林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年5月(№100)
椎野潤(続)ブログ(311)鹿児島県「肝属 100年の森」発足 肝付町 錦江町 南大隅町 林業改革地域あげての改革スタート(2)ネット討論 2021年5月4日。
☆前書き
2021年4月は、私のブログ人生のなかで、とても盛り上がった月でした。月末に、鹿児島の森田さんから、「肝属100年の森の会」の発足の報告が届き、日本の林業再生・山村新興にとって、重要な一歩が記されたと感動したからです。
今日のブログから、希望の年の薫風香る5月のブログです。その出発として、森田さんの活動を、もう少し詳しく聞いてみることにしましょう。今日は、森田さんと私と二人で、ネット討論をします。(椎野潤記述)
☆序文
[森田さんとの出合い] 椎野 潤
最近、ブログを読み始めた方のために、過去のブログを読んで、少し、紹介しておきましょう。
私は、今から17年も昔、2004年ごろ、九州で先進的な実験をしていました。2020年9月15日のブログ(参考資料3)に書いています。読んでみましょう。
この実験は、鹿児島市に建設する木造住宅の杉の構造材を、家を建てる顧客のパソコンから直接、山林の林家へ、インターネットで木材を発注して、加工済み製材を直接、建設現場へ届けてもらう試みです。
実施していたのは、鹿児島の工務店ベンシステムと鹿児島県の大隅半島の南端の大隅町のベネフィット森林資源協同組合でした。このプロジェクトのリーダーは、鹿児島建築市場を推進していたベンシステムの高橋寿美夫さんとベネフィット森林資源協同組合の森田俊彦さんでした。ところが、最近、森田さんと、偶然、東京で会ったのです。森田さんは、鹿児島県南大隅町の町長になっておられたのです。全国探しても、これほどまで林業に精通している町長は、そう多くはいないでしょう。
私は、そう考えて電話をして、話の経緯を話して、小森胤樹さん(参考資料3〜6参照)の活動への参加を頼みました。森田さんは「喜んで参加します」と快諾してくれたのです。(参考資料3、7から引用)
この実験では、大きな成果が得られました。この頃、山主の手取りは、5、000円/立方メートルに止まっていました。これを13、000円/立方メートルまで、回復させることができました。これで、木を伐採したあとの育林ができます。山林が未来に向けて永続的に生存して行くことができます。
また、建築市場(けんちくいちば)が69,900円/立方メートルで買っていた、加工済み杉材は、63、000円/立方メートルで買うことができました。商流・物流費の徹底的な削減の大きな効果が出たのです。その削減効果で得られた金銭は、山主の育林費に返すという発想のもとで、なおかつ、住宅生産コストの低減が実現したのです。これは、人口減少が動かし難い現実となった現代で、生産性を上げ、GDPを拡大させ続ける道を開くものです。(参考資料3、7から引用)
☆討論 聞く人 椎野潤 話す人 森田俊彦
椎野 森田さんの強い熱意を持った参加要請で、「肝属100年の森」がスタートしました。ここでは、これを纏めて来られた、森田俊彦さんに、いろいろとお話しを、うかがって行きましょう。
これは、日本の林業・山村の未来に、明るい灯火(ともしび)を灯す光となると、私は、思います。その理由は、二つあります。第一に、関係者全員でやらねば産業・社会全体の改革はできませんが、ここでは考えられるほとんど全員が集結していることです。第二は、グループがどのような方向へ進むべきか、リーダーが認識していることが最重要ですが、森田さんは、17年前の2004年に、その理想像を体験しているからです。
椎野 まず、全員参加についてですが、私は、ここでは対象を、林業〜家づくりサプライチェーン(注1)として考えて行こうと思います。林業〜家作りサプライチェーンは、長い供給の連鎖(チェーン)です。これを、生産過程としてみると、育苗、育林、伐採・丸太整理・運搬、製材・プレカット加工・運搬、住宅建設の工程が続きます。また、流通過程からみると、丸太の流通、加工材の流通、住宅生産側からの注文品の流通、プレカット材の流通が重要です。今回、集まっている方は、この全ての過程を担う方が、網羅されているのでしょうか。
