椎野 潤(しいの じゅん) 2025年9(研究報告№150)
「巻頭の一言」
世界水準の科学技術人材の育成を高校時代から進める「スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)が地方で成果を上げています。文部科学省が教育水準を認めて支援する指定校は20年で3倍に増えました。福井県では生徒が開発したサバ缶が宇宙食になり、小惑星探査機「はやぶさ2」に関わる出身者も現れ、宇宙産業の振興につながっています。2025年7月26日、日経朝刊、2面記事、(桜井祐介)を参照・引用して記述。
[日本再生][地域創生] スーパーサイエンスハイスクール 福井県 生徒が宇宙食開発 指定校 20年で3倍
「はじめに」
文科省によりますと、2025年度のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校は全国で230校になりました。2024年5月1日時点の全高校の4.8%を占めています。指定されると1期あたり原則5年間、年500万〜1200万円の国の補助があり、高校は海外視察や企業との連携で、生徒に自発的研究を促しています。
指定校の割合を都道府県別にみますと、国の補助は、福井県と鳥取県が12.5%で最も高いのです。奈良、徳島、山梨、三重の4県が続き計6県が1割以上です。いすれも地方圏で、自治体の旗振りで教育力増強が進んでいます。
[福井県]
福井県は2003年度の高志高校(福井市)を皮切りに現在4校が指定を受けています。全て県立高校で、県は全体の調整役を派遣して研究指導を支援し、指導経験のある教員を別の高校に移動させ、ノウハウを共有してきました。杉本達治知事は、「福井県は製造業比率が高く小さな町工場が多いのです。ものづくりの付加価値を高めるため理数教育の強化が必要だった」と話しています。
指定校ではユニークな教育が進みます。若狭高校(同県小浜市)では、生徒が地元食材のサバ缶詰を開発しました。無重力でも跳び散らない「食品の性状」や栄養成分、味などの基準をクリアして2018年、宇宙航空研究開発機構(JAXA、注2)に宇宙日本食として認定されました。2020年には国際宇宙ステーションで、宇宙飛行士が食べました。
2024年度からは、フィリッピンや台湾の高校生との共同研究も始めました。お互いの関心テーマを発表しあって共同の研究チームを結成し、1年かけてオンラインも駆使しながら地域課題の解決策を探っています。
生徒の行動の動機を高める「役割の機能」も現れました。藤島高校(福井市)出身の吉川健人さんは、JAXA、(注2)の研究開発員となり、ロボット技術を生かして「はやぶさ2」の開発に携わりました。火星の衛星からサンプル採取を目指す探査計画にも参画します。
県の調査では、理系を選択する生徒は、SSH(スーパーサイエンスハイスクール、注1)指定校では55%と他の高校より17ポイントも高いのです。修士・博士過程に進む比率も高いとの追跡調査もあります。「福井県で宇宙産業に関わりたい人も増えた」と杉本知事は話しています。
[愛媛県]
愛媛県の松山南高校(松山市)は、2002年度のSSH(注1)創設から指定が続きます。愛媛大学が近く、教授の助言や研究施設の利用など、高校と大学の連携が進みます。国内外での研究発表と受賞、国際共同研究などの成果が評価されてきました。
2005年卒の米コネチカット大学准教授、萬井知康さんらは、卒業生が助言する「先輩から新人への指導制度」を2010年に母校で立ち上げ、今も一部生徒の米国視察を大学で受け入れています。2008年卒の石田萠子さんは、愛媛大学で特撰みかんなどの地元産物を研究しています。そして機能性の食品を開発し、農家や地元食品企業と連携して地場産業への貢献を目指しています。
[おわりに]
文科省科学技術・学術審議会の次世代人材育成ワーキング・グループは6月、今後のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の方向性を示しました。科学技術人材の育成に意欲的に取り組む指定校を、手厚く支援していく見込みです。
SSH(注1)に詳しい京都大学の楠見孝特定教授は、研究したいテーマと「自分の好みにかなうものを取りあげて」大学に進学してくる学生が、増えたことを評価したうえで、今後は「指定を受けた高校にも好影響が及ぶ連携を、各地で広げることが求められると思う」と話しています。(2025年7月26日、日経朝刊、2面記事、(桜井祐介)を参照・引用して記述。)
