□ 椎野潤ブログ(金融研究会第二回) 生産者と消費者
文責:角花菊次郎
生産者と消費者。どちらの立場が強いのか。
経済のグローバル化、高度消費社会という文脈からすると購買という経済行為の最終ジャッジを行う消費者は市場への影響力が極めて強そうに思われます。しかし、情報の非対称性と呼ばれる生産者と消費者との間の情報断絶を利用され、消費者は企業から高い値段で粗悪なものを買わされてきたという面もあり、弱い立場にある、とも言えます。高度経済成長期の消費者運動から生まれた生協(消費者生活協同組合)は、弱い消費者が生産者と助け合いながら自分たちの求めるモノを共に作り出そうという活動でした。
一方、生産者も大手流通業者や加工メーカーなどから大量・安定供給が要求されるようになってきました。これは小規模生産者にとっては死活問題です。特に農業分野などでは農業経営体の2極化が進み、小規模な経営体は減少し、大規模な経営体は農地の拡大を進めました。販売方法も農協を通したものが減少する中で消費者への直接販売や農協以外の集出荷団体への販売が増えました。流通を変える必要があったのです。
生産者は相場と規格で価格が決められる市場ではなく公正な対価が得られる市場にアクセスしたい、消費者は企業から押し付けられたモノではなく自分の気に入ったモノを買いたい、つまり、双方に選択肢が必要とされているのです。選択の機会を用意できなければ供給と需要の関係が不安定になるとも言えそうです。
もちろん、ここでは流通事業者の存在も重要です。中間マージンを取って儲けていると批判されるだけでは悲しい。魅力的な商品を発掘してその良さや生産者の意気込みを消費者に伝える、消費者が望む商品や購入した商品についての感想を生産者に伝える。こうした仲介機能を担うことが流通事業者の存在意義となります。
では、林業・木材産業の世界で生産者と消費者の関係はどうなっているのでしょうか。「山元に利益を還元」する方法はないか、と国を挙げて取り組んでいる現状からしても生産者の立場は弱く、消費者の立場は強いと言えそうです。いや、消費者ではなく、製材・加工・卸売りといった中間事業者の立場が強いと言った方が正確でしょう。買い手市場から売り手市場への転換。生産者が適正な価格で立木を売ることができるように、流通を変え、消費者と直接結びつく仕組みを考えていかなければなりません。もちろん、生産者も消費者もどちらか一方の立場が強くなると歪みが出て全体構造が崩れるので注意が必要です。世の中、「均衡」を保つことが何より大切だと思います。
以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
消費者の需要に応じて、求められるものを安定供給することが生産者には必要となります。強弱で表すことは難しいですが、自由経済の世の中ですから、どちらに選択の自由度があるかという尺度で考えてみましょう。現在の林業の場合、その生産物である木材は、食べ物と違い、消費者の必須の度合いが異なります。また、消費者は木材以外のモノを買い使う選択肢があります。一方で、生産者は自然という逆らい難いものに左右される立木という資源に依存しています。明日の需要のために、今日植えて育てることもできません。現代では、選択の自由度が狭くなっている林業の生産者にとっては消費者の需要に合わせることが難しいことから、自由度の高い消費者が強いという関係性になるものと思います。
生産者にとっては、林業の生産物や生産時期の選択肢を広げるとか、消費者が欲しがる度合いを高めるようにマーケティングを努力することにより、立場の強弱を均すことができるのではないかと思います。
追伸
おおすみの皆様をはじめ、台風の襲来を受けた方々、お見舞い申し上げます。大きな被害になっていないことをお祈り申し上げます。