林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年9月(№36)
□椎野潤(続)ブログ(247)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その5) 九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(1)林業と国産材を復活させる活動 2020年9月18日
☆前書き
今日のブログは、前回(その4)の続きです。今回は、2004年春から実施した、九州木材ロジステティクス改革プロジェクトについて述べます。これは、2005年執筆した著作、「生きていると地球と共生する建築生産(参考資料1、注1)」から引用して記述します。
☆本文
[杉と杉の生産者の復活]
九州の建築市場(けんちくいちば)が連携して、林業と国産材(杉)を復活した活動(これを「九州木材ロジステティクス改革プロジェクト」と呼ぶ)を、2003年に具体的に開始しました。これは国産材(杉)を再生させるため、「杉が北欧のホワイトウッドに負けていた諸要素」を大幅に改善し、立木価格を復活させたプロジェクトです。
具体的には、品質保証、品質・コスト情報の透明性、調達の確実性と容易性、流通コストの改善とあわせて林業における杉生産の経営再建を目指し、その頃、5,000円/まで下落していた立木価格を、15,000円まで復活させることを目指していたものです。そのために、木材のロジスティクスを大改革し、サプライの連鎖の上にいる関係者が連携して、全体最適をめざしたサプライチェーンマネジメントを実践しようとしていました。
このプロジェクトが、国土交通省の支援による建設業振興基金の公募で採択されました。受託者は、九州広域建築市場CADセンター連合会(会長、高橋寿美男)でした。以下その実験の目指していたところについて述べます。
[顧客起点サプライチェーンマネジメントの実現]
このプロジェクトが目指していたところは、顧客起点サプライチェーンマネジメントの実現でした。その流れを見てみます。まず、顧客の建てたい住宅が確定すると、その住宅を構成する柱、梁、大引、根太、垂木などの構成部材の寸法、形状、数量が、CADで明確に示され、これがTDI(注2)のデータ(技術情報伝達データ)に変換され、納品の2カ月前までに、素材生産者の伐採者へ送られます。
伐採者は必要な立木を必要なだけ伐採し、ただちに、製材所へ運びます。ここで燻煙処理し製材し人工乾燥させた木材は、グレーディングを実施し、強度、含水率などを計測し表示した上で、ブレカット工場へ搬入します。搬入された木材はプレカットされ、建築市場の工事現場へ搬入されます。
これは、当時、先進的な製造業で、すでに始まっていたビルト・ツウ・オーダーによる無在庫生産であり、途中の商流・物流は最小になっていました。筆者が提唱していた「顧客起点サプライチェーンマネジメント」の実践でした。これにより、流通・物流コストは極限まで削減され、品質の保障、品質・コスト情報の透明性、調達の確実性が担保されていました。
☆まとめ
[鹿児島におけるビルド・ツウ・オーダー生産]
鹿児島建築市場では、鹿児島県肝属(きもつき)郡根占町にあるベネフィット森林資源協同組合(以下、ベネフィット)と共同で、このビルド・ツウ・オーダーの体制を構築しようとしていました。
鹿児島のCADセンターで作成された木材の寸法別数量データは、ベネフィットのコンピュータへ、製品納入の60日前までに電送されていました。ベネフィットでは必要とする材の構成から材寸法(製材寸法、長さ等)別の数量を判断して、同郡根占町、田代町の山主に、携帯電話のメールで発注していました。山主はただちに対象材をとる立木を選定し、間引き伐採をします。
所定の長さに切断された丸太は、ベネフィットの製材工場で製材、人工乾燥、含水率・ヤング係数の計測と印字の過程を経てグレーディングが保障され、乾燥材として鹿児島市内のプレカット工場へ運ばれます。そして、プレカットされた材料が、建築市場の工事現場に運び込まれるのです。現場に運び込まれ建て込まれた木材には、産地、強度、乾燥度が表示され、トレーサビリティが確立していました。(参考資料1、注1から引用)
(つづく)
(注1)参考資料1、pp.111〜115。
(注2)TDI(Technical Data Ineterchange):作られる製品(ここでは建築物、部材・部品)の内容を示すデータを、CADデータから変換する仕組み。
参考資料
(1)椎野潤著:生きている地球と共生する建築生産、日刊建設工業新聞社、平成17年月7月27日。
[付記]2020年9月18日、椎野潤記