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照・引用した、日本経済新聞の2025年7月26日朝刊2面記事に、三つの図表が記載されていた。「スーパーサイエンスハイスクール指定校比率ランキング。(注)2025年度指定校の数を2024年5月1日の高校数で割った。出所は、科学技術振興機構。多くの科学技術人材を輩出。全高校の5%程度。
[図表1]
世界水準の科学技術を持つ人材の育成を、高校時代から進める「スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)が日本各地の地方で具体化してきました。
2025年7月26日の日経新聞紙上に、このSSH(注1)の全国の認定状況が、図表1(注3)として表記されています。これは日本列島の地図として記載されていました。この図表は「スーパーサイエンスハイスクールの指定校ランキング」と題した図表でした。
[第1群]
ここでは、2025年度指定校数を、2024年5月1日時点の高等学校数で割って計算しました。算出したスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校の割合を、都道府県別にみてみますと、福井県と鳥取県が12.5%で最も高くなりました。ここでは、指定高校割合の第1位の2か所を第1群としました。
[第2群]
ここでは、第2群も同様の方法で計算しました。すると、奈良、徳島、山梨、三重の4県が、これに続いていました。指定校の割合は10%以上です。ここでは、このスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校の割合第2位の4地区を第2群としました。
[第3群]
第3群は、この方法で計算していくと、ぐっと数が多くなるのです。25ヶ所あります。これが、このプロジェクトの主力部隊です。そこで、このプロジェクトの現状での主力25か所とみられる、この人達を第3群としました。
[第4群]
第4群は、この方法で計算しますと、指定校割合が4%未満の処で、指定割合が最少の地域になります。これを第4群としました。ここに14か所入りました。
この1〜4群を整理して記しておきます。
第1群は、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)指定校数の比率が最も大きかった処(12%以上)です。第1群に入っていたのは、福井県、鳥取県の2か所でした。
第2群は指定数の比率が8〜12%未満だったところで、ここに入っていたのは、奈良県、徳島県、山梨県、三重県の4か所でした。
第3群は指定数の比率が4〜8%未満だったところで、この群の数は、とても多くなりました。27か所あります。それは以下です。
秋田県、宮城県、山形県、新潟県、茨城県、栃木県、群馬県、石川県、長野県、埼玉県、東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、和歌山県、兵庫県、島根県、岡山県、大分県、宮崎県、熊本県、鹿児島県、愛媛県、香川県、高知県の27か所でした。
第4群は、指定校割合が4%未満で最少の処で、ここに入っていたのは、北海道、青森県、岩手県、福島県、富山県、千葉県、静岡県、岐阜県、広島県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、沖縄県の14ヶ所でした。
これまでに分析を実施した、数多くのプロジェクトでは、第1群が、最も進んでおり、最後の群が、最も立ち遅れたグループでした。でも、今回は、そうとはいかないのです。この稿で、前半に書いた解説では、スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)指定で、最も進んでいたのは、福井県で、続いて愛媛県でした。でも、第1群に入っている鳥取県と第2群に入っている奈良県、徳島県、山梨県、三重県が、第3群の愛媛県より優れているのかどうかは、わかりません。これらの5県は、日本国を牽引する力を持つ地域と言うよりは、地域を代表する「頑張っている地域」なのです。
愛媛県と一緒に第3群に入っている強力な諸地域が、台頭してきて愛媛県と共に第1群に並ぶことは、充分考えられるのです。また、第4群にも、骨太の地域が散見されます。
この研究報告のデータは、スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)の指定数のデータで、そのデータとしては正確なものなのですが、日本の未来を担って行ってくれるところはどこなのかなどを論ずるときは、また、別のことも考えねばならないのです。