森田 はい、流域内として限られた範囲で参加者を募って有りますが、川上から森林事業者、流通の運送業、製材所、プレカット工場、川下の建設業の方々が集って頂いております。後できましたら、流域外からも川下側の業種(建築メーカー、バイオマス事業者等)と森林に直接関係無い方々例えば、システム開発をされる方や観光関連の方等が一同に協議出来る体制ができたらと思います。
椎野 無駄を排除して生産性を向上させるには、何に、眼を付けたら良いのでしょうか。それには、まず、サプライチェーンを「流れ」として見ると良いのです。源流から流れて海に至る河のようにです。流れているのは木材などの資材と仕事です。木材で見ると、森の中に、丸太が積んであります。林道の奥にも丸太の山があります。製材所にも、製材前の丸太があります。
そして、製材所には、製材した製材品があります。プレカット工場には、プレカット加工前の製材品があります。加工済み材があります。工事現場には、組立前の加工材があります。残材があります。これらは、サプライチェーンの流れの中で、動きが止まった状態です。置いておく必要があるから置いてあるのは在庫と言いますが、使用の予定がないのは停滞です。停滞は、出来るだけなくすのが良いのです。無くすほど、資材生産性(注2)は向上します。こう考えると、現状はどんな状況ですか。
森田 一部の量産工場では直流システム等を取り組んでいるところや中間土場を活用されたりして流通圧縮や合理化をされているようです。しかし、基本的には発注者の個々の実状に合わせてオーダーしますので、山元の生産現場は天候等を加味してもジャストインタイムで木材が、停滞無しで流れているとは言いがたいです。
椎野 このように木材を見て歩いても、見つからないものもあります。流通過程の無駄です。丸太の流通、加工材の流通、住宅つくり側からの注文による流通、プレカッ材の流通。ここでの無駄を排除しなければなりません。また、加工したり運んだりするには、人が必要です。車や機械設備も必要です。木材の流れに無駄な動きが出れば、人も車も機械も、無駄に動き、計画性のなさに伴う遊び(手待ち、運転休止)が生じます。これを、無くすほど、労働生産性(注3)、設備生産性(注4)は向上します。この点で見るとどうですか。
森田 川下側に近い製材所やプレカット工場は自社内部に関しては設備や合理化は進んでいると思います。川上側はかなり高性能機械が普及しておりますが、事業者の規模に関わらず、皆さんが機械購入されますので、稼働率と償却はバランスを取る必要があると思います。もし林業事業者同士が設備、仕事を共有、分業化できたらコスト、生産性は変わるのではと思います。どちらにしても、ベースになるのは川上から川下お互いに信頼出来るシステムと情報の共有ではないかと思います。
椎野 私は、この問題点に、対する対策を考えて、ブログに、以下のように書きました。まだ、未発表のブログですが、引用しておきます。
これに対する対策の要点は、以下の通りです。
(1)生産・流通過程の計画性のなさ(プロダクトアウト生産)がもたらす人件費、在庫費、運搬費の無駄の排除。
(2)その改善のためのデジタル技術の即時、積極的な導入。
(3)生産・流通の各工程間に滞留するモノ・人の排除。山林中の丸太の滞留、製材工場での加工前丸太の滞留。製材工場における、加工済み加工材の不良在庫。工程途中の仕掛かり品の滞留。中卸での木製品の不良在庫、滞留。木材店での長期滞留。プレカット工場での不要品の残留。工事現場での余った木材の残留。これらの徹底的な削減。
(4)生産・流通間の手待ち、遅延・待機による、人件費ロス、在庫費拡大を厳しく削減。
(5)サプライチェーン全体の計画的な作業計画の欠如により生ずる重複した流通。これによる様々な無駄の排除。そのために、サプライチェーン全体を俯瞰した作業実施計画を策定する。
(6)以下の無駄を絶滅する。丸太の配送先が決まらず山林中で山積み放置。杜撰(ずさん)な計画より生ずる度重なる少量配送。複数事業者間での調整・協力の欠如による作業・輸送の重複。
