□ 椎野潤ブログ(長坂研究会) 恒久仕様の木造モバイル建築とは(その1)〜 動くみなし仮設住宅としての利用 〜
一般社団法人日本モバイル建築協会 代表理事 長坂俊成
一般社団法人日本モバイル建築協会(以下、当協会という。)は恒久仕様の木造モバイル建築の普及およびモバイル建築を利用した応急住宅の社会的備蓄等を目的として、2021年5月6日に設立されました。
モバイル建築とは工場で製造し完成した建築ユニットをユニット単位でトラック等に積載・輸送し、迅速に建設・移築することを繰り返し行うことができる木造建築物の総称です。ユニットが規格化されているため、複数のユニットを連結・積層することで様々な間取りや規模、用途、階数の建築物が構成できます。モバイル建築の品質は本設の恒久仕様を基本としていますので、一般住宅と同等以上の安全性、耐久性、断熱性、遮音性、環境性能を有します。現在、設計・実装されているモバイル建築の性能は、耐震等級3、断熱等級5〜6相当(新潟県5地域又は北海道ZEH水準)等、高い安全性と省エネ性を実現しています。建設後も建物を解体せずにユニット単位で基礎から分離し輸送し何度でも再利用することが可能なため、環境負荷の軽減が期待されるとともに高い経済性を有しています。
当協会では、南海トラフ地震など国難級の災害に備え、このモバイル建築を災害救助法上の応急住宅として活用する仕組みづくりとサプライチェーンの構築に取り組んでいます。
国は今後30年内に南海トラフ地震が発生する確率を70-80%と予測し国民に対して切迫性と防災対策の必要性を強く訴えています。最大約205万戸の応急住宅が必要となり、民間賃貸住宅を借り上げる応急住宅(通称、みなし仮設住宅)を利用しても、約84万戸の応急仮設住宅の建設が必要となります。東日本大震災では約48,000戸の応急仮設住宅を供給するのに8か月かかり、また、劣悪なプレハブ仮設住宅にやむを得ず10年近く住み続けた被災者がいました。
応急仮設住宅の供給の遅れや超長期利用は、災害関連死や深刻な健康被害を引き起こします。このような間接的な災害リスクの軽減を図るために、恒久仕様の木造モバイル建築を動くみなし仮設住宅として利用することの意義は高いと思われますが、残念ながら現状では「自然災害だから仕方がない我慢しろ」、「避難生活の質の向上は贅沢だ」などの偏見や既得権保護等により、被災者の居住福祉が改善される見通しは立っていません。
次回は、恒久仕様の木造モバイル建築を平時は地方創生に資する非住宅施設として利用しつつ、災害時は被災地に移設し福祉避難所や応急仮設住宅として転用「社会的備蓄」の取り組みについて紹介します(つづく)。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
東日本大震災では約48,000戸の応急仮設住宅を供給するのに8か月かかり、南海トラフ地震では仮設住宅の建設に8年かかると想定されています。恒久仕様の木造モバイル建築を動くみなし仮設住宅として社会的備蓄を進め、このモバイル建築を災害救助法上の応急住宅として活用する仕組みづくりとサプライチェーンの構築に取り組んでおられます。ユニットが規格化されているため、複数のユニットを連結・積層することで様々な間取りや規模、用途、階数の建築物が構成できるようになっています。
平時はいろいろな活用方法があると思いますが、備えあれば憂いなしで、各地に広まり、緊急時には助け合うことができればと思います。雇用の創出や木材の需給バランスの調整弁にもなりうると思います。次回が楽しみです。