なお、このスーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)の指定活動は、まだ始まったばかりなのです。これから、どんどん指定数が増えて行くと、状況は激しく変わって行くでしょう。
[図表2]
図表2(注4)は、「多くの科学技術人材を輩出」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年7月26日の朝刊に掲載されていた図表です。これは以下です。
図表2 多くの科学技術人材を輩出
出身高校(所属都府県) 科学技術人材の氏名・所属部署名・職名
水沢高校(岩手県) 伊東達也 日本原子力研究開発機構 職員(研究職)
筑波大学付属駒場高校(東京都) 瀬尾拡史 医師/サイアメント社 社長
藤島高校(福井県) 吉川健人 宇宙航空研究開発機構 研究開発員
甲府南高校(山梨県) 藤島有絵子 理化学研究所ECL研究ユニットリーダー
立命館高校(京都府) 田中亜美 立命館大学准教授
松山南高校(愛媛県) 萬井知康 コネティカット大学准教授
石田萌子 愛媛大学助教授
長崎西高校(長崎県) 本多隆利 マサチュセッツ工科大学リサーチサイエンティスト
ここには、全国各地の高校卒の著名な科学技術人材が紹介されています。
[図表3]
図表3(注5)は、「全国高校の5%程度」と題した図でした。これは以下です。
図表の左側縦欄に、0、50、100、150、200という「指定校数」が記してありました。また、下欄横向きに、2002年度、10、15、20、2025年度と「年度」が記してありました。この縦欄と横欄を用いて「指定校数」の「棒グラフ」が書いてありました。
この図表は、2002年度の「20指定校数」から2006年度の「100指定校数」まで、棒グラフは急速に拡大していました。2006年度から2009年度まで「棒グラフ」は「100指定校数」で横這いとなり、2009年度から2013年度の「200指定校数」まで、棒グラフは急拡大し、2013年度から2020年度までは「200指定校数」を維持し、2020年度の「200指定校数」から2025年度の「240指定校数」までは、緩やかに増大していました。
すなわち、「指定校数」は、成長と横這いを交互に繰り返して、2025年度には、全
高校の5%程度である「240指定校数」に到着しています。
[まとめ]
世界的な高度技術を持つ人材の育成を、高校時代から進める「スーパーサイエンスハイスクール(SSH、注1)が、各地に実現して、日本各地の高校に対しても、高レベルの教育が実施できるようになりました。
福井県では、全ての高校で、物事が円滑に行われるように、全体調整を担当する調整役を派遣して研究を支援し、指導経験のある教員を、別の高校へ移動し、ノウハウを共有させてきました。これにより、生徒に「意欲」を持たせる「行動力」を大いに高め、役割や模範を感得させて「こんなことをやりたいという目標」を認識させました。
愛媛県の松山南高校でも、2022年には、文部科学省の「高い教育水準の創設と指定」が進みました。そして、国内外の研究発表の受賞と国際共同研究の成果が高く評価されてきました。ここでは高校と大学の連携が大きく前進しています。
2005年度卒の米コネチカット大学准教授、萬井知康さんは、大学先輩が新入社員に対して「コミュニケーションの推進や精神的サポート」を実施する手段である「直接の話し合い」を導入しました。2010年に、これを母校で立ち上げ、今も、一部生徒の米国.訪問を、大学は受け入れています。
この活動は、とても素晴らしい活動です。ここでは高校の生徒は、先生から教わるという受け身の形だけでなく、自分自身が自ら積極的に開発などを行っていました。高校生徒が地元食材のサバ缶詰を開発しました。無重力でも跳び散らない「食品の特性」や栄養成分、味などの基準をクリアして2018年、宇宙航空研究開発機構(JAXA、注3)に宇宙日本食として認定されました。2020年には国際宇宙ステーションで、宇宙飛行士がこれを食べました。
日本中の高校生徒が、このような積極的な活動をするようになったら、それは凄いことです。若い人達が、このような積極的な人達に育って行くとしたら、日本社会は、先を見て積極的に動く、凄い社会になると思います。
若い人の男女差は、日本では、まだあると思いますが、平等にすることを積極的に進めるべきです。若い女性のこの活動が積極的になれば、子育てが大きく変わっていくと思うのです。生活の考え方を根本的に変えていくには、小さい子どもの育て方が大事なのです。
若い女性は、出産した幼児が1〜2歳の頃から、自分の子どもに対して、どう育てたら良いか考えるはずです。
