□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第28回) 林業労働災害撲滅へ向けて「貧すれば鈍する」林業からの脱却へ(4)安全研修会開催
北都留森林組合専務理事兼参事 中田無双
kitaturu@aria.ocn.ne.jp
2013年5月には、全協議会員会社の全社員が参加し自主的な民間主導による初の安全研修会を開催しました。目的は、「間伐作業における工程・安全性等の調査と検証」とし、労働基準監督署、山梨県、林業・木材製造業労働災害防止協会山梨支部も来賓として招待し実施しました。
研修会では、間伐という作業の危険要因を洗い出し、そのリスク低減策を話し合うために会員代表が伐る現場を皆で見学しました。この時、使用したテキストに『伐採造材技術』(全林協)というアメリカで出版された伐採造材テキストの翻訳本を使用しました。特にアメリカでは「安全なかかり木処理」の方法の一としてテキストで紹介されているが、日本では危険な作業として禁止事項となっている「元玉切り」を実際に現地で行いながら、どこが危険な作業なのか、かかり木の角度、刃を入れる高さ、玉切り作業手順、退避方法など様々な角度から検証するといった今思うとかなり本気の突っ込んだ研修会でした。結論から言うと作業中に林災防側から作業中止命令が出てしまい最後まで研修会を続けることができず、後日、事前相談無くこのような内容の研修会を開催したことについて主催者側実行委員は行政側からお叱りを受けました。しかし、それだけ林業労働安全対策推進に本気かつ真剣だったからこそであり、林業の建前と本音を乗り越え解決したいという強い信念が私たちにあったからだと考えています。未だになぜアメリカで安全と言われている技術が日本では危険な作業と位置付けられ禁止事項なのかその答えが分からず未解決のままであり、このことについては今後も日本における林業労働安全対策を講じていく上でその理由を明確にしていきたい点の一つです。
今、世の中は禁止事項を増やし、規制を厳しくすることで林業労働災害を減らそうとしていますが、危険な行為をけして行っていなくても予測できない木の動きや枝落下などが原因による怪我も現場では発生しています。これから労働災害撲滅の前に、まずは死亡事故ゼロを本気で目指し、重大事故を回避し、怪我をより軽くできるようにするために何ができるかを業界関係者の皆で考え、一人一人の知恵や取り組みを業界全体で共有し実践していける環境を整えていきたいと思います。
また安全研修では、かかり木処理の方法の一つとして推奨されているチルホールを使用した2人1組のかかり木処理を実際に時間計測しながら実施し記録しました。その結果、チルホールや梯子といった重たい道具一式を持ち歩きながら山林内を動き回りながら間伐することがいかに重労働であるのか、1本のかかり木処理に要した時間と人数ではとても県が設計している間伐標準単価では作業が出来ないことも示しました。この結果をまとめて報告書として県に改善要望書として提出しましたが、受理してもらえませんでした。実は県の標準単価設定の中では、要間伐ヒノキ林ではほぼ100%かかり木になるにも関わらず、かかり木が1本も発生しない前提として設計されていたり、県の林齢構成のうち高齢級が増えてきたために補助金額を抑えるためにこれまで一番伐倒技術と労力を要するため補助金が高額であった高齢級間伐が一番低い単価に見直されたり、高度な特殊技術を要する伐採作業者が一番単価の低い一般作業員単価で設計されていたり等補助金における様々な問題も結果的に林業の現場に無理を強いることの一因となっている訳であり、労働安全を議論する上でこの補助金制度設計内容も一緒に改善していく必要があると考えています。民有林の間伐に支払われる造林補助金には、保安林改良事業のような公共事業による間伐工事費に認められている共通仮設費、現場管理費、一般管理費といったものは一切無く、労災保険料など実費を賄う諸掛率というわずかな経費しか認められていません。同じ間伐という作業を行っているにも関わらず支払われる金額が大きく違っていることも問題だと思います。
次回は森林業がいかに知識集約型の産業であるかについてお話します。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
コメントしにくい話ですが、行政に対する不満や疑問には答えないといけないですね。
推測で申し訳ありませんが、普通に考えると、過去の労災事例(特に死亡災害)で元玉切りで起こったものが一定程度あったために、元玉切りを禁止事項にしたものだと思います。かかっている木が思いもよらぬ方向に倒れる、すべり動く、跳ね返るという事が直接の原因で起こった災害だと思います。
