林業再生・山村振興への一言(再開)
2020年11月(№47)
□椎野潤(続)ブログ(258)森林パートナーズ 俄かに活性化 スタートアップ続々参入(その2) 2020年11月3日
☆前書き
このブログは、前回の続きです。伊佐さん訪問中のスタートアップについての報告(その2)です。以下、小柳さんからの情報を引用させていただきます。
☆本文
[森未来の浅野純平さん]
森未来の浅野純平さんとは、森林パートナーズ設立当初から情報交換をしております。木材コーディネート集団として全国の製材所、材木店などの木材屋とのネットワークをもち、設計者やインテリアデザイナーの要望に応えております。インターネット木材市場「eTREE」というプラットフォームを開発し、木材情報をデータ化することで木材の「買いたい−売りたい」をマッチングしております。最近では「eTREE DASH」
というサービスを開始し、ますます建築家たちに木材を、身近に感じてもらう取り組みを始めております。
[ぎふフォレスター協会の小森胤樹さん]
郡上エネルギー、ぎふフォレスター協会の小森胤樹さんは、民間フォレスターとして森林経営監理の整備を手掛けている熱いお方で、色々と情報交換をさせてもらっています。全国で民間フォレスター組織が形成し、それを統括する全国組織がおこるようなコンサルティングをされて全国を飛び回っておられます。
[ウッドステーションの塩地博文さん]
在来木造の大型パネルを提供するウッドステーション株式会社の塩地博文社長はとてもまっすぐな方という印象です。図面CADソフトと連携する仕組みを構築し、受注から納品までのITによる一元管理を行い、高品質化、スピード化、省力化を図り、木造在来工法の工務店、住宅会社の負担を大幅に軽減しております。伊佐ホームズの設計の立場として、何度か打合せを致しましたが、かなり細かい要求にもお応えできるようで連携できるのが楽しみです。
そのような多くの方々とお会いして参り、いよいよ森林パートナーズが持つ、消費者の声を代弁する工務店の需要情報による木材流通の出口戦略が大事であると確信し、この皆様とも連携しながら益々山、森林の資源活用を拡大して行きたいと思います。
小柳雄平さんから、伊佐ホームズ社を訪問中のスタートアップ達の立派な報告文をいただきました。今日も、これに沿って、ブログを書きます。
☆まとめ
森未来の木材通販サイトに、私は強い関心を持ち、2019年1月2日に、ブログで紹介
しました(参考資料2)。でも、それから、すでに1年半を経過しています。多分進化しているだろうと思い、浅野純平さんに電話したのです。すると、丁寧なお便りをくださいました。以下に引用させていただきます。
[引用]
[森未来 浅野純平さん]
森未来の浅野です。前回、2019年1月にブログに掲載頂いてからの経緯を説明します。インターネット木材市場「eTREE」は、2018年11月にリリースしました。私は前職にてECの経験も多かったため、オーソドックスにページビュー(PV、注1)を増やし、購買率を上げていけば売上は伸びると考えていました。
まず、PVを増やすために、自社サイト以外にヤフーショッピング、ヤフーオークション、メルカリなども使いました。ヤフーオークションでは、1円スタートのオークションも行い、それなりに売上も上がりました。購入して頂いた方には全員ヒアリングしました。その多くがDIYユーザーで、どちらかと言うと安く木材を手に入れたいという方が殆どでした。
また、ヤフーオークションの木材市場を調べてみると、(記憶が定かではないですが)月間数千万円程度の取引実績でした。このB2C市場(注2)の中で、戦っていくのは厳しいのではないかと考えている中で、私個人には、多くの建築家や設計士から、木材の相談や調達の依頼ありました。
そこで、改めてB2B市場(注3)にターゲットを絞り調査を開始しました。設計者十数名へのヒアリング、展示会の出店などを通し、「設計者の木材ニーズは一定ある」と判断しました。深掘りしていくと設計者の木材に対するニーズは、以下3つに集約されました。
(1)木材のコンサルティング〜自分の設計にどんな木材を使ったらよいかアドバイスして欲しい
(2)素早い見積提出〜建築は時間勝負のため、1日も早く見積もりを出してほしい。現状の材木屋では1週間以上かかることもざらにある
(3)木材サンプル〜材料決定までに、オーナーに必ず木材のサンプルを見てもらう必要がある
そこで木材サンプル送付に特化した、eTREE DASHを7月にリリースしました。木材サンプルをきっかけに、木材のコンサルティング、見積取得に繋げていく狙いです。7月のリリース後、順調にサンプルオーダーを頂いており、狙い通りの結果となっています。一方で、サンプル送付後の、営業〜受注までのプロセスは、全てアナログであり、非常に手間がかかります。今後は、ここをIT化させていくつもりです。