日本は人口減少が心配されていますが、もし、人口減少が止まらなくても、きっと大丈夫な体制が自然と生れてくると思います。赤ん坊を抱いて育てている当事者を、この環境に立ち入らせればきっと大丈夫です。
(1) 日本経済新聞、2025年7月26日、朝刊(2面)。
[付記]2025年9月8日。
塾頭から椎野先生への返信
1. 本郷浩二 教育の重要性と林業・木材産業における考察
以前ITリテラシーについて書きましたように、国民全体が教育を受ける機会を作ることは、仕事や暮らしの中で日々使う技術・技能・知恵・工夫が効果的かつ的確に使われるようにし、社会全体の生産性や各種の公私のサービスの有効性を引き上げていくうえで重要なことであると思っています。いわば、科学技術・技能の受け手の教育です。
一方で、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)は科学技術を駆使する人材の教育を目的として、選抜的育成を高校時代から図ろうとするものです。新たなもの、より高度なものを開発する、作るという側の能力を上げていくために、それをやってくれそうな人材の教育水準を高め、社会、この場合は産業研究界や学問研究界に送りこむ役割を果たしています。科学技術や技能の出し手、作り手の教育になるでしょうか。
これらは世の中にあふれる様々な仕組みを動かす車の両輪です。受け手に取扱いや操作を求めない自動化・無人化の技術・技能でない限り、受け手が取扱いや操作をしなければならず、それなりの教育を受けた人間でなければ利用できないからです。出し手、受け手のどちらが欠けても仕組みの効用を発揮できません。
SSHは、高度の教育水準を実現するという意味では、学校の差別化ということになるでしょう。学校単位の話ですから、個人を差別化しようということではないと思いますが、SSHをSSHであるが故に、進学先として目指す生徒が選択していることは間違いないでしょう。
しかし、義務教育ではなく、偏差値で序列化しているという面もある高等教育ですから、必ずしも差別化云々の指摘は当たらないでしょうし、物事の進歩のためには、進歩させる錐の役目を果たす人材が必要であることは言うまでもありません。また、その高度な学習を望まない者に強制されるわけでもないのです。あえて言えば、モノ、ヒト、カネの配分がSSHに偏ることによる受け手教育の水準低下が懸念されますが…
5年間の指定で、順次、別の高校が指定される仕組みは、一見、非効率に見えるかもしれませんが、3年間の高校生活として考えれば、個人においては必ずしも不利益ではないでしょうし、学校、教員のノウハウの共有化という意味では、理数教育の裾野を広げ、受け手の教育にも効果を上げることが期待されます。上述の受け手教育の水準向上ということにも目配りがされているのかもしれません。
このSSHの重要性は、そのような配分の偏りも含めて、大都市圏や県庁所在地に限らず、地方都市に分散して指定されていることにあるのではないかというのが、今回の椎野先生のご主張の芯であろうと思います。大都市圏でなくても高度の水準の教育を受けることができ、人材を輩出することで地域の希望と誇りを生むこともできるのです。福井や愛媛の例では、地域の産業・産品の質を高めることを通じて地域課題の解決、地域の創造にも貢献していこうとしているようです。人口が流出していく地方と都市の関係性の中で、地方にいること、地方にあることのメリットを考えて発展していけば良いと私も期待しています。
生徒にとっては、就職、進学に有利に働くというような功利的な志望動機があるかもしれませんし、教育という意味で、まだまだ、やり方を改善する必要はあるのだと思いますが、就職先、進学先の側にとって、意欲や問題意識が培われた生徒が入ってくることはとても重大な事であろうと思います。そして、産業研究や学問研究が進展したり、地域課題が解決されたりすることが、国そして地域にとってプラスになることは間違いないものと思います。そのような利他的な理念というか哲学も併せて教育して欲しいものです。
ひるがえって、林業・木材産業にとって教育とは何だろうと考えました。
たいへん遺憾ですが、林業や木材産業の発展が人材教育の目的や学習の目標になることはあまりなさそうです。いつもお話しますように、高度経済成長期前に伐ることができる木が乏しくなってしまい、産業として持続しなかった林業や、輸入林産物が木材製品に変化することによって衰退してしまった木材産業に、儲かるというインセンティブは働いてこず、特に教育の舞台としての魅力が感じられないのはやむを得ないことのように思ってきました。
