☆巻頭の一言
対談 塩地VS大谷で「椎野先生に学ぶ」と言う「論題」が、あるのを知ったとき、私は、お二人に、何かお話しするものがあるのだろうかと思いました。
そして、討論が始まり、私なりに良い討論ができたと喜び、興奮し、私自身、貴重な成長が出来たと思いました。しかし、討論中、たびたび出てきた「椎野理論」というものが、果たしてあるのだろうかとも考え込みました。そして、もし「椎野理論」というものがあるのだとしたら、それを、みなさんに知っていただく努力をする必要があると痛感しました。
それで、大きく盛り上がった討論の終了後、私の過去の研究を、少しお話ししてみようと思い立ちました。ここで、これをブログで書きます。2回にわたって書きます
林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年2月(№184)
□ 椎野潤(新)ブログ(395) 過去の研究(その1)生きていることの徹底的な究明(1) 生物的システムの特徴 2022年2月22日
☆前書き
私が、この研究に傾注していたのは、2001年〜2014年ごろです。日本は敗戦から立ち直り、元気に戦後の高度成長期を駆け上っていました。そして、その成長が一段落した、この頃、私は「日本人は、戦後、ここまでは「生きている日本人だった」、でも、ここで放っておくと、また「死んだも同然の集団へと向って行ってしまう」と、強い危機感を持ったのです。それで、2012年から私はブログを毎日、書き始めました。
今日は、2009年10月に出版した古い書籍、建設業の明日を拓く4、実践的情報技術(参考資料2)での記述を引用して、これを基に、今回の塩地VS大谷討論で頭に浮かんだ様々な思いを、記述していくことにします。
☆引用
. 生きていることの徹底的な究明
生物は「生きています。」「生きているものには、共通のバターンがあります。微生物から植物、昆虫、動物、高度な精神活動を行う人間まで、生きているものには、共通のものがあります。生物は生きているものの代表ですが、生物を構成する細胞も生きており、人間の集団である企業も、生きている状態と死んだも同然の状態が観察されます。
このように、生命をもつものと同様の振る舞いをするシステムを「生命的システム」とよぶとき、これが生きているとは、どういうことなのでしょうか。
進化する環境の中で進化し続けるシステムを考えるには、「生きているということ」を徹底的に究明し、深く理解することが重要です。ここでは、不確実な環境の中で生存を続け、進化していく生物に学ぶことを目指し、清水博さんの「生命を捉えなおす(参考資料2)」を参照し、生きているものに共通の姿を模索します。
.生命的システムの特徴
生命的システムの特徴を明らかにするため、まず、「生きてるもの」の特徴を整理します。
a.不確定な環境への対応力
生きているものは、不確定な環境に対応する能力を持っています。環境変化に対応する力を失ったものは、やがて死を迎えます。変化する環境に柔軟に対応できる能力、これが生きているものの、まず、第一の特徴です。
b.自己組織化
生きているものは、エントロピーの法則に逆らい、自ら秩序を自己組織化し、エントロピー(注1)を減少させています。この自己組織化(注2)は、生きているものの重要な特徴です。
c.内部不安定性の保有
生きているものが秩序を自己組織化(注2)していくには、自己組織化が生じることができるだけの自由度が、内部に残っていなければなりません。生きているものは、常に不安定性を内部に保有し、未完結です。
d.情報発進
生きているものは、情報を発進し続けます。たえざる情報の収集、生成と散逸は、生きているものに共通のものです。また、生きているものは、情報に制御されています。
e.制御のための情報循環
制御には、フィードバックとフィードフォワードの二つの制御があります。この内、フィードバック制御(注3)は、設定値と達成値の差を最少にする制御です。フィードフォワード制御(注4)は、目的値を定め、これを達成すべき状態を推定し、これと合わせる制御です。生きているものは、この二つの制御を持っています。
f.フィードフォワード制御
生きているものが、変化する環境の中で生存していくには、この2種類の情報循環が必須ですが、特に、長期変動に追従していくには、将来を予測し、それに合致させていくフィードフォワード制御(注4)が重要です。(参考資料1、注5から引用)
☆解説
私が本日、みなさんに、ご紹介する考え方るに傾注した切っ掛けとなったのは、1996年6月に出会った、一冊の本でした。東京大学の清水博先生の著作「生きている状態とはなにか」です。私は、この著書に、強い感動を頂きました。私は、みなさまに、この書を是非、読んでいただいきたいと思っています。
