日立製作所は、次世代にむけて、企業の大改革を進めています。同社は、コロナの悪魔の襲来が、改革の絶好のチャンス(参考資料2、注6)と捉えていました。そこで、従業員の意識改革のため、思い切った対策を講じました。2020年4月、国内グループ全従業員16万人に、DX研修(注1)を敢行したのです。
林業再生・山村振興への一言(再開)
2021年8月 (№128)
□ 椎野潤(続)ブログ(339) 日立製作所 米デジタルエンジニアリングのスタートアップ企業を1兆円で買収完了 経営大改革 製造業からソフト開発型企業へ変身 次世代産業社会に向けて激烈な発進 2021年8月6日
☆前書き
日立製作所は、これまでの製造業から、ソフト開発経営コンサルタント型企業への転身を進めていました。このたび、その変身の肝(きも)である「凄いスタートアップ企業」を、1兆円を投じて獲得したのです。2021年7月15日の日本経済新聞は、このことを報じていました。今日は、これを取り上げてブログを書きます。まず、この記事の「書き出し文」の引用から始めます。
☆引用
「日立製作所は、2021年7月14日、米IT(情報技術)企業のグローバルロジック(注2)の買収が完了したと発表した。同社は、あらゆるモノがネットでつながる「IoT(注3)」や人工知能(AI、注4)をハードに組み合わせる「デジタルエンジニアリング(注7)」を手掛ける。日立はエネルギーや鉄道など社会インフラ事業のデジタル化で相乗効果を引き出し、1兆円超の買収に見合うリターンを狙う。(参考資料1、2021年7月15日、日本経済新聞を参照引用して記述)
☆解説
グローバルロジック(注2)のシャシャンク・サマント最高経営責任者は、「日立が持つ、物理的な世界の製品や制御技術に、グローバルロジックが持つバーチャル(仮想)の技術を連携させる」と強調しています。
同社は、既存製品に、通信機能やAI(注3)などを登載するためのソフトウエアを組み込む技術が強みなのです。製品やサービスの設計を手掛けるデザイナーとソフトウエアの技術者が、顧客が使いやすい製品やサービスを提案しています。
2020年には、医療機器メーカーの糖尿病患者向けのインシュリン投与機器のデシタル化を支援しました。投与量を自動調整しつつ、患者の血糖値データをクラウドに送ります。これにより、医療従事者や家族が血糖値を確認できるようにしました。これは医療機器に通信や制御ソフトを組み込んだ事例です。
☆まとめ
日立製作所は「顧客の要望」に合わせて、システムを構築するのは得意です。一方で、顧客が、まだ、何処を改良したら良いかがわからない段階で、現場を調査して、課題を発見し、それを解決することによって獲得できる利益を試算し、提案するのは苦手です。そして解決案を具体的に実施して見せて確認させることも、得意ではありませんでした。
でも、日立製作所が持つ、この弱点は、日本の産業全体が持っている問題点なのです。ですから、日立がこの改革に成功し、日本の産業界が、これに追随していければ、コロナ後の日本の未来は、俄かにに明るくなるのです。
日立製作所は、IoT(注2)基盤「ルマーダ」を軸にした成長を、経営戦略の基幹に掲げています。でも、現状では、まだ、実績は乏しいのです。また、現在、比較的に進展していると思われているIT部門でも、官公庁向けのシステムの実証実験が多いのです。すなわち、まだ今は、具体的な事業のスタート前の準備に追われているのです。今は、まさに、新事業の爆走のスタートのピストルが鳴る寸前なのです。
ここでいよいよ日立製作所が、これまで世界で展開してきた鉄道事業やエネルギー事業、ロジスティクス事業で、具体的な事業収益を、拡大させ始めるでしょう。各産業における「モノ作り」、さらに、そのサービス分野が、「ルマーダ」を使って、「人工知能(AI、注3)」のもとで「IoT(注2)」で繋いで、顧客事業で収益を獲得し始めます。具体事例が、一気に爆発するはずです。
今は、日立製作所の爆走の寸前のときです。コロナ後の日本の激走の発火点なのです。今は、極めて重要な時なのです。(参考資料1、2021年7月15日、日本経済新聞を参照引用して記述)
