林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年1月(№66)
□ 椎野潤(続)ブログ(277) 新年おめでとうございます
2021年 夢多き 森林パートナーズ 秩父FOREST
2021年1月5日
☆あけましておめでとうございます 2021年1月5日 椎野 潤
2021年は希望に満ちた年になります。正月ブログの先頭は、伊佐裕さん、小柳雄平
さんのご挨拶です。
☆あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
2021年1月5日 伊佐 裕
小柳雄平
☆森林パートナーズ 秩父FOREST 2021年の希望 小柳雄平
「2021年は、森林パートナーズ(参考資料1、注1)にとって益々前進できる年になると感じております。森林の維持・再生という理念のもと、地域工務店、山主・林業家、製材所、プレカット工場が連携して、経済性の高い仕組みの実現を目指して「森林再生プラットフォーム」を構築しました。この「森林再生プラットフォーム」に、今、全国のスタートアップ・ベンチャーをはじめとする同志の協力と知恵が、続々と加わっています(参考資料1〜2)。2021年は、行政や研究機関とのパートナーシップ(産官学連携)を強化し、さらには消費者の方々との共感を深めていく年にして行きます。
推進する事業の具体的内容は埼玉・秩父における直営プラットフォーム事業モデルの深耕と高度化、他地域展開におけるプラットフォーム管理者育成とプラットフォーム構築の推進、住宅消費者・購入者との価値共感構築です。
.埼玉・秩父における直営プラットフォーム事業モデルの深耕と高度化
「森林再生プラットフォーム」は、以下を目指して設立しました。
(1)地域工務店が山元から直接原木を購入し、適正な利益を山元に残すという新しい商流の創造。
(2)木造住宅産業に関わる木材流通(林業―木材加工業―地域工務店)における出口の需要情報(木造住宅の構造・骨組みに必要な木材の数量・寸法情報)と材の加工履歴情報や価格情報を、参画者皆で共有するトレーサビリティシステム(注2)の構築。
(3)この透明性のあるフラットな産業連携によって森林を維持・林業を再生し、その経済性・収益性を持続。
この我々の仕組みは、今、全国から先進的モデルとして注目されています。我々は、この仕組みの精度をさらに上げ、高次元化するため、このプラットフォーム情報を他の様々な情報と連携させて行きます。
森林資源のデジタル情報化をすすめている角仲林業の山中さんと連携し、住宅需要情報と森林資源情報をリンクさせ、需要に伴った正確な伐採搬出を可能にします。角仲林業はすでに秩父の山の素材生産において、NPO法人蔵前バイオエネルギー(K−BETS)(注3)の原木集材の新技術を取り入れ、森林資源のデジタル情報をもとに効率の良い伐採ルートの選定を始めています。
また材のトレーサビリティを担保するICタグ(注4)、QRコード(注5)の情報処理を、ICT化(注6)・機械化し、回転率を上げ、住宅の図面情報がそのまま林業の素材生産に直結するように近づけています。
ウッドステーションの大型パネル(注7)、それを支える施工図ソフトウエア「WSpanel(参考資料6、注8)」との連携には、大きな期待を寄せています。これが実現すれば、木造住宅現場の施工性、品質、安全性の向上は勿論ですが、地域工務店で、計画する新築住宅物件の図面から、即座に必要木材数量が情報化され、そのまま山元に必要原木情報として届けることが出来ます。今年中に具体的に、是非、踏み出したいと考えています。将来的には図面情報を受け取ったIoT(注9)搭載の林業重機が、即その情報に即して伐採搬出まで完遂することになるはずです。
スタートアップなどとの連携による活動
木を伐った山には、また、その後の計画的な山づくりが必要です。百森(注10)の中井さんと連携することで、森林所有者自身では管理できないと諦めていた森林を集約化し、データを徹底的に取得し、このデータを基に、森林管理体制を整えます。その継続的にデジタル化された森林は、将来的は、住宅需要情報をもつ我々の「森林再生プラットフォーム」と容易に、連携することができるようになります。でも、現在は、伐ったら伐りっぱなしになっている林業事業体が多いのです。