見積りを素早く出すには、当社自体に木材のデータベースを保有しなくてはなりません。データベースは2種類あります。1つ目は、一枚板データベース。一枚板データベースには、全国の材木屋の在庫木材の、価格、樹種、寸法、状態データを頂いています。現状収集中で、数万点のデータを集めていく計画です。2つ目は、規格品データベース。日本全国のメーカーのフローリングや羽目板などの、樹種、寸法、等級、仕上などの情報と、設計価格、施工価格などの価格情報も頂いています。これを集めるのが非常に難儀ですが、現状で50社数千店の規格品データを頂いています。これらのデータを整理して、WEB上に公開する予定です。
そして、プロの方は、卸価格(施工価格)が見れ、見積も即時取得できるシステムを検討しております。現状は、水面下で動いており、木材業界、設計者、林野庁などの行政から、幅広くご協力を頂きたいと思っております。椎野先生からも、是非、お力添えを頂けるとありがたいです。
このシステムができれば、日本全国に眠っている木材在庫のデータ、どこになにがいくらあるのかわからない木材製品のデータが一目でわかり、設計者が木材を使うためのハードルが非常に低くなります。
私は、ビジネスの視点で、建設業界から木材を選んで頂けるようになるよう、木材の品質や価格競争力をもっと高めていかなくてはならないと思っています。さらに、当社の持っている木材データベースを広く設計者に知ってもらうために、マーケティングも重要になります。まだまだやる事は山積しておりますが、経営者は実行しなくては意味がないので、必ずやり遂げます。新システムは、2021年2月にリリースする予定です。是非ともご期待頂ければと思います。(浅井純平からの手紙)
[ウッドステーションの塩地博文さん]
ウッドステションの塩地博文さんの活躍にも、強い関心を持ち、5回もブログに書いています(参考資料3〜7)。この昔ブログを読んで、今日のブログを書こうと思ったのですが、既に、一年〜一年半が経過しています。先進的に未来を見て、経営を進めておられる塩地さんのことですから、もう大分進展しているだろうと思いました。そこで、最近の状況をお聞きしたいと、お電話しました。その結果、沢山の資料をいただきました。
研究開発が、凄く進んでいるのに感動しました。この中でも、早稲田大学創造理工学研究科 建築学専攻 環境メディアの鈴木奈実さんの修士論文、「原木価格の適正化に向けた木造住宅のサプライチェーンに関する研究(参考資料8)」は 、凄い論文でした。高口洋人先生のご指導のもと、膨大な調査を積み重ねた大変な力作です。ここでは、以下の結論を示しています(参考資料8、注4)。
(1)サプライチェーンマネジメントの実施による、原木市場、製品小売業者、木材卸売業者など、中間流通の省略、在庫費、金利の削減により木材の原木立方メートル当たりのコストを、7,200円削減できることを示しています。
(2)ここで、流通合理化では、製材立方メートル当たり14,092円削減できます。これを原木立方メートル当たりに換算すると、7、046円になります。
(3)これに在庫と金利の削減可能額154円を加えると、原木立方メートル当たり,
7、200円の削減になります。
(4)このほかの調査で、現状では林家は、現在受け取っている木の売却費で伐採後の育林を実施すると、原木立方メートル当たり7、457円の赤字になるとしています。
(5)サプライチェーンマネジメントによる削減額で、この赤字を補填するには、まだ少し不足します。でも、ほとんど、補填されます。
林家は、大型パネルを用いたサプライチェーンの構築により、育林費の殆どを受け取ることが出来るのです。塩地さんは、この結果を受けて、現在、大型パネルを用いた木造住宅作りで、林家に育林費を支払い始めています。
さらに日本は、人口減少、高齢化のもとで、木造住宅作りを支えてきた、高い技能を持つ大工が不足し、危機に立っています。塩地さんの大型パネル工法は、この危機に対する対策として決定的に重要なものです。この技術においても、大きく前進しています。これらについては、改めて塩地さんに、最近の研究開発の状況を執筆していただき、別ブログで報告したいと考えています。
[ぎふフォレスター協会の小森胤樹さん]
郡上八幡の小森胤樹さん(参考資料9〜11)が、神楽坂に来てくれました。小森さんは、今、サステナブル フォレスト アクション(SFA、注1)の活動に力をいれています。これは林業人と独自の技術ノウハウを持つ異分野の人材をマッチングさせるプログラムです。