今回の討論では、山林から製材・プレカットを経て家作りに至るサプライチェーンを形成しようとしている人間集団を、一人の「人間」として扱いました。
これは、私の以下の視点に基づくものです。「人間は生きている。人間の身体を構成している細胞も生きている」「細胞は、自身が生息する環境である人体と共生して生きている。同様に人間は、自身が生息している環境である「人間集団」と共生して生きている」
この視点からみると、人間集団自体も生きている存在であると見ることが出来るのです。
この視点から、私は企業も生きている存在だと考えてきました。事実、多数の企業を観察した結果、経営的に優れている企業の動きや働きは、生きているものの視点でみると、まことに納得がいくものでした。
そこで、私は、「林業〜家作りサプライチェーン」を「人」と考えて、その「思想」と「フィードフォワード制御力」に期待をかけたのです。そこで、これから、特に大事なことは、今回、私たちの改革チームに参加してくれた仮想人間の「生きてきるサプライチェーンさん」に、どのような「思想」を持ってもらい、どのような「フィードフォワード制御の生産管理」をしてもらうのかということです。
こう考えると、このような「システム的な人間集団」形成を牽引する人材が、まず、どうしても必要なのです。
☆まとめ
.システム的な人間集団の形成を牽引する人材の発見
これから、システム的人間集団の形成を湧出する人材を、発見する旅に出ましょう。ここで、その人材の探索にあたり、まず、2021年12月14日の大谷恵理さんのブログ(参考資料3)を読んで、本当に凄い人だと気がついた人物について、まず、書いてみます。
この人が凄いのは「生きているシステム」として生きている人だと思われるからです。
「普通に生活している人」とは違うのです。人間集団をシステム的に見て生きている集団に進化させて行くには、このような人をリーダーにして行くことが、とても重要なのです。
最近、佐伯森林組合は、「みんなが笑って、未来に向いて歩いている人間集団」になってきました。この集団には、凄いリーダーがいるはずなのです。
そこでここでは、先にまとめた「生きているものの特徴の項目」ごとに、順に検討してみましょう。
a.不確定な環境への対応力
九州の佐伯広域森林組合で、柳井流通部長は「5年間ずっと失敗し続けていました」と、こともなげに微笑みながら話されていました。私は、この人は、不確定な環境への対応能力が、多分、凄いのだろうと思いました。これが「みんなが笑って前進している人間集団」になってきている佐伯森林組合のリーダーシップの「根っこ」だと思うのです。
b.自己組織化
柳井さんは、ご自身の自己組織化力(注2)も、強い方だと思います。また、周囲のみんなを、「自分達、それぞれを自己組織化する人」に、自然に育てる人なのです。それも命令したり、教えたりするのではなく、柳井さんが「みんなの近くにいる環境」が、自然とみんなを育てるのです。これが、生きているシステムのリーダーシップです。
c.内部不安定性の保有
生きているシステムが生き続けて行くには、未完結でなければならないのです。これから生れてくる「林業〜家作りサプライチェーンさん」にも、システムの完結をもとめないことです。永続的に「未完結」のままでいてもらう必要があるのです。柳井さん自身が、その様であらねばならない事になるのですが。多分、現に、そうしている人なのです。することが全て完壁でなく、ゆったりの余裕があって「緩い」のです。
d.情報発信
情報発信は、生きているものの機能の中核です。生きているシステムを生かし続けるには、常に透明情報が発信され続けていなければなりません。柳井さんも、いつも微笑みながら話しておられます。「5年間、失敗し続けていました」と柔らかく微笑みながら、話していました。こういう情報発信が、グループの空気をつくるのです。
e.制御のための情報循環
ここではフィードフォワード制御(注4)の情報循環が重要です。そしてその鍵は「目標値」の設定です。でも有能なリーダーが考えて与えるのではないのです。それは透明情報が、自然に集まって、目標値を自己組織化(注2)できるようにすることが重要なのです。柳井さんが、みんなの中にいると、自然に、その空気が醸成されるでしょう。
f.フィードフォワード制御
「生きているシステム」では長期変動に追従していけるように、将来を予測し、それに出来るだけ合わせていく制御が極めて重要です。ここでは、特に未来の姿を描く想像力が鍵になります。柳井さんは、これが得意なはずです。でも、本人が得意で、自分で企画して命令したり、教えてやらせたりしたのでは駄目なのです。みんなに自己組織化で自分で生成させ、みんなに、足並みそろえて進ませる空気を、醸成しなければなりません。柳井さんは、きっと得意です。
