林業再生・山村振興への一言(再出発)
2022年1月(№177)
椎野潤(新)ブログ(388) 伊佐裕・小柳雄平ブログ(その3)林業×住宅産業とトランスフォーメーション(DX)の展開 2022年1月28日
☆前書き
今回は、林業×住宅産業 DXの展開についてお話しいただきます。
☆引用(その1)
林業×住宅産業とトランスフォーメーション(DX)の展開
文責 伊佐裕 小柳雄平
[デジタルトランスフォーメーション]
デジタルトランスフォーメーション(以下DX、注1)という言葉が、当たり前に聞かれるようになってきた昨今ではあるが、住宅産業、木材加工産業、林業などはなかなか進んでいないのが実態だと感じる。
経済産業省が出した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」ではDX(注1)を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。
これは企業のDXとしての定義であるが、産業全体としても同様であろう。人々の暮らしをIT(情報技術)によってあらゆる面でより良い方向に変化させることである。
[DXと木造住宅産業]
上記の定義を林業と木造住宅産業に関連付けて考察したい。まず「ビジネス環境の激しい変化」であるが、林業においては、林業の衰退が最も大きく深刻な変化であろう。これには様々な要因があるが、国内における国産材の供給率の低下(近年はバイオマス利用などによって少しずつ上昇傾向)、林業の担い手不足となっている。木造住宅産業では住宅着工件数の低下や人材不足などがあるが、現在は特に海外からの影響で発生したウッドショックによる木材量不足、木材価格高騰などが挙げられる。目先の効率や利益を追い、安価な輸入材に傾いて国内林業(国産材)を軽んじてきたつけの影響も大きい。
このような社会問題を「データとデジタル技術を活用して」産業を変革していかねばならない。近年では航空機撮影や林内3Dカメラ、ドローン撮影などによりデジタル情報としてデータ化された森林資源情報がつくられてきているが、これをもっと広く行う必要があろう。
「ニーズを基に」とあるように、この資源情報を活用するには、木材利用の需要情報をもとにモデルを確立しなければならない。すなわち需要情報に基づく生産体制の構築である。
さらに林業復興と国産材の活用に繋げるためには、林業への利益循環が不可欠である。そのために物流、商流を総合的に、林業と木造住宅産業、そしてそこに関わる木材加工産業の協同で改革していく必要がある。
[サプライチェーンによる改革]
森林パートナーズは理念を共有する工務店、山元、製材所、プレカット工場と協同し、需要情報を起点とするサプライチェーン(参考資料7、注2)によって、工務店の直接原木購入(山元への利益確保、注3)、六次産業化(注4)、消費者との価値共感(参考資料2)、木材品質の確保の4項目を中心とした内容で木材流通の変革を行っていき、IT技術を活用するモデルを構築して実運営をしている。
現在は工務店の数が増えつつあり、システムのバージョンアップをしている。製品自体の体積があるものなので倉庫にも制限がある。デジタル技術を活用し、工務店同士の在庫を統括し、ICタグ(注5)が着いた一本一本の同品質製品同士の所有工務店名義の変更機能の強化を進めている。これにより工務店毎にある在庫スペースを集約することができることになる。
また物流情報と紐づく金融プラットフォームを開発中である。金融会社とのシステム開発で、キャッシュレス化、与信担保に期待ができ、工務店の原木直接購入(木材は乾燥・加工に時間がかかるので住宅建設工事着工前の購入になる、注3、参考資料6)のリスクを回避することにもつながり、更にデータの集積が詳細になる。
参画している林業家の角仲林業は森林資源情報をデジタル化データ化する取り組みをしている。その情報と工務店の予定着工件数の情報(物件規模から構造材の必要寸法、必要量を算出集計し原木需要情報に変換)を結び付けて生産することに、なるべく早く結び付けたい。
DX(注1)は細胞間に神経を張り巡らすようなものだと感じる。より豊かになる為に、それぞれの機能が有機的に情報の授受を行い、総合的に成長していくための大事なネットワークの構築が必要であろう。各地で公平性のある心でDXをおこし、それらをリンクさせ、我が日本国家のビッグデータとして活用できる長期的なビジョンを多くの人と築き上げていきたい。
[文化感の創生]
そして常に足元にしておかないといけないのは、文化感である。林業においても生産林と天然林を考慮したゾーニング計画をつくり、生産林においては地域の生態系を逸脱しないものとし、天然林は天然更新をうながす森づくりなどをすすめていく時期であろう。
住宅産業においても、ただやみくもに木材を乱用するのではなく、やはり美しく木(もく)理(め)を活かし、また他の材料との取り合いにも気を配ることが、家づくりに携わる者の務めであると考える。デジタル技術は道具であり、それを扱うのは人の心である。歴史観、国家観をもち文化感のある心でDX(注1)をすすめることが、現代に生きる我々の大きな一つの責務である。(参考資料1伊佐裕・小柳雄平論文を引用)。
☆まとめ
デジタルトランスフォーメーション(注1)とは、あらゆるデジタル技術を駆使し、事業を劇的に改革することです。これは、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新を実施することです。今、一番注目をされ、進化が超高速に進んでいる技術であるAI(注6)、IoT(注7)の活用が、まず、第一に注目されるのです。
