椎野 潤(しいの じゅん) 2025年9(研究報告№151)
「巻頭の一言」
公共の場で誰もが演奏できるストリートピアノ(注1)が、街中に活気を与えています。2025年7月時点で全国に724台設置され、イベントの集客や施設のにぎわい作りに一役買っています。太平洋戦争をくぐりぬけた、このピアノも、活躍し「歴史の語り部」の役割を担っています。2025年8月16日、日経朝刊、2面記事、(桜井裕介)を参照・引用して記述します。
「日本再生][地域創生] 街角のピアノ活気を奏でる 秋田県 来訪者増 交流拠点に 全国724台「戦前生れ」も
「日本再生]「地域創生」街角のピアノ活気を奏でる 秋田県 来訪者増 交流拠点に 全国724台「戦前生れ」も
ここでは日本経済新聞2025年8月16日、朝刊2面記事(桜井裕介)を参照・引用します。
「はじめに」
ストリートピアノは、2008年に英国バーミンガムで、アートブロジェクトとして始まり、日本でも2010年代から徐々に導入が広がりました。専門サイト「STPIA(ストピア、注2)」の協力を得て、登録情報を分析したところ、設置数は直近2年だけでも15%増えました。
都道府県別の設置台数を、人口(2025年1月1日時点)で割り、設置率を比較しました。最も高かった秋田県は、10万人あたり2.1台と全国平均の3.6倍にのぼりました。次いで富山県、大分県、山形県の順でした。
[秋田県 潟上市]
秋田県内で人口あたりの設置台数が最も多かったのは潟上市(注3)でした。2020年から県内出身のピアニスト千田浩太さんが、道の駅や商業施設に設置を進め、市も補助金で後押ししていました。音楽に楽しむ雰囲気が自然に地元に生れ、2022年には「秋田・潟上国際音楽祭」の初開催に至りました。
設置した場所に、にぎわいが増した例もあります。クロスロケーションズ(東京・渋谷)の人流データによりますと、「道の駅てんのう(注4)」周辺の人出は、2019年は18万人だったのに対し、設置後の直近3年間は、22万〜24万人台で推移していました。ピアノを使ったイベントも集客に貢献するのです。
[兵庫県神戸市]
市区町村別の設置数が全国最多の神戸市でも、にぎわいの創出に貢献しています。ケーブルカーが発着する神戸六甲鉄道・六甲山上駅は、周辺工事の影響で大型バスが乗り入れられず、団体客が一時遠のきました。市が2025年4月に、ピアノを設置したところ、「訪日外国人ら個人が来て弾いている」と、報告するものがいました。ピアノの設置は、客足離れを緩和する一定の効果かあったと見られるのです。
[群馬県館林市]
群馬県館林市が東部鉄道館林駅に、2023年3月に設置したのは、1930年代製造の年代物のピアノでした。これは以前は兵庫県芦屋市にあり、空襲や震災に耐え抜いたピアノなのです。所有者を知る館林の飲食店が仲介し、市に寄贈されました。多田善洋館林市長は「貴重なピアノであり、弾くために市外からも、たさんの人が来てくれています。今や市のシンボルです」と大いに誇っています。
地元のピアノ講師、木村美紀さんは、駅構内で「ストリートフェスティバル(注5)」を市と共同で、毎月開催しています。木村さんは「子どもが腕前を披露する様子を親御さんを始め、多くの人が聴きに来てくれています」と凄く喜んで言っています。空襲を経験した館林の人たちにとって「ストリートフェスティバル」は、平和の象徴になっているのです。
館林駅周辺の人流データを見ますと、2023年の人出は、その前の年に比べて6割増えました。同時期の駅の乗客数は6%増でした。ビアノ設置の直接的な効果は算出できないのですが、電車の利用目的以外の目的で、駅の周辺に来る人の数が、確実に増えていることは、良く分かるのです。
[まとめ]
ストリートピアノに詳しい芝浦工業大学の武藤正義教授は「住民の理解さえ得られれば、集客施設を開業するよりも、地域活性化の費用対効果は、ずっと高いのです」と話されています。でも、街のなかに賑わいを生む反面、騒音だと感じる人がいることも確かです。一方、「誰でもがビアノに触れられる場には、子どもの体験格差解消といった社会的な意義もあるのです。」街とピアノの共生へ向けて「住民に寛容さを持ってもらえるようにする自治体の取組みも、絶対に欠かせないのです」と、武藤教授は力説されていました。2025年8月16日、日経朝刊、2面記事、(桜井裕介)を参照・引用して記述しました。
[図表1]
2025年8月16日の日経新聞紙上に、2025年7月時点のストリートピアノの設置率のランキングを示す図表が記してありました。これを図表1としました。
この地図に示された地域は、5群で構成されています。次にこの5群を整理しておきます。
(1) 第1群、ストリートピアノの設置率2.0台以上。(設置率が最も大きいところ)。
(2) 第2群、ストリートピアノの設置率1.5〜2.0未満。(設置率が次に大きいところ)。
(3) 第3群、ストリートピアノの設置率1.0〜1.5未満。(設置率が3番目に大きいところ)。