いろいろな人が応募し、採択された11団体が活動しています。小森さんが活動しているのは、「フォレスターの再定義とキャリア支援プラットフォーム」のグループです。小森さんは、このグループで活動することで、市町村の林務体制をバックアップする仕組みを作って行こうとしています。
小森さんは、今、市町村に、民間フォレスターを作る活動を進めています(参考資料9〜11)が、これを全国へ広げようと考えているのです。このSFAの活動により、全国への拡大が、スピードアップされると期待しています。
私は伊佐ホームズさんに、大勢のスタートアップが、何を求めて集まってきているのか、凄く興味を持っていました。また、この人達の参加で、伊佐ホームズさんが、どう進化するのかも、注目していました。小森さんに、このことを質問しますと「小柳さんが、民間フォレスター組織に入ってくれれば、もっと大きな活動になる」と言っていました。
伊佐さんの活動には、高い芸術性と深い日本文化があります。それだけに、他の人達が学ぶのは難しいのです。でも、集まってきているスタートアップ達が、これの全国展開を、急速にスピードアップしてくれるでしょう。伊佐さんの活動を全国へ展開しようと、基盤を作り始めている人達が、各地に現れ始めています。
小森さんは、異業種の作業員から、林業改革をめざして林業界入りし、今の仕事に到達しました。ですから、最初から林業一筋で来た人達とは、違った視点を持っています。私は、この視点が「林業再生と山村振興」の大きな「うねり」の起点になると期待しています。
(注1)ページビュー(PV):ウェブサイト内の特定のページが開かれた回数を表す。ウェブサイトがどのくらい閲覧されているかを測る指標。
(注2)B2C市場:ビジネス・ツウ・コンシューマー市場。
(注3)B2B市場:ビジネス・ツウ・ビジネス市場。
(注4)参考資料9、pp.4−16。
(注5)サステナブル フォレスト アクション(Sustainable Folest Action:SFA):林業現場を知る林業人と、独自の技術ノウハウを持つ異分野人材を、マッチングさせるプログラム。
参考資料
(1)小柳雄平著:森林パートナーズの近況、2020年9月30日。
(2)椎野潤ブログ:森未来の木材通販サイト DIY利用拡がる、2019年1月2日。
(3)椎野潤ブログ:日本の森林新時代 森林活用期 出発 林業〜製材〜家作りサプライチェーン・マネジメント構築 (その1) 新時代サプライチェーン・マネジメント構築の先導者 ウッドステーション、2019年1月6日。
(4)椎野潤ブログ:日本の森林新時代 森林活用期 出発 林業〜製材〜家づくりサプライチェーン・マネジメント構築 (その2) サプライチェーン・マネジメント構築の先導者 ウッドステーション(1) ウッドステーションの総合産業計画 プラットフォーム構築、2019年1月12日。
(5)椎野潤ブログ:日本の森林新時代 森林活用期 出発 林業〜製材〜家づくりサプライチェーン・マネジメント構築 (その3) サプライチェーン・マネジメント構築の先導者 ウッドステーション(2) 大工の高齢化と減少、生産者資源枯渇を乗り越えるウッドステーション、2019年1月13日。
(6)椎野潤ブログ:日本の森林新時代 森林活用期 出発 林業〜製材〜家づくりサプライチェーン・マネジメント構築 (その4) サプライチェーン・マネジメント構築の先導者 ウッドステーション(3) 大型パネル工法、その計画と実践:2019年1月20日。
(7)椎野潤ブログ:新たに参入 大型パネル事業 割り付け積算事業を拡大:2019年6月1日。
(8)鈴木奈実著:原木価格の適正化に向けた木造住宅のサプライチェーンに関する研究、早稲田大学 創造理工学研究科 建築学専攻 環境メディア 高口洋人研究室、2019年度修士論文。
(9)椎野潤(続)ブログ(240)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その1) 設立の必要性の確信、2020年8月25日。
(10)椎野潤(続)ブログ(241)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その2) 協会設立、2020年8月28日。
(11)椎野潤(続)ブログ(242)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その3) 目的とゴール、2020年9月1日。
[付記]2020年11月3日
[コメント]秩父ミューズパークの植樹に是非参加してください。
秩父ミューズパーク昆虫の森 「秩父FOREST」のプレ植樹祭
2020年11月14日(土)10時現地集合
なお、この大会に関連して、「秩父FOREST(伊佐裕代表)」についてのブログを、11月6日、10日、11日に、発信します。これをご覧になって、関心を持たれた方は是非、ご参加ください。