でも、根底から覆すような改革においても、日常の仕事を、抜本的に改革することが、一層重要なのです。そこで、今、注目されているのが、多数の企業で導入されているロボティク・プロセス・オートメーション(参考資料4、注8)です。
ここではホワイトカラーの定型事務作業などを、スマホアプリ(注9)などで改革して、組織の抜本的な革新が、どんどん、進められています。また、ICタグ(注5)で工程・作業などを、繋いで行く活動も、「DXによる組織全体の改革」の根っこをなすものです。
日立製作所は、16万人の従業員のDX研修(注1)を実施しています(参考資料5)。企業全体を抜本的に変えようとしているのです。従業員の発想転換を急いでいます。DX(注1)の改革に本気でなっている日立などと、口先だけDXと言っている企業には、今後、短期間の内に、極めて大きい差が出来てしまうでしょう。
このような改革は、大企業だから出来るわけではありません。小さいスタートアップに、優れた処が続出しています。今、スタートアップは先導者として、どんどん育っています。
すなわち、大企業だから出来るわけではないのです。出来ないところも多いのです。それは社内に強い抵抗勢力がいるからです。
大改革が進むということは、旧来のものをやめて行くということです。旧来の仕事が、見事に実施できていた処ほど、新しいやり方に見込みが立たない状況では、今、うまくいっている大事なものを、守りたいと思うのは、当然です。
でも、時代は、どんどん動いていきます。この波に乗れた企業は拡大し、乗れなかった処は衰退していきます。
このDXによる大改革は、業種によって、出来る業種と出来ない業種があるわけでもありません。どの業種でも出来るのです。1月18日に発信した大谷ブログ(参考資料9)に登場した九州大分県の佐伯広域森林組合で、経理の事務を任された女性たちに、エクセルで自作したスマホアプリ(注9)を渡して、やるべき目的を話して、使い方を教えた管理者は、DXの推進の凄いスタートアップでした。それを、すぐ理解し、自分のスマホを改良し、経理事務を合理化し、会社全体の利益を見える化した女性たちも、この会社のDXによる大改革の先導者なのです。
結局、林業だから出来ないということではないのです。経理事務を専門に学んでいなくても、経営や利益のことが解らなかった人達でも、改革が、ずんずん進んだのです。今、林業DXを、どんどん、進めなければなりません。
伊佐裕さん、小柳雄平さんは、このDX(注1)の重要性を強く認識して、力強く進めています。伊佐さん、小柳さんの改革も、ここで大きな転機を迎えるでしょう。
伊佐さん、小柳さんは、2015年から、木材発注者として、年間の発注量を年初に山主に示し、木材の山主への直接発注を実施してきました(参考資料6)。そして、買い取った木の育っていた跡地に植える苗木が、成木に育つまでの資金を先渡しする英断をしたのです。ここでは、樹種、寸法、量などの需要情報(これからは樹齢や色目なども期待したい、注10)が透明に開示されており、これが、さらに、山主、製材、プレカットにも、開示されていました。そして、顧客との当該工事の受注予定日も、製材者、プレカット事業者にも、透明に伝達されました。
すなわち、ここでの森〜製材〜プレカット〜建設現場のサプライチェーン(注2)は、確実に確立していました。通常の森〜住宅作りのサプライチェーンの間に存在していた中間業者は、いませんでした。サプライチェーン内の人や情報の重複はなく、切れているところもありませんでした。つまり、サプライチェーンが、見事に管理(マネージメント)されていたのです。
また、かねてから、木材1本1本にICタグ(注5)が貼り付けられて管理しており、今、先端産業で大流行しているIoT(注7)が確立していました。ここでは、デジタル情報の流れは、よどみなく流れていたのです。でも、これまでは、これは伊佐グループの中だけが中心のシステムでした。
しかし、このシステムは、今、大いに注目されています。このシステムを全国に広げたいと言う要望が高まっています。これを実現させるには、DXの次のステップへの進化が必要です。
設計のCADデータのICタグを介した製材やプレカットとの連結。これは私が19年前に、挑戦していた改革です(参考資料8)。でも、この19年間の最先端技術の進歩は、目覚ましいものがあったのです。この伊佐さんと小柳さんの先端技術への挑戦に、私は、今、限りない期待を寄せています。
(注1)DX(デジタルトランスフォーメーション、digital transformation、略語DX):トランスフ
ォーメーション (transformation): 物の形態、外観、性質などをかえること。変革・変形。デジタルトランスフォーメーション: デジタル技術で事業を変革すること。既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの。略語がDXである理由は、「Trans」を「X」と略すことが一般的な、英語圏の表記に準じているため。
(注2)サプライチェーン: 部材の製造から製品の流れ、情報の流れを合理化して、顧客に提供する価値の増大を図り続ける総合的な活動。サプライチェーンマネジメント:サプライチェーンをマネジメントすること。参考資料(7)pp.26〜34参照)。