(4) 第4群、ストリートピアノの設置率0.5〜1.0未満。(設置率が最小の次に小さいところ)。
(5) 第5群、ストリートピアノの設置率0.5未満。(設置率が最小のところ)。
次に、この第1〜4群の内容について述べます。
[第1群]
ここで第1群は、ストリートピアノの設置率が2.0台以上あるところ(設置率が最大のところ)です。設置率を都道府県別にみますと、秋田県が10万人あたり2.1台と、最も大きかったのです。これを黒に色塗りしました。第1群は秋田県、1か所でした。
[第2群]
第2群は、設置率が1.5〜2.0未満のところです。それを都道府県別にみますと、これは2か所ありました。それは以下です。2位富山県、3位大分県の2か所でした。これを濃い紫色の右斜線で塗り分けました。第2群も、この2か所だけです。
[第3群]
第3群になると、少々数が多くなるのです。10ヶ所あります。この10か所は以下でした。北海道、岩手県、山形県、石川県、山梨県、和歌山県、兵庫県、山口県、佐賀県、鹿児島県の10か所でした。
このプロジェクトでは、プロジェクトを牽引している上位3群で13か所しかないのです。全国47都道府県中、34ヶ所が、やや立ち遅れたと思われる第4〜5群に含まれるのです。その意味で、この第3群の10か所は重要です。力のある地域が並んでいます。
[第4群]
第4群は、設置が0.5〜1.0未満のところで、設置率は、まだ小さいところですが、数としては、ここが一番多いのです。ここには26か所入っていました。
ここに入っていたのは以下です。青森県、宮城県、福島県、新潟県、茨城県、群馬県、静岡県、長野県、岐阜県、福井県、滋賀県、奈良県、三重県、愛知県、京都府、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、福岡県、長崎県、宮崎県、熊本県、沖縄県、香川県、徳島県の26か所です。このプロジェクトでは、有望な地域が、この下位の群に、まだ、止まっているのです。この群の人達は、これからグイグイと力を付けて登ってくるでしょう。
[第5群]
第5群は、設置率が0.5%未満で、設置率最小の地域です。ここに8か所が含まれています。それは以下です。栃木県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県、大阪府、愛媛県、高知県の8か所です。
この設置率最下位の群に、東京を囲む神奈川・埼玉・千葉と、大阪。日本の重要都市がここに入っています。この人達がこれからどんな動きをしてくるのか、私は注目しています。
[図表2]
図表2(注7)は、「実数の上位は大都市が多い」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年8月16日の朝刊に掲載されていた図表でした。これは以下です。
この図表2では、ストリートピアノの設置数の多い自治体名と、その設置台数と、10万人あたりの設置台数を記していました。
図表2 自治体名 設置数 10万人あたりの設置数
順位 自治体名 設置台数 1O万人あたりの設置数
1位 神戸市 34台 2.3台
2 札幌市 9 0.5
2 北九州市 9 1.0
4 横浜市 8 0.2
5 東京都港区 7 2.6
5 浜松市 7 0.9
・
・
10 秋田県潟上市 5 16.0
10 滋賀県草津市 5 3.6
(注)ストリートピアノの設置数の多いベストテンを記述。7、8、9位は省略。
図表2には、ストリートピアノの設置数の多いベストテンを、多い順に記してます。
設置数の1位は神戸市の34台で、第2位は札幌市と北九州市の9台でした。人口10万あたりの設置数の最大は、秋田県潟上市(注3)の16.0台で、第2位は滋賀県草津市の3.6台でした。秋田県潟上市の16.0台は、全国でダントツトップで、他を大きく引き離していました。
[図表3]
図表3(注8)は、「過去2年間に全国で15%増」と題した図表でした。
この図表3の左欄縦欄に、0、100、200、300、400、500、600、700、800台と、ストリートピアノの設置台数(台)が記してありました。また、下欄横欄に、2023年、24、2025年と(年)が書いてあり、各年に最大12本の「月」ごとの棒グラフが記してありました
この棒グラフでは、ストレートピアノの設置台数は、2023年6月の620台から始まり、2025年7月までに、710台に増加していました。この2年ほど間に、100台ほど増加していたのです。。その間、ピアノの設置台数は、緩やかな右肩上がりで増加していました。
[おわりに]
4カ月前の2025年4月7日のブログに、以下のように書いています。このブログを書いている間に、私は、心が明るく浮き立つ嬉しい経験をしました。ここで、これを報告しておきます。秋田県の選挙で、秋田県民の方々が、とても凄い意識改革を実現する姿を見せてくださったのです。