柳井さんは、多彩な凄い能力を持っています。この人は滅多にいない能力者です。でも、ここで書いた、柳井さんの特殊能力は、全て、「システム的に生きているもの」の特性そのものなのです。ですから、ご自身が「システム的に生きている存在になれれば」、全部日常の普通の行動で、自然に対応できるのです。
私は柳井さんは、天性の稀有な人だと思います。今後、ますます、そのような能力が自己進化していく人とだと思います。このような人には、天性のものが大きいのですが、今回学んだような「生きているとは何か」を徹底的に理解し、そうなろうと努力を重ねれば、だれでも、その境地に近づいていけるのです。
.生物・組織・環境の生きている姿
「生物・組織・環境の生きている姿」について、参考書籍(参考資料1のpp.70〜82)を読んで、考えていきましょう。私の気がついたことを、以下に列記していきます。
(1)人の集団である「組織」も、生きていると考えるのなら、「企業」も生きている姿と死んだも同然の姿があります。企業が活性を持ち、永続的に事業を継続していくには、「企業」が生きていることが大前提になります。
(2)生きているものは、環境に合わせて対応しています。企業や団体(企業等が集まった集団)にとっては、企業や団体が身をおいている環境が、きわめて重要なのです。団体等が存在している環境から「生きていることを」求められなくなれば、まもなく、死んだも同然の姿になっていくのは、必然なのですから。企業の集まりである「団体」などは、環境を、絶えず生きた姿にしておく努力が重要です。
(3)脱炭素運動、エネルギーの、再生可能エネルギー・自然エネルギーへの変換等は、人間が生きている環境である「地球」の「生きている姿」を保とうとする運動です。これは、人間が生きて生存していく上で、最重要の課題です。
(4)「緑豊かな森」を残す。人間の経済活動の活性を維持しつつ、「人の生きる地球の環境」の「生きる姿」を保持して守る。この両立を図る活動が、人類の生存目的を達成するフィードフォワード制御(注4)そのものだと、私は、ここで気がつきました。
(5)「林業再生・山村振興」の改革において、今、私たちが凄く頼りにしている「林業〜家づくりサプライチェーマネジメントさん」には、こう考えてみると、凄く難しいことを担なってもらわねばならないのです。ですから、それを全力をあげて育てねばなりません。(参考資料1、注6を参照して記述)
これを人間の教育に例えますと、このサプライチェーンさんが、生れ落ちたばかりの赤ん坊のときから、一人前の大人になるまでの、幼児教育、少年・少女時代、思考が固まる青年期を通じて教え育てるのは、生みの親である、わたしたちみんなの責任なのです。特に、小さい時の教育、幼児教育が重要です。
みなさん大変ですよ。急がねばなりません。
(注1)エントロピー:energieに変化の意のギリシャ語のtropeを加えた語。クラウジウスが命名した熱学上の概念。熱平衡にある系で、準静的に加えられた熱量を絶対温度で割った値をエントロピー増加分と定義する。
(注2)自己組織化(self-organization):物質や個体が、系全体を俯瞰する能力を持たないのに関わらず、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序を持つ大きな構造を作り出す現象のこと。自発的秩序形成とも言う。
(注3)フィードパック制御:設定値と達成値の差を最少にする制御。
(注4)フィードフォワード制御:目的を定め、これを達成するあるべき状態を推定し、これと合わせる制御。
(注5)参考資料1、pp.66〜70から引用。
(注6)参考資料1、pp.70〜82を参照。
参考資料
(1)椎野潤著:建設業の明日を拓く4 実践的情報技術、メディア.ポート、2009年10月26日。
(2)清水博著:生きている状態とはなにか(増補販4販)中公新書、1996年6月。
(3)椎野潤(続)ブログ(376) 大型パネル事業が導く林業再生(その1)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望 2021年12月14日
[付記]2022年2月22日
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ名:林業の再生と山村復興への挑戦 対談 大谷恵理VS塩地博文(その3)外から見た林業の世界、 2022年2月18日]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
JAS材が普及しない理由はいくつかあると思いますが、山から木材を誰よりも高く買う強力なサプライチェーンができれば、流れはそちらに傾くのではないかと思います。
日本は地球上でも奇跡的と言っていいほど自然に恵まれた美しい国です。大谷さんの取り組みは後世への最大遺物になると思います。