儲からないのですから、志望する人間は残念ながら少なくなる一方です。職業高校の林業科、大学の林学科と言われる課程はほぼ消え去ってしまっています。そうすると、林業、林学を教えられる教員もいなくなるということになります。
やはり、人材教育の面では、儲かる、儲けるというインセンティブは重要であり、そう思って、お金の亡者のように、儲けることへのこだわりを言い続けてきました。儲からないことには始まらない。儲けることが重要であって、社会への貢献、公益や公共益といったことは、儲けるために利用する手段あるいは利用しなければならない考え方でした。
いわゆる森林整備(造林)の補助金は公共事業としての社会資本投資であり、林業経営の育成のためのものではなく、結果的にその補助金が林業の採算性を高めているだけですから、補助金をもらうことは恥ずかしいことではない、卑下しないで欲しいという話もしてきたのです。採算が苦しいから補助金漬けになっているのとは全く違うのです。
とは言え、高校の生徒や大学の学生にとって、魅力ある分野ではなかったのは変わりません。
それが、10年ちょっと前頃から、林業にお金の匂いがするようになり始めたかと思ったのですが、儲けるためのお話を林野庁の私のところにお話に来る方が出てきて、徐々に増えていきました。特に、圧倒的に世の中の流れから林業が遅れていたデジタル技術関連の分野に関する話が多かったのです。長い停滞期に技術革新がなされてこなかった林業分野にとって、一足跳びに先進技術に追いつくような話です。電波が届かない森林内では無理なアイデアも多く、でも、それさえも克服しようという動きも出てきました。
そして、カーボンニュートラル対策、SDGs運動などのとっかかりとして、CSRとしてではなく、収益分野の事業として森林を視野に入れる企業が増えました。今やカーボンクレジットは東京証券取引所で売買がされるようになっています。
このようなビジネスの世界に投じられると、林業・木材産業の人材育成と言っても、職業専門教育をやっている場合ではなくなってきます。ビジネスの世界の儲けるための教育を受けた人を林業・木材産業に取り込むための社会教育というべきものの方が必要になっている面があるのではないかと思いました。
森林は彼岸の世界。大部分の日本人が関心を持ち忘れてきた分野であるだけに、森林のことにも、林業・木材産業のことにも触れる機会が少なかったのです。そのような日本人に、森林・木材、林業・木材産業に触れる機会を作ることが必要になっています。
森林環境教育とか木育という教育プログラムがその役割を果たすのではないでしょうか。これまで、私は、将来、木を使ってくれる消費者になってもらいたいという消費者教育的な考え方で、これらに取り組んできたのですが、今後、林業・木材産業の活性化のための人材教育、社会教育として考えていくことが重要だなと考えたところです。
ありがとうございました。
2. 酒井秀夫
高校生は社会に出る自分と何をやりたいのかを問い直す自分とが向き合う時期です。将来の進路の選択には適性や社会への貢献の他に職業の安定性や収入も条件に入ってきます。一方で、小さい頃から自然界の不思議に対する知的好奇心を持っている子もいます。SSHはこうした高校生の才能をいかに伸ばすかにあります。
SSHの裏には支える指導者がいて、地元の大学との連携や、オンラインでのネットワークも強力なツールとなっています。高校生向けの科学系オリンピックなどに入賞すれば、大学の推薦入学のポイントも高くなります。しかし、こうした素晴らしい仕組みなのに、受け皿となる進学先の大学や企業の態勢はどうでしょうか。受け皿としての魅力が乏しければ、海外に出て行ったりしてしまいます。
SSHは公立高校が多いですが、一方で中高一貫の進学校は私立が多いです。大学合格が目的化してしまうと、高2でカリキュラムを終え、高3から受験体制に入ります。かつて農業高校や林業高校が全国にあり、後継者を育てていました。いまは総合科に吸収されたりしていますが、教育内容は充実したものでした。例えば木曽山林高等学校の教育資料は木曽山林資料館として展示されています。同校からは多くの技術者が輩出されました。SSHではないですが、長野県根羽村の根羽学園の生徒と卒業生らが、村内のクロモジとニオイコブシで香り付けした生キャラメルを開発し、森林の魅力を伝えています。各地の水産高校でも魚介の缶詰をつくったり、魚料理を開発したりしています。第3群は農業のさかんな県がそろい踏みをしています。農業には生命の本質が宿っています。高校生には環境から森林を見るという視点も大事です。第3群から多くのSSHが名乗りを上げて欲しいです。
以上