4月6日のNHKテレビは、その日に実施された「秋田県知事選挙と秋田市長選挙」について、当選確実が決まったと報じていました。知事選挙は元秋田県議員の鈴木健太氏(49)が、元副知事の猿田和三氏を抑えて当選確実となったのです。また、秋田市長選挙は元秋田市議会議員の沼田純氏(52)が5期目を目指す現職の穂積志氏を抑えて当選確実となりました。そして、NHKは新人二人が、経験豊富な元副知事と現職市長を破ったと、驚きの言葉で報道していました。
私は、長い間、日本で一番の人口減少地域として、存続も危ぶまれてきた秋田県が、大変身できたことを喜び、幾人かの人に、秋田県の県民の方々の様子を見てきてほしいとお願いしたのですが、新しい情報には接しませんでした。それが、この度、ストリートピアノを路上に置く「音楽革命」を達成して、秋田の人々は世界を驚かせたのです。私は今、凄く驚いています。心が、とても明るくなり、わくわくしています。
(注1) ストリートピアノとは、街角、駅、空港など、ふとした場所で出会う自由に弾けるピアノが「ストリートピアノ(Street Piano)」です。誰でも自由に演奏できるこの文化は、音楽を通じて人と人がつながる場でもあるのです。演奏者と聴く人、偶然の出会いが生むコミュニケーション。その「人と音が交差する空間」こそが、ストリートピアノの醍醐味です。
(注2) STPIA(ストピア)とは「Street Piano」を略したサービス名である。 もともとは個人的な趣味から始めたサイトであったが、気づけば10万人以上の方に、潟上市ご利用いただくまでに成長した。 「こんなストリートピアノがあった」「こんな曲を弾いてみた」そんな日常の中の小さな感動を共有できる場として、STPIAは存在しています。
(注3)、秋田県潟上市は、秋田県のほぼ中央の沿岸部に位置しており、東は井川町、南は秋田市、西は男鹿市、北は八郎湖を挟んで大潟村と接している。東部は南北を縦走する国道7号の周辺に小高い丘陵が多数連なっており、出羽丘陵に続いている。中央部及び北部は、秋田平野の北辺部として八郎湖に向かって広大な田園地帯が広がっており肥沃な穀倉地帯となっている。西部は県内有数の3本の砂丘群が連なっているほか、日本海に面した沿岸部は秋田市から続く海岸砂丘となっており、秋田県の保健保安林に指定されている。潟上市の人口は、2005年の国勢調査で35,800人となっている。2015年には38,000人となり、県内では数少ない人口増加地域となっている。
(注4) 「道の駅てんのう」は、秋田県潟上市にある地元特産品を購入できる道の駅のことである。ここには、地元特産品を買える直売場やレストランがある。
(注5) ストリートフェステイバルとは、直訳すれはど、路上の祭典である。路上で展開される、さまざまな祭典がストリートフェステイバルである。
(注6) 日本経済新聞2025年8月21日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。ス
トリートピアノ設置率ランキング。(注)専門サイト「STPIA(ストピア)の登録情報を基に、
人口10万人あたり設置数を集計した。2025年7月時点。
(注7) 日本経済新聞2025年8月16日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。実数の上位は大都市が多い。
(注8) 日本経済新聞2025年8月16日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。過去2年間に全国で15%増。
(1) 日本経済新聞、2025年8月16日、朝刊(2面)。
[付記]2025年10月6日。
塾頭から椎野先生への返信 酒井秀夫
ストリートピアノは、にぎわいの創出や街とピアノの共生など、様々な意義づけができると思います。ストリートピアノの設置率で秋田県が一番とのことですが、人口減少率においても秋田県が最も高いです。両者の相関はわかりませんが、秋田県知事選挙と秋田市長選挙の結果も従来の延長線上では現状を打開できないと有権者が判断したからではないでしょうか。
数ある楽器の中でもなぜピアノなのでしょうか。ピアノは木材からなる響板が音を響かせて、その音が広がります。無数の細胞の空隙からなる木材の振動が人と共鳴するのでしょう。
響板に使用される木材は、アカエゾマツやスプルースなどのトウヒの仲間で、柾目板が使われます。ちなみにバイオリンの表板も振動特性に優れたスプルースが使われています。かつて北海道には良質アカエゾマツを産出する広大な天然林が広がっていました。天然木材の減少にともない、現在では響板に輸入スプルースが使われていますが、アカエゾマツの人工林を楽器に使えるように育てていく取り組みがされています。北見木材株式会社のピアノ木製部材の国内シェアは70%以上を占め、世界シェアも16%以上を占めているとのことです(「遠軽の企業」ホームページより)。
ようやく秋が深まってきましたが、ストリートピアノを聞きながら、北海道の森林に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。