□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第15回) 再造林への思い
おおすみ100年の森理事 岩崎 理恵
昨年、屋久島は世界遺産登録30周年を迎え、屋久島の魅力を新たに認識し、持続可能な島づくりに向けた今後の課題や取組を考える良い機会となりました。私が、創業65年。本土最南端の大隅の地で、林業と屋久杉専門木工業を営むこの会社を先々代から受け継ぎ三代目として立つことになったのも昨年の事です。
林業、木工業を引き継ぎ、私達がいかに木から離れているか、実感することばかりです。もはや銘木は死語となりつつあります。木の柔らかい硬い、香りの違い、樹種や特性など、暮らしの中で学ぶ機会が殆どありません。山師に至っても、どの木が有用広葉樹なのか見分けることが出来る人材はごく少数です。屋久杉の木取なんて出来る人はもう数える程でしょう。 広葉樹利用の価値が失われ、各所で広葉樹巨木をチップに加工してしまう、幅広の帯鋸があればむしろ歩留まりがいいと何百年の杉の大径が合板用に挽かれるといった銘木を愛する人達には何とも残念な時代となりました。ですが、嘆いてばかりはいられません。未来ある子供たちに木の良さ、大切さ、先人たちの思いを伝えるべく、林業重機を使った林業木育に加え、Shopbot(CNCルーター)を利用したデジタルファブリケーション木育を始めました。現在、小学5年生を中心に森林や林業、木工業などを一緒に学んでいます。
木育にはいろいろな樹種の地産材を利用しています。しかし、大隅の山はウッドショックの影響もあり、県外業者による伐採が無秩序に行われ、再造林されない事案が多く、いわゆる禿山が目立っています。我が町におきましても地拵えどころか、目も当てられない惨状の山が多く、地元民から不安の声が上がるほどです。
かつては、自伐林家型の循環サイクルで、自分の山だから伐った後も綺麗にする事が当たり前であったでしょう。ですが、現在のように伐った後の山の状態が伐木業者に委ねられ、地拵えの明確な基準も検査もなく放置されると、地拵えの負担が造林する側に重くのしかかかります。最近、鹿児島県では、放置林に対する地拵え補助金も対応されてきましたが、その負担を十分に補えるとはとても言えないものです。現状、荒れた山の、かなりの面積の再造林が必要となってきており、地元森林組合もキャパシティオーバーの状態です。苗の不足なども大きな問題です。
厳しい現状ではありますが、今、心ある山師、また我々地元事業体は、未来の子供たちの為に山をこのままにはしておけない、と立ち上がり、乱伐された土地を自ら引き受け、造林事業、苗事業に取り組もうとチャレンジしています。森林経営計画を立て、自分たちで山づくりをするのです。地元事業体自らが地域をモリアゲて行く事が持続可能な森林づくりに繋がると考えます。
経営計画を立てていく上で、人工林を再造林して針葉樹を植えなおすというだけではなく、フィールドによってはビオトープ化したり、広葉樹にも目をむけたり、森林の幅広い活用を考えることが重要だと考えています。地域のニーズに沿った施業を実施していくことがより森林の機能を高めるからです。その為には、今後さらにステークホルダーとの踏み込んだ対話は必須になるでしょう。サプライチェーンの構築、森林認証問題、さらなるマイクロ六次産業化推進など考えることは山積みです。
林業は「絶望」の連続です。でも、山が好きで、木が好きで、自然を愛している同朋が大勢います。それこそが大きな「希望」ではないでしょうか。
100年後のおおすみの森が人と繋がる持続可能なものになるよう励んでまいります。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
素晴らしい取組を紹介してくださいました。
ようやく建築材利用に適した太さにまで成長してきた人工林ですが、育てる期間をあまりにも長く過ごしてきている間に、伐採して利用することや利用した後に造林することについてシステムをあらためて作れないままに来てしまいました。森林所有者の協働組織である森林組合も間伐、間伐材の利用中心の態勢だったため、森林所有者は所有森林をお金に換えたくてもままならない状況でした。先人が作ってくださった大きな木材資源の利用により林業と山村の再興を図ろうとした政策と木材産業界の国産材利用の企業戦略によって、伐採利用が進んでいく中、伐採後の林地の放置、再造林の放棄が、森林の公益的機能や林業の持続性を危うくする流れに向かいかねなくなっています。
林業は「絶望」の連続と書かれていますが、育てるばかりでほとんど資金が蓄積できなかった林業業界で造林の態勢を整えるには、あらかじめ立木資源の伐採が起こらないと進まないわけで、今はその過渡期にあるのだと考えています。絶望せずに、これから何としても、持続する循環利用の環をつないで回す取組を全国で進めていかなければならないのです。そのために、林業も木材産業も、行政も、研究開発部門も、人材育成部門も、需要部門も持続する循環利用を合言葉に取組を進めていかなければなりません。地域間の消耗戦となりかねない競争に陥らないためにも森林を伐らずに利用しながら、放置された伐採地を再生していくことも考えられます。これらのことが、森林と林業を過渡期の閉塞から抜け出させるカギになるものと思います。
私の持論ですが、取組が持続するためには持続的に収入があって地域にお金が回ることが必要なのです。しかし、それだけでは十分ではありません。報告にありますように地域のニーズを捉えることが何より大事です。地域のニーズは地域の幸せを育てる手がかりだからです。地域のニーズをたくさん聞き取り、きちんと捉えて、丁寧に掘り下げ、ビオトープも広葉樹の活用も森林認証もサプライチェーンもマイクロ六次産業化も地域を幸せにするように考えてください。地域の森林と地域の人が繋がり、そして、どうぞ忘れず地域にお金が回り続けることを考え、「希望」の取組を進めてください。