□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第35回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて(4)森林デジタルデータによる「生産計画」へ
平成25年に大事件が起こりました。集約化と連携した林産事業が軌道に乗りかけた(と思っていた)矢先、パルプチップ材が事実上の受入れ全面停止。大手製紙会社の大減産が始まり再開の目途は立たないとのこと。さらに、順調だったはずの合板用材も納材制限がかかり泣きっ面に蜂の状態。こちらは、ロシア材の輸入目途がついたため、立場の弱い(元来あてにならない)国産材は後回しになったためでした。
現場からは丸太がどんどん出てきます。「山土場は満杯です、どうすればいいんですか」と現場担当から悲鳴があがるも、「もう少し待ってくれ」と言いながら苦笑い。もっとも、苦笑いの先には当てがありました。こんなことを想定していたわけではないのですが、遊休施設を中間土場にすべく改良工事をしている最中だったのです。ほどなく、工事は終了しパンク寸前の現場から雪崩のごとく丸太が運び込まれました。「壮観だな」山のごとく積み上がった丸太を見て感心したのも束の間。どうにかして売り捌かなくてはと、どんより心が曇った時のことは今でも忘れません。丸太を捌ききったのは、その半年後のことでした。
何であんなことになったのだろう?などと考えるまでもなく原因は明白でした。急な受入停止も、そもそも「あれば買います」「あれば納めます」程度の緩い取引形態だったので文句も言えません。さらには、収量予測が稚拙なまま、労務と機械の稼働率を優先した生産計画がうまく機能するわけがなく、さながら自爆行為だったのです。
ほうほうの体でしたが立ち止まることはできませんでした。まずは、自らの生産活動の精度をあげるため、森林資源情報を計画に反映する試みを始めました。しかし、集約化による施業地は零細林の集合体であり多様な出自があります。旧来の地上調査では、膨大な人的コストがかかります。さらには、属人的なバラツキなど精度も期待できません。試行錯誤を続けたものの、森林境界の位置情報(デジタルデータ)との親和性の低さが決定打となり匙を投げる寸前でした。
ところが、レーザ計測の技術情報が舞い込み状況が一変します。レーザ計測点群の解析により、地形だけでなく単木レベルで森林資源情報もデジタルデータとして活用が可能になるというのです。当然、位置情報も付帯しているので、森林GISのデータソースとして森林境界と融合が可能になる。当時は、実務での活用事例がまったくなく、解析データの信憑性を担保するものはなかったのですが、確信めいた閃きがありました。
はたして、航空レーザ計測点群解析による森林資源データを手中にしました。相応のイニシャルコストは要しましたが、GIS上で自在に森林資源データを抽出できるなんて夢を見ているようでした。データの精度に関して現在でも意見は様々ですが、現場臨床によりキャリブレーション(誤差の原因把握)を行い、実用に足ることが判明しました。少なくとも、地上調査では樹高の見立て(計測らしきこと)が劣悪だったことを考えると、まさに天と地の差でした。
リアルデータによる生産量計画を手中にしたことで、生産計画、工程管理の精度が各段に向上し、俗にいう「計画生産」を可能にしました。しかし、「計画生産」というワードは魔物でした。また新たな取組みへと仕向けられることとなったのです。
次回は8月から、後半部分を連載します。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
今回は、森林資源のデジタルデータ活用の初期の話です。立場の弱い国産材林産業者は、市況に翻弄されます。生産能力が高いほど市況の影響も大きく、しかも、零細林の集合体である集約化施業団地は多様な出自があります。
一般に地上調査では、樹高の誤差が大きく、サンプリングのプロットの取り方にもよって材積の見立てもかなり不正確ではないでしょうか。経験を重ねた属人的な修正に頼っていては森林所有者との信頼関係も構築できません。
航空レーザ計測点群解析による森林資源データを手中にしたことで、地形だけでなく単木レベルで森林資源情報もデジタルデータとして活用が可能になり、GIS上で森林資源データを抽出できるようになりました。このことにより、生産計画、工程管理の精度が各段に向上し、森林経営の下地ができました。この先、経営判断が大事になると思いますが、一方で中間土場が様々な面で威力を発揮することになると思います。中間土場は、効率的な輸送によるコストダウンだけでなく、供給先の選択肢を広げます。