(注3)直接原木購入:参考資料(4)参照、同資料(5)pp50から引用。
(注4)六次産業化とは、「第一次産業」である農業や水産業の従事者が、自身の生産物を、「第二次産業」の分野である食品加工を行い、「第三次産業」の分野である流通や販売までを手掛けること。また、このように経営が多角化展開することを6次産業化という。
これを林業に当てはめれば、「第一次産業」である林業従事者が、自身が生産した林木を、「二次産業の分野である製材品加工をして、木造住宅の建設を行い、さらに住宅販売、レンタル事業
では、森の木材を可能、林産品加工品にして、「使用する時代」に対応して、人々に「所有せず使用してもらう」ことを目指すのは、次世代をめざした六次産業化である。
(注5)ICタグ:電波等による無線で通信する機能を持ったタグをいう。構造はICチップとアンテナが組み合わされたもので、読み取り機の発する電波等を、アンテナが受けて、その電波等を電気に変えICチップに記録された情報を無線で返すことができる。
(注6)AI(artificial intelligence)=人工知能:「計算(computation)」という概念と「コンピューター(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野。
(注7)IoT(Internet of Things、IoT):様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組みである。それによるデジタル社会の実現を指す。人とモノの間、およびモノ同士の間の新しい形の通信を可能にする。
(注8)ロボティクス・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation 略語RPA):ホワイトカラーのデスクワーク(主に定型作業)を、パソコンの中にあるソフトウェア型のロボットが代行・自動化する概念。参考資料4、2018年7月4日の日本経済新聞を参照引用して記述。
(注9)スマホアプリ:スマートフォンに登載したコンピュータアプリケーション(ソフトウエア)。
(注10)( )内は、小柳雄平が、今後開示したいと考えている情報。
参考資料
(1)伊佐裕 小柳雄平著:秩父FOREST 住宅施主と木材供給山主の感動の握手、2022年1月8日。
(2)伊佐裕 小柳雄平著:ウットショックにおけるサプライチェーの効用、2022年1月8日。
(3)伊佐裕 小柳雄平著:林業×住宅産業とトランスフォーメーション(DX)の展開、2022年1月8日。
(4)椎野潤ブログ:事務作業の自動化 ロボティク・プロセス・オートメーション(RPA):世界最大手が日本へ進出 2018年7月25日。
(5)椎野潤(続)ブログ(254)日立製作所16万人にDX研修 2020年10月20日
(6)椎野潤(続)ブログ(235)木材トレーサビリティで流通改革 原木価格を引き上げ森林再生に貢献(その1) 2020年8月4日
(7)椎野潤著:椎野先生の「林業ロジスティクスゼミ」 ロジスティクスから考える林業サプライチェーン構築 林業改良普及双書№186 2017年2月20日。
(8)椎野潤著:顧客起点サプライチェーンマネジメント〜日本の産業と企業の混迷からの脱出 その道を拓く「建築市場」、2003年11月20日、流通研究社。
(9)椎野潤(新)ブログ(385) 大型パネル事業が導く林業再生(その3)佐伯広域森林組合の成長の軌跡と新たな展望(3) 書き切れなかった詳細エピソード 2022年1月18日
[付記]2022年1月25日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
[指導を受けたブログ:2022年1月25日のブログ、伊佐裕・大谷雄平ブログ(その2)秩父FOREST ウッドショックにおけるサプライチェーン効用]
[引用文]
大谷恵理様
ブログ配信ありがとうございます。
先のウッドショックを経て、今回森林パートナーズでご活躍されている伊佐さん、小柳さんの論文紹介ということで、興味深く拝読させていただきました。
マッチングに頼るサプライチェーンではなく、参画しているメンバーの連携による強固なサプライチェーンによって、不確実要素を排除したとのことです。地元の身の丈にあった強みでもあると思います。
椎野先生のかつてのご意見の中で、大型建築物を計画するときは数年前に告知することが必要とのことでしたが、これから林業の担い手不足が顕在化していく中、山側の納期の遵守が重要になってくると思います。
これからは材価が安いときとか、山側の労働力に余裕ができたときに建築材料をストックしておく必要があるかと思います。ジャストインタイムの方式ですと在庫は悪のようですが、育ち続ける森林、置くことにより価値を増すことができる森林は優良な在庫です。
そのストック実現にはファイナンスなどの仕組みを作ればよく、このようなストックがあれば、今回の森林パートナーズのように強靱な連携が図れると思います。また、安定的な木材需要情報が先にあるべきであるとのご指摘も重要と思います。
椎野先生のサプライチェーンの定義で「価値の増大を図り続ける」は斬新なご指摘だと思います。サプライチェーンの未来が照らされています。
デジタル情報でシステムを見える化していこうとする森林パートナーズの劇場化が楽しみです。
酒井秀夫