森を守り育てることの大切さを教えてくれる世界的絵本作家ドクター・スース原作の「ロラックスおじさんの秘密の種」。
冒険アトラクション3Dムービーとなって日本の劇場にやってきた、森を守る不思議な精霊であるロラックスおじさんは、日本での劇場公開を記念するとともに、日本の森を元気にしていく活動の環を拡げていくため、「フォレスト・サポーターズ」に仲間入りしています!
ところで、ロラックスおじさんって、どんな人なのでしょうか。
この物語は、建物ばかりか花や木といった植物までもが
すべて人工物で作られた未来都市。
私たちの暮らしに欠かすことができないおいしい空気でさえ
人工的に作られている自然がゼロになってしまった世界が舞台です。
そんな中、本物の木を見るために、また豊かな森を取り戻していくために
かつてこの街に緑が生い茂っていた時代を知る謎の老人に話を聞きながら、
“秘密の種”を探し求めて大冒険を繰り広げる少年の活躍を追う物語。
声が大きくて偉そうだけど、可愛らしく心やさしいロラックスおじさんは、
冒険アトラクションのこの物語を通して、私たちを楽しませながら、
森を守り育てることの大切さを教えてくれます。
そして、「フォレスト・サポーターズ」に仲間入りすることで、
森の大切さに気づき、そして映画の世界を越えて、
日本と世界の森を元気にするための行動をはじめる仲間が
拡がっていくことを願っています。
『豊かな森を取り戻していくために、きみが何もしなければ、
世界は何も変わらないということじゃよ!』
○DVD「ロラックスおじさんの秘密の種」(発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント・2013年)
「ロラックスおじさんの秘密の種」は、ジュニア向けの物語として出版されるとともに、映画のDVDも発売され、森を守る呼びかけが拡がっています。この度、京都教育大学の山下宏文教授が子どもにすすめたい「森」の話としてご紹介くださいました。
京都教育大学 山下宏文教授によるレポート
Report 澁谷正子・著 ケン・ダウリオ/シンコ・ポール・脚本『ロラックスおじさんの秘密の種』 小学館 2012.9.25
2012年10月に日本で全国ロードショー公開した映画をジュニア向けに同名で物語化したのが本書である。物語の舞台は、プラスチックで囲まれた町、スニードヴィル。木や花や芝生などの植物もすべてがプラスチック。だから、土はいらないし水をやる必要もない。落ち葉の掃除も必要ない。それでいて、花はいつまでも鮮やかな色を保っている。その反面、何でも工場でつくられるので、工場の煙突からは黒い煙、排水口からは化学物質が排出されている。それらは外壁で隠された町の外を汚し続けていた。そのため、この町では空気は買うものと決まっていた。そして、その空気を売って大もうけをし、絶対的な権力をもっていたのが、オヘアという男である。
本物の生きた木が裏庭で育つのを見てみたいというオードリーという女の子の願いを叶えようとテッドという男の子の本物の木探しが始まる。テッドは、おばあちゃんから年老いたワンスラーが知っていると聞き、町の外の谷まで会いに行く。ワンスラーから、スニードヴィルはかつては自然豊かな美しい場所であったが、この谷に生えていたフサフサの木の葉がワンスラーの発明したスニードという編み地の材料となり、製品の大ヒットによって、その木は最後の一本まで伐られてしまったことを聞く。ワンスラーは、森の番人で木の代表者のロラックスおじさんから、木を伐ることをやめるように再三警告を受けたが、結局やめることはできなかった。ロラックスは、動物たちを出て行かせ、自分も空の中に消えていった。草もない荒れ果てた土地だけが残された。
テッドと話すうち、ワンスラーはロラックスの残した言葉「もし、しなければ」の意味に気づき、テッドにフサフサの木の最後の種を渡し、町を変えることを託す。しかし、町の権力者、オヘアから厳しい妨害を受け、種をめぐって争奪戦が始まる。
争奪戦をくぐり抜け、テッドは町の真ん中に種を植えようとするのだが、オヘアの口車に乗せられ「ハチに刺されたくない!」「落ち葉の掃除なんか、真っ平だ!」と町の人々に反対される。しかし、破壊された外壁にできた空間から外の景色を見て、人々からも「木を育てましょう」「昔のように、あたりを木でいっぱいにしよう!」と声があがる。ひとつの種、ひとつの芽、一本の木が、やがてスニードヴィルを公害のない緑あふれる町へと変えてゆく。町の周辺の土地にも自然が回復し、ロラックスも再び谷に戻ってくる。
この物語では、樹木の光合成による酸素供給や空気浄化の機能に注目する。これらは、林野庁が森林の有する多面的機能としてまとめる八つの機能(生物多様性保全、地球環境保全、土砂災害防止機能/土壌保全機能、水源涵養機能、快適環境形成機能、保健・レクリエーション機能、文化機能、物質生産機能)のうちの快適環境形成としての大気浄化と地球環境保全としての地球温暖化の緩和に相当する。酸素供給は二酸化炭素吸収と表裏の関係なので、地球温暖化の緩和と一体である。しかし、本書を読むと森林の酸素供給機能は、森林の有する多面的機能として、やはり筆頭に掲げられるべき機能なのではないかとも思えてくる。森林の酸素供給機能が人間にとって本質的であることを、改めて考えさせられる。
また、森林は酸素供給や空気浄化といった機能だけでなく、存在そのものが人間にとって本質的であるということにも気づかせてくれる。どんなに利便な生活を手に入れたとしても、自然とのつながりのないまさに人工的な環境のもとで、人間は豊かに生活してゆけるのかといったことへの疑問である。そして、自然とのつながりを大切にしつつ、豊かな生活を維持していくためには、我々は何かを「しなければ」ならないのである。テッドは言う。「もし、何もしなければ、環境は悪化するばかりだ。ぼくたちが今の暮らしを変えなかったら。でも、まだ遅くない。この種を植えることからスタートしよう!」
日本では、スニードヴィルと違って新たな森林を育てるという余地はほとんどないかもしれないが、身近なところの緑を増やし、すでにある森林をいかに健全なものにしてゆくかといったことが「しなければ」ならないことなのだろう。また、スニードヴィルの人々のように、「種を播く心」を育んでゆくことも大切にしなければなるまい。