(7)住宅の設計の細部が未完了のため、夥しく設計変更が続発する。そのため、現場へ追加資材の搬送が多発。多い目に納入しておくため、余ったものの返送作業が必要になる。余る資材は汚してしまって使用不能になる。廃棄物になり廃棄物処理費がかかる。
また、このブロクの[むすび]では、以下のように書いています。
「林業〜家作りサプライチェーンマネジメントのサプライチェーンは、長い連鎖をなしています。最上流は林業で、最下流は家作りの建設業です。そして、中流の製材・プレカットは製造業です。従って、改革すべき点、管理すべき点は、上中下流で、大分、異なるのです。
対策の要点の7点の内、最後の(7)の建設業は、他の(1)〜(6)とは、かなり内容が異なります。でも、(1)〜(6)と、関係がないわけではないのです。相互に、関係はあります。
(7)と林業も関係しています。試みに(7)の「設計」の語を「計画」の語に入れ換えてみれば、これが良くわかります。でも、林業で「設計」を「計画」に入れ換えた文では「計画の細部が未完了のため」の文節は、「細部まで計画されていない部分が多いため」とした方が、実情と合うのかもしれません。
つまり林業では、しっかりとした計画がないのです。この点はどうですか。
森田 今現在の山林の実状は、まずどの種類の木材がどれだけ何処にあることがわからないということ。仮にオーダーがあったとしてもやりかけの仕事がかたづかないと移れない等即時性の無い状況で、計画性は川上側だけの計画であり、川下も連動した計画性はあまり無いと思います。
椎野 皆で、サプライチェーン全体を俯瞰した作業実施計画を作りましょう。
森田 そうですね。川上、川下も納得する実施計画を創れればと思います。
椎野 実験では、巧くいったのに、現実にはできない理由が、もう一つあります。データです。実験で、どこにも在庫がなくできたのは、住宅設計のCAD/CAMシステム(注7)があったからです。住宅の設計を細部までコンピュータでできる出来る3次元CADシステム(注5)と、そのCADデータを自動的に木材の自動加工機の作動データに変換するCAMシステム(注6)があったからです。林業〜家作りサプライチェーン実現の原点は、ここにあります。これは、現実に出来る、心当たりはありますか。
森田 過去にシステムの運用に関わったことが有りますが、昨今のバージョンアップを考えますとより機能的ものが出来るのではないかと思います。
椎野 ここで目指している次世代システムは、作って売る人が客をさがすビジネスモデルではありません。逆に客が、作る人・売る人を探すシステムです。ですから、従来は重要であった、マーケティングや販売促進活動・営業は、不要になります。その代わり、SNS(注8)、インスタグラム(注9)など、インターネット上の体制作りが重要になります。
これを作るのは、大きい会社に頼んで、任せるのではなく、スタートアップ(注10)という、非上場小会社が、自ら周囲に集団を作っていくようにするのが重要です。その会社の大きさ、権威、金融力などよりも、次世代を見る眼と柔軟な行動力が重要なのです。
最初は、情熱のある若者を呼び込まねばなりませんが、それを起点に、今、集まっている人達の中から、続々と、このスタートアップが、生まれ出てくる体制にしないと、次世代を開いていくことは、出来ないでしょう。森田さん自身は、林業・山村の次世代を作る事業は、まだ、始めたばかりで、自分一人の会社ですが、これこそ、スタートアップそのものです。これが、100人〜200人と生まれてくるようにしなければなりません。
私は、過日、林業スタートアップの代表例と思っている百森の中井照大郎さんと森林パートーズの小柳雄平社長のネット討論をブログに書きました(参考資料9)。森田さんは、もう、読まれましたか。読んでなかったら、是非、読んでください。中井さんに、一度、肝属に行ってもらったらどうですか。
これまで、次世代林業作りを、岡山県西粟倉村で実践してきて、これから、このノウハウを全国の市町村に伝えていきたいと、新会社を立ち上げたところです。ですから、行ってくれるかもしれません。チャンスです。(参考資料9)
