□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第44回) 杉2x4材は国産材の救世主になれるか?
木村木材工業株式会社 代表取締役 木村 司
今年に入って「木材の売れ行きが特に悪い。冷え込んでいる」という話を私の周囲でよく聞きます。新築住宅着工が減り続けているだけではなく、製材工場も、プレカット工場も過去に例がないほど稼働率が低いと聞きますし、業界紙でも報じられています。
過去にないほど悪い状況の中で多くの製材工場が杉2x4材の製材を始めています。在来木造向けの製材品の売れ行きが落ち込んでいるため2X4製材をラインナップに加えて操業度を確保したいという理由もありますが、これまで2x4材で圧倒的なシェアを誇ってきたカナダ産SPF(スプルス・パイン・ファー)が値上がりして、杉でも対抗できる価格になったことも大きな理由です。
SPFの主産地であるカナダBC州で現在政権を握っている新民主党(BC NDP)は政策として自然保護を打ち出しています。BC州の森林の9割は州有林で、BC州が木材業界の各社に対して伐採量を割り当てているのですが、新民主党の自然保護政策の影響で製材工場を稼働させるのに十分な丸太が確保できず、BC州各地で製材工場が相次いで閉鎖されています。田舎町の唯一の産業が製材工場という地域で工場が閉鎖になってしまったケースもあり、地元にとっては大きな問題になっています。
10月19日にカナダBC州で選挙が行われます。新民主党が引き続き政権を担うことになれば、自然保護政策がさらに強化されて原生林伐採量のさらなる削減が予想されるだけでなく、SPF2X4材の生産量がさらに減少するとみられています。
アメリカ市場の2X4材でSPFの代わりに急速にシェアを伸ばしているのがSYP(サザンイエローパイン)です。アメリカ南部では化学繊維の台頭で競争力を失った綿畑に植林したSYPが伐採適齢期を迎えていて、カナダの木材会社各社は満足に操業ができないBC州に見切りをつけてアメリカ南部に製材工場を建設し、SYPの2X4材を製材しています。
ただ、SYP材をアメリカ南部から日本へ輸出する場合、アメリカ西海岸の港まで陸送した後太平洋を海送するか、大西洋に面したアメリカ南部の港からパナマ運河または喜望峰経由で海送するため、移動距離が長く、輸送コストがかかります。SYPの2X4材は現状日本にあまり入ってきていません。
今後、SPF2X4材の日本への輸入はさらに減少することが予想されます。
多少の円高になったとしてもSPF2X4材の価格が以前のような安値になることは考えにくく、杉2X4材の生産が増加してSPF2X4材のシェアを奪う可能性は高いです。
山の造材でも3M、4Mだけではなく2X4材用に2.5Mで造材する森林組合が出てきています。2X4材のスタッド(間柱)は8尺で使われることが多く、2.5Mの丸太はスタッド用として歩留まりが良いからです。また、長さ2.5Mの無節・上小節の板はドアの縦枠用として使い勝手が良いため、2X4材と造作材を抱き合わせで製材するのに2.5Mの丸太は長さとして最適です。特に末口直径40cm以上の太い丸太の使い道として、2x4材と造作材の取り合わせができれば、
太い丸太の利用が促進されます。在来軸組工法用構造材の場合、太い丸太から製材すると、一番強度の高い外周部が製材で落とされてしまって強度が出ないことがよくあります。反面、2x4材は個々の部材の強度をそれほど要求されないため、太い丸太の製材歩留まりが上がり、大径木利用の一助にもなります。
杉2x4材はSPF材の代替として供給の増加が期待されますが、今後のSYP材の動向には注意が必要です。杉2x4材が普及することを心から願います。
以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
私は、ディメンションランバー(いわゆる2x4材)がスギ材の需要開拓の最後のフロンティア(未開拓分野)だと考えて来ました。今がそのチャンスです。
需要(出口)不足による住宅関連産業の不況の中で、新設住宅着工戸数で健闘しているのがツーバイフォー工法による住宅です。戸建もありますが、特に木造集合住宅(いわゆるアパート建築)の貸家が建っているようです。住宅地の土地の値段が上昇して、住宅の価格が1割以上高くなって、その価格になると所得に応じたローンが組めない、ローンの金利が上がって来て返済を考えると躊躇せざるを得ないということで、住み替え需要の先がアパート貸家になっているのでしょう。
お話ではカナダB.C.州政府は自然環境保護の政策をとっているということですが、現地は大規模な虫害(マウンテンビートル)や山火事の被害で、年間伐採許容量を落とさざるを得なくなっていると聞いています。ですから、政権がどうであろうと、程度の差こそあれ伐採量は減っていくでしょう。それは、いわゆる原生林だけでなく、二次林、人工林の伐採も減っていくのです。また、SPF材の輸出も、グレードの選別が厳しいうえに需要が消失方向にある日本よりも米国向けの割合が多くなるものと思います。
近年、欧州メーカーも2x4JAS認証を取得するなど、ツーバイフォー住宅向けのディメンションランバーの輸出を強化してきていますが、カナダ材の供給の停滞により、さらに、日本のツーバイフォー住宅を標的にし、集成管柱などと同様にスギに勝てると嵩にかかってくるでしょう。3年前の米国の木材不足時(日本のウッドショックの発端)には、欧州から米国にディメンションランバーの供給を増やしており、ホワイトウッド(スプルース)やレッドウッド(パイン)をディメンションランバーとして日本に供給する能力はあると思います。
ですから、国内のツーバイフォー住宅のシェア拡大の中で、国内メーカーは、カナダからの供給不足となるディメンションランバーの代替に早く手を打って、国産材のスギをはじめとして、ヒノキ、トドマツ、カラマツのディメンションランバーのシェアを拡大することが求められていると思います。今こそ国産材需要を恒常的に拡大するための正念場ですし、その先には、人工林資源に余裕のあるスギ、ヒノキ、トドマツのディメンションランバーの輸出という出口も見据えていきましょう。