□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第34回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて(3)森林資源のデジタルデータ活用への道
前回まで私のキャリアの半分、森林情報デジタルデータ化(境界明確化)と地域森林の集約化に傾倒するまでを紹介しましたが、その間に広域合併により所属が北信州森林組合となりました。結果的には、一時的にせよ世間から注目される「動ける組織」になりましたが、森林組合の合併あるある話、ご多分に漏れずしばらくは一体感のないままでした。
相変わらず機関造林や市町村からの発注を、口を開けて待つばかり。保育事業が一巡する数年後には仕事は無くなることは目に見えているのに、自ら行動を起こすことはない。苦労を背負いこむ、先輩方には山ノ内支所の兄ちゃんがやっていることなど、なかなか理解してもらえなかったのも事実です。それでも、若い世代はなんとなく理解してくれたようでした。言われたこと、目の前のルーチン業務をこなすだけでなく、仕事を自分事にできると感じたのではないでしょうか。紆余曲折を経ながらも境界明確化(集約化施業)を専門チームで展開できるようになり、ことさら実感が湧きました。
森林情報インフラは、言うまでもなく自治体ごとに様々です。山林も地籍調査が完了し、必要に応じて提供を受けられる地域もあるでしょう。しかし、悔し紛れを交えて言えば、自分たちは境界調査のゼロスタートからで良かったと思っています。信頼関係をもとに森林所有者に代わり、自分事として森林経営ができるなんて、林業従事者冥利につきる、やりがいのある仕事にできたと自負しています。とは言え、何事も一筋縄では進みません。境界明確化をするばかりでは、単なるデータコレクターです。路網整備と並行した集約化施業を進めていったのですが、やればやるほど課題が押し寄せてきます。当時、林業関係者がうわ言のように発していた生産性の向上もしかりです。もっとも、単現場の瞬間風速的な生産性向上は意外と単純で、機械設備の整備と伐出作業チームの慣熟で成果が見えてきます。しかし、人工林における木材生産は製造業です。無闇に生産性向上を煽り、作業リスクを増大させるのではなく、生産設備として投資した林業機械の最適稼働を図ることが肝要ですが、条件が見えづらい森林では課題が多くあります。
森林情報をデジタルデータ化したと言っても、境界情報だけでことは進みません。収量予測など作業計画にまつわる情報、これまで頼ってきたベテランの脳内データはもうそこにはありません。かくして若者たちの力で成し遂げるため、後に北信州森林組合の名を世に知らしめることになる森林資源のデジタルデータ活用の模索が始まったのです。次回はその初期の事情についてお話します。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
森林組合の経営の一般的問題として、理事のなり手が乏しくなって名誉職的になっており、毎年、組合が赤字にならないようにすることを目的として経営判断することになってしまったことがあります、そのため、新しいことに取り組むことに腰が引けていて、将来のための設備投資、人材投資なども、補助金があればまだやってくれるかもしれませんが、補助金がない限り手を出そうとしないという状況があると思っています。もちろん、新しいこと、事業への投資に積極的に取り組む組合もありますが、県営事業や林業公社の請負発注事業、水源林造成事業の実行を中心に、組合員の山についての森林整備事業(造林・間伐)をこなすことで、リスクを取らずに事業運営をしているところも多いようです。全体としては、それらの公的機関の予算額に均衡的な事業の推移になっているように思います。
以前、若手職員が研修等で学んできた集約化、生産性向上の事業に取り組もうとしても、そんなことはやらなくて良いと経営層に判断されて否定されてしまって、やる気をなくする、鬱々としているという話もよく聞きましたので、北信州森林組合は組合員の森林経営のためという本旨に則った立派な森林組合であると思います。
組合員、林業就労者それぞれにお金が回るようにするためには、需要に応じた間伐材等木材の販売拡大、作業の生産性向上しか確実にやれる手段はありません。このために、集約化、機械作業を進めるわけですし、施業対象である森林の地理情報、資源状況の精度の高い把握(どんな木がどれだけ生産できるのか)が必要になってくるのです。そのような意識が必要なかった育てる時代からの脱却の先導者になってくださったことに感謝です。