林災防は労働災害防止団体法という法律に設置根拠を持つ官製組織で、厚労省によって決められたことを事業者に遵守させることが仕事ですので、その立場からすればお話にあったことは当然のことになります。厚生労働省において決められた禁止事項等を変更(修正)するには、それが安全であるという根拠を必要としますが、安全であることを証明することは、災害事例をもとに危険であることを証明するよりもかなり難しいことだと思います。まずは、アメリカで安全とされている理屈を紐解く必要があるでしょうね。さらに、大学の先生などに協力してもらって、過去の元玉切りの死亡災害事例を分析して、元玉切りが原因ではなく、退避不足や接近作業、上下作業などが原因であることを明らかにして、そのうえで、厚生労働省に要請するといった手順が必要になると思います。その要請に基づいて厚生労働省が(委託するなどして)必要な実験・実証をするのであって、その要請を行うために作業者が自分で禁止事項を冒して実験するという事が許されるとは思えません。残念ながら、それでデータを取ったにしても門前払いになると思います。
造林補助金の話は、かかり木についてそこまで内実がわかっているのならば(私は知りませんでした)、かかり木の発生確率、取り組まれたような作業時間などのデータを用意して、県を通じて国に要望を出す、あるいは全森連を通じて国に要望を出すという事ではないでしょうか。造林補助金については、基本的に林野庁が作業条件に応じた工程を設定しているはずです。また、県が予算規模に合わせた低い標準単価にしているという事が行われていた(る?)ことは知っています。県が低い標準単価を設定することで、実質的に補助率が下がる事になります。補助事業は予算の範囲内でという事が前提ですから、予算事情から実質的な補助率を下げること自体は事業上やってはいけないこととまでは言えません。その分は森林所有者等の負担が増えるという事です。ただ、そのことが主たる原因で、実施主体が危険な作業を行うことになっているというのであれば、粘り強くお願いするのが本筋です。表立って言えない話ですが、県が聞いてくれない場合、県会議員を焚きつけて県議会で厳しく質問してもらう(県の林務部局からは嫌われるでしょうが…)という事も一つの手です。答弁する県の上層部は、そのような実態を知らない場合が多いので、議員から追及されると苦し紛れに善処してくれるかもしれません。何せ人命がかかっていることですから。
もう一つ、保安林改良事業と造林補助金とは、そもそもの仕組みが異なります。ご案内かもしれませんが、かなりの人は誤解しているので、長くなりますがお付き合いください。
保安林改良事業は、県が発注する治山事業です。治山ダムを造るといった工事と変わらず、受注する森林組合等は県と請負契約を交わして、仕様書に従って工事(間伐作業等)を行うという事で、県が発注する他の公共事業の工事と何ら仕組みは変わりません。請負事業者がきちんと受注事業を実施してくれるように、お話にあった間接費を請負費用に組み込んで契約をします。一方、造林補助金は森林所有者等が行う造林、間伐に対する補助金です。請負費用ではありません。森林所有者から委託を受けて森林組合が実施主体となる場合でも、国や県からの補助金であることは変わりません。ここに大きな違いがあります。森林所有者等が行うことに補助する、のですから、事業をきちんと実施することは森林所有者等の側の責任なのです。
造林補助金の算定では、実施主体が作業を行うのに必要な共通仮設費は標準単価の中に組み込まれている計算になっています。現場管理費や社会保険料(加入実態による)などの間接費分(諸掛費)はプラスされています。多分、20%〜30%程度が標準単価にプラスされているはずですが、それに補助率(68%など)がかかります。
しかしながら、請負事業では積算される一般管理費等(ここが実際には受注者の利益の源泉になります)の大部分については、補助金は森林所有者等が行う行為に対する助成であるとは、つまり、事業に伴う利益をあたえるものではないという理屈なので算入されないのです。発注ではなく助成であることの限界と思ってください。国有林や公有林等における国や県などが発注する造林事業であれば。一般管理費等も相当程度算入されているはずですし、補助率もかかっていません。(ただし、市町村などは、厳しい財政事情から自己負担(市町村自らの財源からの支出)を抑えるために算入していない場合もあるかもしれません。)
このように、同じ作業をしても、受け取る金額は請負金と補助金では違いが生じることはやむを得ないのです。こうは言っても割り切れないかもしれませんが、造林すべてを公共事業の発注事業にでもしない限り、この差を埋める理屈を作るのは難しいと思います。
すみません。ご理解いただければありがたいです。