□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第17回) ドローンToハウジングの実践から見えたもの(4)林業が住宅産業に伍していくために
文責:文月恵理
木島平のカラマツ林をリモートセンシングしたデータを伐採・造材に生かし、住宅の建築にまで繋げた実証実験、その結果を一言で言えば、住宅産業が基準とする品質レベルに、林業側がピンポイントで応じていくことはまだまだ難しいという事でしょう。事実、大量に伐採し同じように造材した中から、住宅向けの用材に適したものを選木し、残りを合板やチップ、燃料と振り分けていくのが従来の木材生産のやり方です。
しかし、この方法で働く人に十分な待遇を提供し、再資源化を確実に行っている地域や事業者が果たしてどれだけ存在するでしょうか。また今はできていても、これからくる人口減少に伴う、住宅需要の激減や働き手の大幅減、そのような事態に対処することは可能なのでしょうか。現在でも、主伐後の再造林は3〜4割しか実施されていないのに、人手不足の進行する中、最も機械化が難しいとされる造林・保育の現場にどうやって人を手当するのでしょうか。考えれば考えるほど、木材を大量に伐って用途ごとに選別するという方法は、多くの地域でいずれ行き詰るような気がしてなりません。
そんな状況の中、これからの林業に必要なことは、「伐ってみないとわからない」からの脱却ではないかと、私は最近考えています。かく言う私自身、林業の世界を歩き回るようになって以来、多くの人から当然のように「最後は伐ってみないとわからない」と聞かされ、そういうものだと信じてきました。しかしそれは自分の山と長年真剣に向き合ってきた人の言葉ではなく、例えば手に余る広大な面積を管理しなくてはならない森林組合の人々、木材をできる限り安く買って儲けたい木材業界の人達が言っていたのだとようやくわかってきました。
立木の材質を評価する、それができる「目利き」と呼ばれる人達がいて、彼らが森に入ってある程度の調査をすれば、搬出できる材積量とその売上はかなりの精度でわかるようです。現代では航空レーザデータや、安価なライダー(レーザースキャナー)で3D写真を撮影できる機材もあり、間伐の際の材質情報のフィードバック、サンプル調査などを組み合わせれば、相当の確率で判定が可能でしょう。鍵はその「目利き」の人達の能力を、いかに早くAIに学習させるかです。
「目利き」の方々は、自分が長い時間をかけて養ってきた眼力を、機械などに置き換えられてたまるものかと思うかもしれません。しかしそれをしていかなければ、地域の森林の価値を高め、少ない人数で守っていくことはできない可能性が高いとしたら、進んで協力してもらえないものでしょうか。
前回のまとめでご指摘頂いたように、木材は生物資材として均一化が難しい性質を持っています。更に森林の多くは長く手入れされず、建築用材として期待できる林分は多くないという声も聞きます。費用をかけて精査する効果は低いというのが一般的な認識かもしれませんが、人がやるから採算が取れないのです。地域ごとの特性を含めてAIに学習させ、機械化・自動化していけば必ず採算分岐点を超えるでしょう。
そうして生産できる材の品質が高い精度で判定できれば、地域の住宅需要をまとめた部材情報とマッチングさせ、最も歩留まりが高く、売上高が大きくなるように造材できるはずです。乱尺で丸太の直径もバラバラなら、それが住宅のどの部分に使われるのかを判別する固有のラベルになります。製材所でスキャナーを通る際、自動判定されて製材・印字・乾燥され、万一想定外の使用不可部分があれば、翌日以降の造材指示にその部分を追加していけばいいのです。それは需要と供給が近接しているからこそ可能な調整です。
現在の木材生産・流通の仕組みでうまくいっている地域は、住宅部材に直結して最も高い利益を出すこの生産方法を少しずつ組み入れていく、課題を抱えている地域では、思い切ってこのやり方を主体とする方向に舵を切ってみる、そんな様々なアプローチがあり得るだろうと思います。
AIを使いこなせる人材を林業界に引き入れることは急務でしょう。そのためには若者が持てる大きな夢、世界観を提示する必要があるのではないでしょうか。彼らが危惧する気候変動も、人口減少も、時間との闘いです。アレクサンダー・グラハム・ベルの発明した電話という機械は、私達の社会の、距離と時間の概念を変えました。伐採時に人を補助するティンバーベル、バラバラなサイズの丸太を効率的に製材・乾燥するランバーベル、これは私の妄想から生まれたAIの仮称ですが、いつかそれらの助けを借りながら、森を宝に変えて生きる私達の子孫に、想いが伝わることを願います。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
立木を買うとき、評価や見積もり力は利益の源泉です。「目利き」と呼ばれる人達は、正確にしかも短時間で見積もりができるように、経験を積んでこられました。良い物件が出ると、「目利き」の方が集まり、競い合ってきました。各「目利き」の評価方法や長年のデータは門外不出ですが、材価の長期低迷でそういう「目利き」の方もいまは高齢化がすすんでいるのではないかと思います。いまはリモートセンシング技術も使って、「目利き」の方の眼力をAIに学習させるところまできています。
木材を大量に伐って用途ごとに選別するという方法は、買う側に高い値をつけるモチベーションが必要です。所有森林の中から、住宅向けの用材に適したものだけを選木して伐り出し、直接消費者に届けることができれば、少ない労働力で山元に多くの利益を還元することができます。これを事業レベルにするためには、消費者に対する窓口と、ある程度の広さの森林が必要になると思います。
良い木ばかり伐っていては「なすび伐り」になって、悪い木ばかりが残ってしまうのではないかという危惧があるかもしれません。しかし、伐採率が低ければ、残った細い木は太くなっていきますし、太くなることで形質が良くなっていく木もあります。曲がった個性のある木も使い道があります。林内で伐ることにより空間ができれば、次の木が育ちます。要するに択伐林に他なりません。このような伐採は欧州ではすでに実行されています。例えば、森林組合を通じて日本向けに直径26cmの木を集めなさいと小規模森林所有者達に指令が出ると、こぞって集めてロットを作り、日本の製材基準で製材して輸出します。森林の経営規模に応じて生産計画を立てれば、木島平での取り組みが実行可能になります。歩留まりも事前に想定しておかなければなりませんが、AIで予測可能になるでしょう。はじかれた材は当初は副産物としてチップなどに回っていくと思いますが、伐採のサイクルが回るにつれて、林相が改善され、良木の割合が高くなっていくと思います。吉野林業がそうではないかと思います。択伐は路網を充実させる必要がありますが、皆伐とちがって、大量に植えたり下刈りする手間も少ないです。少ない労働力で、いまの森林を活かしながら森林と消費者が直結した未来の林業の姿が見えてきました。