□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第41回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて森林経営を担う組織へ
北信州森林組合 堀澤正彦
ダラダラと書いてきましたが、とうとう連載の最終回です。タイトルが「森林組合の行方」なのに一言も書いてないだろうと、呆れながらも読み続けてきた方はお怒りではないだろうか。恐々としながら書き続けここまで来てしまいました。
さて、森林組合の行方。これからどうしたら良いのでしょうか。一応、現役職員なのであまり過激なことは書けませんが、森林組合法だとか指導指針などの制限、はたまた森林組合とは的な精神論は抜きに、個人的な妄想を書き留めたいと思うしだいです。
森林組合といっても全国津々浦々で立ち位置は様々です。知らないことも書けないので、私が対象とするのは、もちろん自身が関わってきた零細林の集合体の地域についてです。結論としては、所有と経営の分離を進めて、可能な限り森林組合が森林経営(林業木材作業以外の企業との連携含む)を行うべきだと考えています。拡大造林で造成された零細人工林の多くは、そもそも経営と呼べる状態ではなく、所有者任せではお手上げなのは明白です。もっとも、自治体主導の森林経営管理制度があるのではとか、経営に適さない林分はどうするんだとか、森林組合でどれだけ面倒見られるんだなど、突っ込みどころは満載ですが、そのあたりは別の機会に言及できればと思っていますのでご容赦ください。
だから、集約化をして施業委託で整備を進めてきたのですが、現在の森林経営計画制度に至る振興策は煮詰まりつつあります。集約化による施業委託では、対所有者、申請関係の手続きに忙殺されることが常態化しています。さらには、そもそも経営をしていないとか、事実上所有さえも放棄した零細林の所有者をいくら後押ししてもそうそう変わることはありません。昨今、皆伐後の造林未済が問題になっていますが、単純にコストの問題だけでなく、気持ちの問題も大きく影響しているのは言わずもがなです。自爆めいた発言をすれば、集約化による施業委託が所有者の無関心を助長したのではと思うこともあり、この後始末をする責任を感じています。
どうすればよいのか。繰り返しになりますが、所有と経営の分離により、森林組合が森林経営をできるようになれば良いのです。御用聞きや補助金制度運用の達人として生きながらえるのではなく、しっかりと需要に向かって動ける組織になり、森林所有者の肩の荷を降ろす必要があります。
そこで重要になるのが、林業サプライチェーンです。この先、住宅需要の先細りは顕著になると予想されています。施策ありきで漫然とプロダクトアウトの木材生産を続けても手詰まりになるのは明白です。建築材、近未来の他用途のどちらにしても一方的な丸太(原料)生産ではなく、付加価値製品までつながるプロジェクトの垂直統合型調達システム、森林と需要が透明情報でつながるマーケットインの生産を目指すべきです。
難しいとか馴染まないとかの否定論もあると思います。しかし、個人的には近い将来にそんなことを言っていられない状況になり、森林組合は行方不明になってしまうのではと危惧しています。そろそろ抜本的な変革が必要な段階に突入していると思う今日この頃です。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
拡大造林で造成された零細人工林の多くは、そもそも経営と呼べる状態ではないとのことですが、造成した当時は30万人はおられた林業従事者が毎年40万haの植林をして、少なくとも下刈りまでは手入れをしていました。しかし、若手労働力が都市へ流れるようになり、育ってきた間伐材は低質で売り先もなく、搬出に手間ばかりがかかって、手入れ放置林も増えていきました。折角ここまでたどり着いた人工林をどう面倒を見ていったらよいかとなると、一筋縄では行きません。まさに突っ込みどころ満載です。森林経営管理制度は特効薬ではないにしても、どう活用していったらよいか、地域ごとに知恵を絞っていかなければなりません。
集約化による施業委託が所有者の無関心を助長したのではとのことですが、集約化できたところは所有者とのつながりができて、一度は間伐し、最低限の道が入っていると思います。この団地にこれから血を通わすことにより、例えば長伐期施業を前提に、択伐に近い高齢林間伐の繰り返しによって林分の資産価値を高め、低コスト高収入の林業を模索していくことも可能になると思います。このとき、森林所有者の関心を呼び覚まし、自立をうながすことができれば良いですが、できなければ、所有と経営の分離により、森林組合が森林経営を担っていくようにしても良いと思います。堀澤さんは、自問自答を繰り返した結果、「需要サイドに立って、付加価値製品までつながるプロジェクトの垂直統合型調達システム、森林と需要が透明情報でつながるマーケットインの生産を目指すべき」という先導者としての気づきに到達しておられます。森林組合がマーケットインという売り手側の立場に立って活動できる組織に生まれ変わり、施業団地から恒常的に利益が生まれるようになると、森林所有者には配当を配るイメージになるかと思いますが、ここで、森林所有者はなぜ森林を所有するのかという目的や意義を問い直す必要があると思います。森林に補助金がある以上、森林を所有する責任と義務もありますので、森林を地域の宝にしていくことを関係者間で議論していかなければなりません。資源を持っている者は強いです。需要の選択肢を増やしながら、次のステップに向けて歩み出していただければと思います。