(注1)デジタルトランスフォーメーション(digital transformation: DX):トランスフォーメーション (transformation): 物の形態、外観、性質などをかえること。変革。変形。変質。デジタルトランスフォーメーション: デジタル技術で事業を変革すること。DX研修:DXに関する専門研修。
(注2)グローバルロジック(GlobalLogio):米カルフォルニア州サンノゼに本社を置くデジタル製品エンジニアリングサービス会社。パートナーズグループとCPP委員会が出資する非公開企業。ソフトウェア製品の設計および開発サービスを提供。
(注3)IoT(Internet of Things):様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組み。
(注4)AI(artificial intelligence)=人工知能:「『計算(computation)』という概念と『コンピュータ(computer)』という道具を用いて『知能』を研究する計算機科学(computer science)の一分野を指す語。人の頭脳の代わりに、記憶し考える機械システム。
(注5)のれん:M&A によって会社を買収したときの価格と、受け入れる側の純資産額との差額であり、これは会社の個別財務諸表には表現されていない超過収益力といえる。
(注6)参考資料3、参考資料2内に登載。
(注7)デジタルエンジニアリング:コメント欄に説明を記載。
参考資料
(1)日本経済新聞、2021年7月15日。
(2)椎野潤(続)ブログ(254)コロナ下でデジタル革命が急進展 日立製作所16万人にDX研修 2020年10月20日。
(3)椎野潤ブログ:日立、純利益倍増の中期経営計画、鍵にぎる「IoTによるつながる戦略」、2016年7月10日。
[付記]2021年8月6日
[コメント]
日立製作所は、なぜ、スタートアップ企業に、1兆円を投資しなければならないのか。
[グローバルロジックの6つの仕事]
(1)デジタルアドバイザリー
DX(注1)に向けて、何を目標とするべきなのか、何が足りないのか、進め方をどう描けばよいのかなどの定義や策定を支援します。
(2)エクスペリエンスデザイン
デザイン思考に基づき、顧客に、これまでになかった経験をさせます。その際、技術の進化から逆算しての構築をサポートします。
(3)ソフトウェアエンジニアリングサービス
世界中に1万2000人いる、デザイナー、アーキテクト、ソフトウェアのエンジニアで、最短時間で最高のデジタル製品を生み出すのをサポートします。開発だけでなく、ライフサイクル全体を支援します。
(4)研究開発
企業に時間と才能が不足している場合、必要なことを提供します。つまりターンキー方式で研究開発を請け負います。
(5)コンテンツエンジニアリング
現在の支援活動においては、顧客の好みや使い方に合わせて、システムやソフトウエアの機能を設定し直した内容・データが前提なのです。すなわち、顧客に合わせた商品価値を持つ情報の中身とデータが前提です。そこを強化し、データ分析、機械学習によるモデル構築を行います。
(6)アトラシアンサービス
代表的な実例として、豪州のアトラシアン(Atlassian)が提供するサービスを例示します。プロジェクト作業の計画や追跡、チームのための作業の作成、継続的統合と開発。すなわち、ITプロジェクト運営のためのソフトウェアの選択・導入・活用を支援します。
デジタル化の波が急速に広がり、ソフトウェア力やデザイン力が生き残りや成長に欠かせなくなっています。この結果、多くの企業は自前でそれらを揃えるのは難しくなっています。これを提供するのがグローバルロジックです。さらに、これが「デジタルエンジニアリング(注7)」そのものです。
これは結局、デジタルトランスフォーメーション(DX、注1)の推進手順の策定からソフトウェア開発、ユーザー体験のデザインまでを、一貫して行うことです。これは多くの日本のSI企業がやっています。日本で、一番やっているのは、16万人のDX研修(参考資料2)を実施している日立製作所です。その日立が、7100億円の「のれん(注5)」代を支払って、グローバルロジックを買収しなければならないのです。それほど同社の活動は、圧倒的に貴重なのです。