□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第16回) NPO法人おおすみ100年の森活動報告
おおすみ100年の森代表 大竹野 千里
当法人は、2022年4月に【人の手によって適切に管理された生物多様性のある大隅の森つくり】を目的に発足致しました。2019年度から始まった森林環境譲与税と森林経営管理制度の有効な活用を通して地元おおすみ林産業を活性化させ、持続的な大隅半島地域を振興するために活動しています。今年度で3年目を迎え、8月7日に菅内市町の林務行政担当方々との情報交換会を行いました。菅内6行政へ案内、3行政の出席があり立場を超えた活発な意見が交わされました。
今回は大隅地域で一番の課題とされている「再造林含めた造林事業の現状と課題」をテーマに絞りました。ここ鹿児島県大隅半島でも全国の森林に違わず伐採の最盛期を迎えています。そのため地元伐採業者だけでなく県外伐採業者も多く作業しており、ここ数年、森林施業計画外の皆伐作業、その伐採方法・再造林の有無が問題視されてきました。0.4クラスの大型重機で皆伐作業を行い、再造林せずに帰ってしまうという問題です。また、伐採作業後の片付け・地拵え等がされておらず次の植栽作業にコストがかかってしまう、というのが現状です。
この森林施業計画外の伐採・再造林に対しては、3年前から菅内市町で伐採届の厳密化を図るなど統一した窓口対応を行ってきました。また、錦江町においては単独で条例を定め、独自の再造林仕様について定めています。このような窓口対応によって伐採届数が少なくなり、一定の効果があったと行政側は分析しています。しかし、われわれNPO、事業者からは伐採作業そのものが、伐採後を植林するような作業になっていない。実際の現場では地拵えなどコストの係増しが発生し、再造林の足枷になっていると訴えました。一方で、NPOにおいても森林施業計画を森林組合と一緒に申請し再造林から森林経営林を増やしていく予定だとのべました。
このように、立場が変われば同じ問題でも認識に若干の温度差があります。そしてこの小さな認識のズレが課題解決へ取り組む際の大きな障害となります。立場を超えて同じ問題に取り組むのですから、先ずは課題認識を一致させ、お互いの役割を理解しあうことが肝心だと考えます。何度も何度も官民一緒に地元森林についての勉強会を重ねていくことで自ずと解決に向けた取り組み内容が出来上がると思います。幸い、この再造林課題に官民一体となって取り組むことに誰も異論はなく、むしろ年々『未来の森づくりのため共に取り組もう』 という我々の意識が高まっています。今年度は3回から4回程度このような勉強会を開催する予定ですし、11月には柳沢林業の原薫さんをお招きして講演会も予定しています。まだまだ問題に対する議論が足りず実際の取り組み作業には時間がかかりますが、今後も各市町や関係者と情報交換や協議をかさねて内容を進化させ、具体的な事業へと展開していく予定です。
繰り返しになりますが我々NPOが目指すのは【人の手によって適切に管理された生物多様性のある大隅の森つくり】です。【人の手】とは、現在はもちろんこれから先、未来の人も含みます。【適切に管理された】とは、除伐間伐などの作業だけでなく、環境保護林やどの山にどんな樹種樹齢の木があるかなど、森林のデータ管理も含みます。【生物多様性】とは、針葉樹などの木材生産だけではない、広葉樹など環境・里山整備の森林つくりも目指すものです。行政・大学・地域の皆さんの力をお借りしながら今後もこの理念に基づいて活動を継続していきたいと思います。
☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二
「人の手によって適切に管理された生物多様性のある大隅の森つくり」はとても素晴らしい、そして意義ある目標だと思います。
最近、森だけでなく様々なものに手入れをすることが疎かになってしまっており、私はそのようなものを見ると、美しくないなと悲しく思ってしまいます。手入れをすることで機能を高めたり確保したりするだけでなく、美しくする(もしかすると活き活きということと近い観念かもしれません)ことが地域の創造には重要な要素であると思います。美しさの認識は人それぞれなのでまとめるのが難しいですが、大概の人が美しいと認めるものは、外来者の関心だけでなく、地域住民や関係者の誇りや一体的な行動のよりどころになると思っています。
手入れされなくなったのは、地方における担い手の減少・高齢化だけが原因ではありません。元々は、手入れの対象が社会の変化に伴いお金にならなくなったということが、手入れが疎かになってしまっている大きな原因だと思います。日本の森もそうです。ぜひ、収入を得ることも理念に含めて欲しいです。そのことが地域の方々の関心を呼び起こすと思います。木材でも木材以外のものでも、つくる森から収入を得る道をぜひ議論し、考えてください。お金の話は立場の違いを越えた課題認識の一致にもつながるものと信じています。
もう一つ、この目標が素晴らしいと思うところは、生物多様性のある森つくり、ということです。生物多様性の保全に配慮し、というのが森林施業の常套句なのですが、生物多様性があることを目標にしているのですね。私は、林野庁にいる時から、気候変動の抑止と双子の関係にある生物多様性の保全を森林施業なかんずく人工林の施業をする林業経営の中で打ち立てたいと思っていました。大隅の皆様に私有林においてそのような森つくりをなんとか実現して欲しいです。お金の話ばかりになって恐縮ですが、生物多様性が森からの収入の多様性に結びつくように、世の中の方から近づいてきたと思います。