、山元への利益還元・育林費確保を、これまで以上にしっかりと検討した上で、取り決め価格の調整を行う必要がある。
また今後のリスク回避の観点から遠隔地ではあるが山形県からの出材のサポート体制も整えている。
[需要情報基点サプライチェーンの実施][システムデータ管理][信頼関係構築]
これらは、需要情報を起点としたサプライチェーン(参考資料5、注1)とITシステムによるデータ管理、そこで醸成された強い信頼関係の六次産業化のおかげである。まだウッドショックは長引くが、森林パートナーズ参画メンバーの工務店、プレカット工場、製材所、山元(林業家、素材生産者)と皆でサポートし合いながら乗り越えていきたい。
ウッドショックは全国の工務店、ハウスビルダーに大きな影響を及ぼしている。これまでの目先の効率や利益を追い、安価な輸入材に傾いて国内林業(国産材)を軽んじてきた体質を反省しつつ、国産材、地域材との継続的連携を進めなければならない。
[地域型住宅グリーン化事業成立]
国土交通省住宅局が令和3年度の補正予算で「地域型住宅グリーン化事業(安定的な木材確保体制整備事業)」が成立した。これは地域の原木供給者と中小工務店が連携する体制とシステムづくりのための支援事業である。ここでは当社のシステムと体制が、ひとつの成功モデルとなるべき事業だと確信している。林野庁で熱心にすすめている国産材活用のサプライチェーン構築支援事業などとも紐づき、木材の需要情報と生産情報、加工情報を結び付け、各地での都市と森林との連携を強くしてもらいたいと願うところである。
[安定した木材需要情報が先]
ここで注意したいのは事業名にもある「安定的な木材確保」だ。もちろん工務店やハウスビルダーからの立場から考えると安定供給はとても大事なことであるが、安定的な木材供給を成立させるには安定的な木材需要情報が先にあるべきである。それを無しに安定性を生産側にのみに求めると、負担は今まで通り山側に寄ってしまう。その結果、強い連携も成立せず、マッチング(注1)で都度調達をするような体制となり、今の状況とほとんど変わらないことになる。
[情報でシステム化 物流・金流見える化 消費者と連携]
近江商人の「三方良し」の精神で体制を強化し、その中をデジタル情報でシステム化し、物流、金流の内容も見える化して共有し、その価値を消費者とも共有し、木材流通に新しいトレンドをつくり、常態化していきたいと願い、森林パートナーズもさらに努力していきたい。 (参考資料1伊佐裕・小柳雄平論文を引用)。
☆まとめ
東京・秩父地域の林業・家づくりサプライチェーン(参考資料5、注1)を実運用していたグループは、全国の林業界を震撼させたウッドショックに、びくともしませんでした。サプライチェーンは強力です。ここでは、サプライチェーンのお話しを少ししましょう。
私のサプライチェーンの定義は以下です。「部材の製造から製品の流れ、情報の流れを合理化して、顧客に提供する価値の増大を図り続ける総合的な活動(参考資料2、注1から引用)。
そして、これを、もう少しわかりやすく書けば、「モノ作り」「製品」「情報」の流れを合理化して、「仕事」「モノ」「コト」「情報」のコストを極限にまでダウンさせ、品質を向上させ、「仕事」「作業」「加工」「移動」「流通」の時間を最小にする(これが価値の増大)総合的な活動」と書き換えられます。
こう書くと、今回のブログで、小柳雄平さんが書いてくださっている様々な「モノ」や「コト」は、サプライチェーンとサプライチェーンマネジメント(サプライチェーンをマネジメントすること、注1)だと言えるのです。
そして、これをまとめれば、小柳さんが、この論文の最後に書かれている「近江商人の「三方良し」の精神で体制を強化し、その中をデジタル情報でシステム化し、物流、金流の内容も見える化して共有し、その価値を消費者とも共有し、木材流通に新しいトレンドをつくり、常態化すること」そのものなのです。
国土交通省住宅局が令和3年度の補正予算で成立させた「地域型住宅グリーン化事業(安定的な木材確保体制整備事業)」も、これを目指し実現させようとするものです。これはご本人が自信をもって強調されているように、伊佐ホームズのシステムと体制が、成功モデルの実施第一号となるはずだと私は信じています。
次世代に向けた、日本の経済・社会の大改革が開始されるのです。林業創生・山村振興は、日本の未来を明るく豊かな姿へ導く牽引車です。ここで伊佐・小柳チームが、発表してくれた、このブログは、それを丁寧に紹介してくれました。
(注1)サプライチェーン:部材の製造から製品の流れ、情報の流れを合理化して、顧客に提供する価値の増大を図り続ける総合的な活動。サプライチェーンマネジメント:サプライチェーンをマネジメントすること。参考資料(5)pp.26〜34参照)。
(注2)マッチング:都度、組み合わせること。複数のデータを突き合わせて照合すること。
(注3)ストリーム(stream):小川、流れ、連続などの意味を持つ英単語。IT分野では連続したデータの流れ、データの送受信や処理を連続的に行うことなどを意味する。
(注4)インタープリテーション (Interpretation):単なる情報の提供でなく実体験や教材を通し、事物や事象の背後にある意味や関係を明らかにすることを目的とした教育活動。
参考資料
(1)伊佐裕 小柳雄平著:ウッドショック下での展開、2022年1月8日。
(2)伊佐裕 小柳雄平著:秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手、2022年1月8日
(3)椎野潤(新)ブログ(387) 伊佐裕・小柳雄平ブログ(その1)秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手 2022年1月21日
(4)椎野潤(続)ブログ(235)木材トレーサビリティで流通改革 原木価格を引き上げ森林再生に貢献(その1) 2020年8月4日
(5)椎野潤著:椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」 ロジスティクスから考える林業サプライチェーン構築 林業改良普及双書№186 2017年2月20日。
[付記]2022年1月25日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ:2022年1月21日のブログ、伊佐裕・大谷雄平ブログ(その1)秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手]
[引用文]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
伊佐さんは、秩父の山を愛し、そしてこの秩父の山と消費者との間を1本のストリーム(注3)としてつながれました。この流れの中でいろいろな方がサポーターとなってつながっていると思います。事業レベルで初めて形となったサプライチェーンです。
今回、インタープリテーション(注4)の重要性に気づかされました。いま、市民に欠けていて求められているのはインタープリテーションだと思います!
酒井秀夫