この中で育林事業と森林づくりのコーディネートに力を入れている造林ベンチャー中川(注11)の中川さんとも情報共有し、伐採作業と育林作業を分担し、作業効率を上げ、経営計画をもつ育林をすることを進めます。これにより、林業従事者の教育期間短縮や、福利厚生の充実にもつなげます。なお、百森と中川が手を組んでGreenForesters(注12)を、2020年に設立しました。これとの連携も期待していす。
森づくりは、使用する木材を育てるための生産林だけではなく、天然林・環境林づくりも重要です。
一般社団法人第二のふるさと創生協会(注13)の植樹活動は、全国の神社仏閣にある「鎮守の杜」をモデルとした森づくりを進めています。貴重な生態系を維持し、災害から人々を守る森を作っています。生産林、環境林両方ともその地域に根差した、その地域の生態系を鑑みた森づくりをする必要があるのです。我々は此処とも共生します。
全国に先駆けて民間フォレスターを組織化した一般社団法人ぎふフォレスター協会(注14)の小森さんは、林業と他産業の連携を視野に入れたアドバイスを各市町村に実施しています。すなわち、その地域に張り付いて森林管理をするフォレスターを、育成する活動をしているのです。私は、その育成された地域のフォレスターと、「森林再生プラットフォーム」の管理者との連携によって、その地域の建築状況と森林状況を総合的に管理し、地域の発展と森林環境の維持を進めてして行きたいと考えています。
また資源データを駆使し、小規模な林業事業体を連携させて建築用材として使われる材以外の木材を、ある一定量のボリュームを確保し、大手合板会社や製紙会社と協定取引することや、大径木化したスギ・ヒノキ、その他の地域の建築仕上げ材を家具材としての活用の道を開きたいと、考えています。
さらに、木材マッチングのノウハウを持つ森未来の浅野さんとの連携によって木材の販売をするなど、森林資源全体の活用による山元への利益還元を今年から実行して行きます(参考資料2)。
埼玉県や秩父市の行政、また研究機関と協力して地域ごとの山元への利益還元のエビデンス(注15)や地域材の品質による規格を創り、地域材流通の価値を上げることも進めねばなりません。先ずは東京農業大学木材工学研究室との、「森林再生プラットフォーム」の他地域展開シミュレーションのための、埼玉秩父での直営モデルの成功条件を明らかにする共同研究を開始する予定です。
.他地域展開におけるプラットフォーム管理者育成とプラットフォーム構築の推進
現在、埼玉秩父で構築してきた当社のシステムが、先駆的なモデルとして、他地域からも注目されています。このほど、福岡県内にシステム供与の上、福岡版のプラットフォームを構築することができました。他の県、地方行政からも、お声がけ頂き始めています。ここでは、その地で持続的経営が成立するように、森林環境の維持、林業再生という理念を共有するプラットフォーム参画者を集め、産業連携を構築し、また木造住宅業界から林業、木材加工業を見渡せるプラットフォーム管理者を見出すことを目指しています。
山形県の金山町森林組合は林業の成長産業化を目指し、森林資源のデータ化やICT(注6)導入にいついて深堀している意欲のある林業事業体です。しかし、現状は、住宅のマーケット縮小に悩まされています。森林の状況が異なる埼玉秩父のモデルが、そのまま活用できるわけはありませんが、広域連携をするなどの知恵を出し合い、その地域で成立する「森林再生プラットフォーム」の在り方を、このような意識の高い事業体と一緒に、消費者・お客様のニーズに基づきながら構築していきたいと思っております。
先日、鹿児島県大隅町森田町長にお会いし、具体的な林業再生のための体制づくりが進んでいるとお聞きしました。そして前述のぎふフォレスター協会(注14)の小森さんとの連携が進んでいると聞き及び、さらに前進しつつあると推察しております。森田町長は建築業界にも通じておられるので、きっと、当社のプラットフォームの理解を柔軟にしていただき、鹿児島らしいプラットフォームのモデルを一緒に構築していくことができると期待しております。
.住宅消費者・購入者との価値共感構築
