□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第十回) 「おおすみ百年の森」の循環利用
吉重英生
活動を共にする森田氏から依頼を受けましたので、素材生産とチップ工場の立ち位置から述べさせていただきます。
まず、再造林の話題を多く提供してきていますが、私たちの住む大隅地域における再造林率は、4市5町のデータでありますが、令和元年度に主伐面積656haに対して再造林面積276haの42%であったものが、令和3年度には主伐面積670haに対して再造林面積457haの68%と改善してきています。このことから、官民一体となった施策の効果がでてきていると言えます。しかしながら、大隅地域の林業成長産業化の実現に向けて根幹となる資源の循環利用を図るためには、継続して更なる再造林の推進が必要です。私たちおおすみ100年の森では、経営計画林での施業にも取り組んでいくのですが、経営計画から外れた白地部分の施業にも取り組み、将来的には、その林分を経営計画林にしていきたいと考えています。そういった手のあまりはいっていない林分から出材される木材は低質材の割合が高くなってしまいます。その低質材の利用については、大隅地域ならではの志布志港から東アジアへの輸出や、木質バイオマス燃料チップへの利用を始めとして、将来的には、セルロースナノファイバーや工業用リグニンへの利用など多種多様な利用方法があり、森林整備を実施した中で出材した木材の利用に不安はありません。
ここまでは、素材生産の立場としての意見でしたが、チップ工場としての意見を述べさせていただきます。令和5年6月現在、昨年度に比べると木材の単価は下落傾向にあります。それでも大隅地域では、木質バイオマス燃料チップを製造するための低質材の価格は高止まりしています。需要の高まりからの状況だと考えていますが、さらに、志布志市に低質材を利用する大規模な工場が2025年稼働予定となっています。その需要に供給が対応できなくなった時、激しい価格競争が巻き起こるのではないかと心配しています。私個人としましては、おおすみ100年の森が森林整備を実施した中で出材した木材を用いて、工場を稼働し続けていきたいと考えています。
おおすみ100年の森では、森林を木材生産林としてだけではなく、木育を中心とした森林の利用方法あるいはオフロードバイクの競技場への利用等話し合っています。そういった事でも、地域の方々を中心とした一般の方々に森林と触れ合ってもらい、森林の良さを PRしていきます。そのことで持続可能な森林「おおすみ100年の森」を実現していきたいと思います。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
具体の話を書いていただき、ありがとうございます。
森林からの木材は、真っ直ぐや曲がりの少ない建築用材に使われるものと同時に、燃料材や工業用の原料材となる材(曲がり材や死に節だらけの材、虫食いや腐れのある材)も出てきます。それぞれにできる限り高く売れるように需要に対して供給がちょっと少ないくらいが丁度良いわけですが、なかなかそう上手く出荷できるわけではありません。
そうならないよう需要に合わせて生産するためには、山の木々から建築製材用材、合板用材、工業用原料材、燃料材向けの丸太がどれくらい出されてくるのかを主間伐で見積もって、需要に合わせて伐採個所を決めて生産していくことが無理無駄を出さないために必要です。単に材積だけでなく、LiDARと言われるレーザー計測技術を使った生産丸太の用途別の材積を見積もることができる資源把握が重要になっていくでしょう。森林経営計画を立てる際にも、このデータは基本中の基本になるものと思っています。
でも、このような資源把握のコスト、分別出荷のコストはかなりかかることになるでしょう。お話のように大雑把に手入れが悪い山では燃料・原料材用はこれくらい、合板用はこれくらい、手入れが良い山では…と経験値が高ければ大きな外れはないかもしれません。
実は、このような計測技術が普及していく前には、丸太が安くてもその生産コストがもっと安ければ良いのであって、コストをかけて精密な資源把握と出荷工程、その人材育成・確保を行うよりも、とにかく大雑把に一定径級以上のものは合板用に機械的に4mに採材すれば良いのではないか、合板工場に荷下ろししたときに直材だけを仕分けることも場合によってはできるのではないかと考えたこともありました。でも、みんながそうしてしまうと製材工場は丸太調達が難しくなりますし、そもそも働く人は面白くないでしょう。合板工場の稼働に運命を委ねてしまうリスクもあり、施策としてその方向は進めませんでした。しかし、施策と個別の経営やサプライチェーンは異なります。個別の経営ではそのようなやり方が可能だと思っています。そのうちに、曲がりの判定もプロセッサなどの機械がサポートしてくれて山元で精度良くできるようになるでしょう。
他人と同じことをやるばかりでは、商売はじり貧になります。真似をする者(競争相手)も増えてきます。他人がやらないことをやらなければ商売や技術などは発展せず、多様化する人口減少時代のニーズをとらえられない、と考えることも大事です。