森田 大変興味深く読ませてもらいました。退任後、時間に余裕が出て来ましたので、詳しくお話をお伺いしたいと思います。
椎野 今、世界中で、木材価格が高騰しています(参考資料10)。この外材価格の騰貴は、次世代の木材産業への脱皮をめざす人達にとっては、大きなチャンスですが、静かに様子を見て動かない人々は、沈没していかざるを得ないと思います。ここで、日本の林業は、挑戦する人達が担うとすれば、今後、発展するでしょう。様子を見る人が大勢を占めれば、劣化していくでしょう。ここが、山場です。
森田 まさしく社会全体で意識して頂きたく思います。気候変動により豪雨災害や乱伐後の植林されない状況から脱して、グリーン社会の構築、カーボンニュートラル等日本のもつ山林資源のポテンシャルを高め循環する仕組みを今構築しなければ、民有林はほぼ荒れ果てるのではと危惧します。森林経営管理は5年10年先にはどうしても必要な仕組みです。過疎高齢化の先進町であるからこそ、日本の未来が此処に有ります。
今こそしっかりと森林関係者全体で納得の行く組織を創れればと思います。
(注1)サプライチェーン:商品やサービスの供給の連鎖のこと。狭い意味では、製品が消費者に渡るまでの供給の連鎖を示しており、広い意味では、原材料からリサイクルにいたる広大なサプライ(供給)の連鎖を示している。サプライチェーン・マネジメント:サプライチェーンの管理。
(注2)資材生産性:資材の生産効率を示す指標。
(注3)労働生産性:労働者の作業効率を示す指標。
(注4)設備生産性:設備投資の投資効率を示す指標。
(注5)CAD(Computer Aided Design):コンピュータを利用して設計並びに製図を行うこと。プレカットCAD:ブレカットのための作図をし、データを作成するCAD。
(注6)CAM(Computer Aided Manufacturing):コンピュータを利用して製造を行うこと。CAM情報(CAMデータ):自動機を動かすデータ。CADデータから変換して生成する。
(注7)CAD/CAMシステム:CADデータをCAMデータに自動変換し、このデータにより、生産ラインの自動加工機を、作動させること。
参考資料
(1)椎野潤(続)ブログ(310):鹿児島県「肝属 100年の森の会」発足 肝付町 錦江町 南大隅町 林業改革地域あげての改革スタート、2021年4月27日。
(2)椎野潤(続)ブログ(242)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その3) 目的とゴール 2020年9月1日。
(3)椎野潤(続)ブログ(246)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その4) その1〜3を読んで 2020年9月15日。
(4)椎野潤(続)ブログ(247)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その5) 九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(1)林業と国産材を復活させる活動 2020年9月18日。
(5)椎野潤(続)ブログ(248)なぜ、一般社団法人 ぎふフォレスター協会を設立したのか(その6) 九州木材ロジステティクス改革プロジェクト(2)実証実験 2020年9月22日。
(6)椎野潤(続)ブログ(278) あけましておめでとうございます 2021年 南九州鹿児島での林業再生・山村振興の新しい夜明け 2021年1月8日。
(7)椎野潤著:生きている地球と共生する建築生産、日刊建設工業新聞社、平成17年月7月27日。
(8)地域林政アドバイサー制度について:林野庁 森林利用課 森林集積推進室 令和2年4月。
(9)椎野潤(続)ブログ(306)林業再生・山村振興ブログ 林業・山村スタートアップの先導者たち(その3)百森とのネット討論、2021年4月16日。
(10)日本経済新聞、2021年4月22日。
[付記]2021年5月4日。