サプライチェーンをより豊かに価値のあるものにするには、消費者・お客様との共感づくりが重要です。木造住宅、建築の消費者、お客様の共感を得つつ、流通川下を拡大するための会議を、地域工務店、設計士の同志と始めております。特に木造の個人住宅を中心として木造保育園なども設計管理される設計者のアトリエフルカワの古川泰司さんとの出会いは誠に貴重な出合いでした。
古川さんは、国産、地域産の木を使い地域の森林を豊かにすることも設計者の役割であるという強い信念をお持ちです。美しい住宅を作られる古川さんのような設計者の方と連携することは、大きな喜びと広がりの可能性を感じています。その連携に応えられるようにプラットフォームを充実させたいと思います。木材の価値を高めるには、やはり美しい住宅づくりを進めねばなりません。
またSDGs(注16)が広く意識され始めている中で、公立の小学校で授業をさせて頂く機会も増えてきました。将来のお客様である小学校の生徒に、当社の取組みや木造住宅の良さを伝えていき、教育の面からも共感づくりをしていきます。
2020年に「秩父FOREST(参考資料3〜5、注17)」という団体を発足しました。秩父市の森林関係者のもとに通い続けたことで、森林関係者の山に対する先代からの思いを汲んで、伐った木材で建築するだけでなく、森林を整備し続けなければならない森の尊さに感銘しました。それで植林活動の募集を始めました。秩父産木材で建築された家に住む「家族」「子ども」に、この森林の尊さを将来にわたり理解してもらうための活動として、「未来につなぐカエデの森づくり(注18)」を5年ほど続けています。
この活動の延長線上に考え、さらにもっと多い都市部の人々に知ってもらいたいと、様々な団体に声をかけ、賛同してもらった複数の団体と、集まって出来たのが「秩父FOREST(参考資料3〜5、注17)」です。2020年11月にプレ植樹祭と称して、秩父市役所、秩父のNPO団体の方々の協力のもと、都市部から人々をお招きして植樹イベントを開催しました(参考資料5)。
このことに関しては、参考資料2、https://operationgreen.info/case_volunteer02/をご参照ください。今年は、そこから見えてきた問題を解決しつつ、より充実した地に足のついた取組を実践していきます。
秩父市役所および、地元秩父の団体との協議により事業計画を決定しますが、今年の春、秋には秩父ミューズパーク昆虫の森での植樹を通し都市部と秩父との環境交流を行います。この取り組みを徐々に広げることで、消費者の気持ちが森林に向かい、そしてその中から森林パートナーズの取組みへの意識も広げ、相乗効果として環境に貢献していくように努めてまいります。
昭和天皇がお詠みになった御製(天皇が詠まれた短歌)があります。
こりて世にいだしはすとも美しくたもて森をば村のをさたち
木を伐って木材として世間に出しても、それだけではなく美しく森を保ちなさい、村の長たちよ、という歌です。現代では、村の長だけでなく、木材の流通にかかわるすべての事業体、また消費者が力を合わせて美しい森を保っていかなければなりません。日本の森林環境を良くするのは、すぐに解決できるものではないと思われます。しかしそれぞれの地域、立場で皆が知恵と技術を持ち寄り、ひとつずつ問題を解決し、一歩一歩進んで日本の森林を豊かにして行きたいと考えています。2021年を、その出発点にしていくという思いを強くし、年頭のご挨拶とさせていただきます。」(「 」内は小柳雄平著作から引用)
(注1)森林パートナーズ:森林の維持・再生を掲げて伊佐裕が設立。本社、東京目黒区、設立2017年6月。
(注2)トレーサビリティ(traceability): 物品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄
段階まで追跡が可能な状態をいう。
(注3)NPO法人蔵前バイオエネルギー(K−BETS):再生可能エネルギーの活用や技術問題解決とその事業化に取り組む技術者集団。設立2006年3月。
(注4)ICタグ:構造はICチップとアンテナが組み合わされたもので、読み取り機の発する電波等を、
アンテナが受けて、その電波等を電気に変えICチップに記録された情報を無線で返すことができる。ICチップに記録された情報を活用することで、物品のトレーサビリティに活用することができる。
