□ 椎野潤ブログ(堀澤研究会第3回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「山側の情報活用」
堀澤正彦
昨今、住宅着工件数の落ち込みが話題に上がっています。製材業者も影響を受けているのは言うまでもありません。九州地方のとある森林組合が製材事業を停止したとのニュースも耳にしました。半面で素材生産量はさほど落ち込みはあまりなく、私が所属する森林組合も年次ベースで例年並みの生産量となりそうです。しかし、販売先のやりくりは複雑化しています。
これから先はどうなるのでしょうか。労働人口の減少などの社会情勢の変化は続き、普通に考えれば住宅需要はシュリンクし続けるのが自明だと思います。そのような状況下ですが、木村司さんが10月8日の寄稿で、輸入量が減少しているSPFの代替としてスギ2×4材の普及への期待を書かれています。また、中大規模建築の木質化の普及など、これまでとは違った需要も着実に伸長しているので、ひと先ずはそこに対応できるよう生産システムを工夫する必要がありそうです。
先日、北陸地方にあるエンジニアリングウッド製造工場を訪ねました。物件ごとのラミナ使用量は膨大で、スギ材も調達の容易さから多く使用しているとのことで期待を持ちましたが、話はそう簡単ではありません。すべてが受注生産で当然ことながら見込みで生産をすることはなく、ジャストインタイムの部材供給が必須です。そこで、考えさせられるが我々川上側の立ち位置です。漫然とプロダクトアウトの素材生産を続けて、需要とのマッチングを量でカバーし続けるのか、それとも工業製品のセル生産のように小回りの利いた生産システムを考えるのか。二者択一ということではないのですが、少なくとも意識を変える必要があります。
そこで、あらためて考えなくてはならないのは、山側の情報活用の重要性です。高精度なデジタル森林データが普及してきましたが、多くは机上の管理に活用するにとどまっています。我々も作業管理をするための生産計画に活かすところで足踏みをしているのが現実ですが、建築規模の大小にかかわらず、川下(建築データ)を川上(森林データ)に情報を遡上させて、最適採材された素材として流下する仕組みを具現化することが急がれているのではないでしょうか。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
大量に乾燥材製品として輸入される外国産材の強みは、豊富な在庫によって需要に即応できる供給体制でした。それが、国産材より高くても、需用者に選択してもらえる重要なポイントだったと考えています。もちろん材の強度といった理由もありますが、欠品を起こさないということが、今の商売の環境で最も重要と言ってよいのではないでしょうか?先ごろのウッドショックはその強みを挫いた大きな出来事でした。その後、もう欠品を出したくない商社は過剰反応し、需要の見通しに安全を見越した量のRW集成材、WW集成材を高値でも構わず輸入しては不良在庫を作ってしまい、損切りするようなことを続けているように見えます。そのたびに価格は上下します。カナダからのSPFのみならず外国産材の供給は安定性を欠くようになったと感じています。しかし、彼らは、商社の使命として、欠品を出さないために需給ミスマッチのリスクを取って商売をしています。
残念ながら、普通の国産材事業者では、この輸入商社のようなリスクの大きな商売は望めません。では、どのように需給ミスマッチのリスクを回避するのかが課題です。
苦しい時代を過ごしてきた国産材事業者は、在庫を持たないことで事業をスリム化、合理化してきました。ウッドショックの際には、そのことが足かせとなって国産材供給をタイムリーにできず、シェア奪取のチャンスを逃してしまいました。そして社会の要請に応じて国産材製品の供給を増やそうとした事業者は、その後長く続く住宅不況で大量の在庫を抱えてしまい大損を被りました。このため、今も、大きな在庫を確保するリスクを取るということはできていないと思います。
在庫を多く持たずに需給ミスマッチを起こさない供給をするためには、お話のように、川下の需要(建築だけではない)から情報を遡らせた供給、加工、生産つまりディマンドチェーンを繋ぎ、タイムリーに供給することを目指しましょう。
でも、今、山にある木はすぐに変えられません。林業は究極のプロダクツアウトの世界です。その中では、材長や材径を需要や売れ筋に合わせるといった最適採材を徹底する方策は必要不可欠です。
しかし、それだけでは、需給ミスマッチの克服には多分不十分でしょう。
更なる方策、取組を考えてみましょう。堀澤様には、もう答は出ているのではないでしょうか。