(注5)QRコード:1994年、自動車部品メーカー、デンソー(愛知県)の開発部門が発明したマトリックス型二次元コード。QRは Quick Response の頭字語。高速読み取りを目的の一つとしている名称である。
(注6)ICT(Information and Communication Technology)情報通信技術:情報や通信に関連する科学技術の総称。特に、電気、電子、磁気、電磁波などの物理現象や法則を応用した機械や器具を用いて情報を保存、加工、伝送する技術のこと。
(注7)大型パネル:あらかじめ工場において、構造材・面材・間柱・断熱材・サッシを一体化したパネル。従来のパネルと異なり、柱・梁などの構造材まで一つのパネルに組み込んであり、現場での組立ては通常の金物工法とまったく同じ。大幅な工期短縮等、数々のメリットが生まれる。
(注8)WSpanel:プレカット材の伏図と軸組図から、生産工場向けの施工図を作成するソフトウエア。
(注9)IoT(Internet of Things):モノのインターネット:あらゆる「モノ」がインターネットで接続され、情報交換により相互に制御する仕組み。
(注10)百森:「新時代の山守」としてテクノロジーを駆使し、所有者700名超の民有林および公有林を包括受託し、間伐や植林などの事業を展開。本社、岡山県西粟倉村、設立2017年10月。
(注11)中川:「木を伐らない林業」というテーマを掲げ、育林事業(植栽などの森林管理業務)を展開する。本社、和歌山県田辺市、設立2016年8月。
(注12)Green Foresters:株式会社百森の共同代表である中井と株式会社中川の創業者である中川によって設立。両社が保有する技術・ノウハウを結合することにより社会・地域に開かれた森づくりを専門で行う。本社、東京千代田区、設立2020年7月。
(注13)一般社団法人第二のふるさと創生協会:全国の祭りに、都会の人々などを手伝いで参加してもらい、地方創生の関係人口増加に寄与したいという思いから、2020年7月、一般社団法人として発足。事務局、東京世田谷区。
(注14)一般社団法人ぎふフォレスター協会:市町村の森林行政支援や民間事業体の森林監理のアドバイス、実行管理を行うことを目的に、岐阜県が認定する岐阜県地域森林監理士4名(内森林総合監理士2名)と森林総合監理士1名で設立した一般社団法人。本店、岐阜県郡上市、設立2019年11月。
(注15)エビデンス: 証拠・根拠、証言、形跡などを意味する英単語「evidence」 に由来する、外来の日本語。この場合は、経理処理のための証憑性を担保する請求書や領収書等を指す。
(注16)SDGs:「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。エス・ディー・ジーズと発音する。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標。
(注17)秩父FOREST:森林の尊さを都市部の人々に伝えたいと、伊佐裕が設立。事務局、東京目黒区、設立2019年。
(注18)未来につなぐカエデの森づくり:地域工務店伊佐ホームズの取組みで、2015年より開催し、2020年に第6回を実施。
参考資料
(1)椎野潤(続)ブログ(257)森林パートナーズ俄かに活性化 スタートアップ続々参入(その1) 2020年10月30日
(2)椎野潤(続)ブログ(258)森林パートナーズ 俄かに活性化 スタートアップ続々参入(その2) 2020年11月3日
(3)椎野潤(続)ブログ(259)秩父FOREST (その1) 秩父FOREST出発 2020年11月6日
(4)椎野潤(続)ブログ(260)秩父FOREST(その2)秩父FORESTの参加スタートアップの数々 2020年11月10日
(5)椎野潤(続)ブログ(261)秩父FOREST(その3) 植樹適地探索の苦闘 秩父ミューズパーク昆虫の森 秩父FORESTのプレ植樹祭 2020年11月11日
(6)椎野潤(続)ブログ(275) 塩地博文の大型パネル事業(3)「大型パネル事業とは何か(その4)」施工図自動作成システム開発 2020年12月29日
[付記]2021年1月5日。