☆巻頭の一言
今日のブログは、ポストコロナの「新しい動き」の第4弾です。地域の有志が、少量から酒を作れる「酒造り特区」で、地域に活性を産み出す新しい動きを紹介します。
林業再生・山村振興への一言(再開) 2022年7月(№228)
□ 椎野潤(新)ブログ(439) ポストコロナの「新しい動き」(その4)
有志が少量から酒を醸造できる構造改革特区「どぶろく特区」「ワイン特区」が地域の活性化をもたらす 2022年7月26日
☆前書き
今日のブログは、「有志が少量の酒を醸造できる構造改革特区「どぶろく特区」や「ワイン特区」が地域に活性化をもたらす」です。2022年6月25日の日本経済新聞は、これを書いていました。記事は以下のように書き出しています。
☆引用
「農家や地域の有志が少量の酒を醸造できる構造改革特区「どぶろく特区」や「ワイン特区」が地域に活性化をもたらしている。国が指定する酒製造に関わる特区は、2003年のスタートから2021年11月時点までに、全国274カ所に広がり、醸造所も増えている。地域限定の酒を観光資源にする取り組みも目立ち、観光や農業など裾野の広い関連産業が地域を潤している。」(参考資料1、2022年6月25日、日本経済新聞から引用)
☆解説
「酒」特区は2003年に小泉純一郎政権下で施行された構造改革特別区域法によって認められた特区のひとつです。認定を受けると域内で新たに醸造所を設置する際に、酒税法で定められた年間の最低製造量が適用されないか、制限が緩和されます。
ブドウや米など、その地域で採れた特産物を酒の原料にすることが条件で、対象の酒類は、段階的に拡大されました。現在では、どぶろくやワインなどの果実酒の他に焼酎、リキュールなどが、特区で製造出来ます。2019年には、「日本酒の製造体験」も特区に追加されました。構造改革特区の中で、「酒」は成功例の一つと言えます。
国税庁と内閣府が公表するデータをもとに日本経済新聞社が調べたところ、特区の数が最も多かったのは長野県で、26カ所でした。以下、高知県、秋田県、新潟県が続いていました。特区と認定を受けた醸造所も、2020年度末に全国で3000カ所を上回り、10年前の1.7倍になりました。
長野県小諸市や東御市など9市町にまたがる広域ワイン特区、千曲川ワインバレー(東地区)」は、特区制度を活用していない醸造所も含めて21軒のワイナリーがあります。共同でワインツーリズム(注1)を推進しており、2022年5月28日と29日には、小諸、上田、東御、坂城の4市町がワインの試飲や販売のイベントを開催しました。
イベントには2日間で4000人が来訪しました。同特区に沿ってローカル線のしなの鉄道が走り、各市町が駅周辺でイベントを開催することで、鉄道の利用客増にもつなげました。秋にはさらに長い期間で、同様のイベントを拓く計画で、1万人の集客を目指しています。
特区認定で中心的な役割を果たしたワイナリー「アルカンヴィーニュ」(同県東御市)の小西超さんは、「地域で移住者を支援する態勢が整い良い流れが生れている」と話しています。同市には、ワイン造りに興味を持つ移住が始まっています。
長野県の醸造用のブドウの2019年の生産量は、6788トンと、ワイン特区が始まった2008年の2倍を超えました。(参考資料1、2022年6月25日、日本経済新聞(金岡弘記、山下宗一郎)を参照引用して記述)
☆まとめ
日本各地の経済は、新型コロナの襲来により、大きな被害を受けました。でも「酒特区」に関しては、皆、頑張ったのです。コロナによる観光客の激減の中で、これまでに蓄積したノウハウを生かした、新たな取り組みも産み出しています。これから始まるポストコロナ時代に、これが急拡大して行くものと期待されています。
新潟県佐渡市の「尾畑酒造」は、廃校になった小学校で2015年から酒造り体験プログラムを毎年夏に実施しています。参加者は杜氏(とうじ、注2)のアドバイスを受けて、酒造りを体験します。酒は「学校蔵」のブランドで販売されます。参加者の9割は、新潟県外から来ています。新型コロナの襲来前は、米国やオーストラリアなど海外から訪れる外国人も多かったのです。
尾畑酒造の平嶋健社長は、「これまでの体験を通じて日本酒の魅力を知ったインフルエンサー(注3)たちが、日本酒を知らない人々に、魅力を伝えてくれれば」と期待を示しています。ポストコロナでは、「インフルエンサー」を通じて、海外顧客の爆発的な拡大が期待されるのです。国内各地でも「酒特区」が、ポストコロナの新しい経済勃興の大きな戦力になるのは、間違いないと思うのです。
私がブログの中で中心テーマにしている「林業再生・山村振興」においても、ポストコロナにおいて新たに勃興する地域経済が極めて重要です。
ポストコロナにおける日本の中山間地の経済の爆発的な展開の中心人物に、「林業・山村」の人達がならねばならないと感じています。まさに、今、チャンス到来なのです。
日本各地の「林業・山村の人達」が結束して、巨大な超特大特区の設立を国に申請して、北海道から九州・沖縄まで、気候が異なる各地の山地に自生する様々な果実を原料にする「どぶろく」や「ワイン」造りの小規模な酒造所を、個人で起こして、多彩な珍味で、世界の人々、日本中の人達を、強力に引きつけてください。日本の国土で、最も重要な位置を占める、森林と中山間地域での多彩な味覚で、ポストコロナ時代を力強く牽引して行って下さい。「林業・山村」の皆様、どうか、よろしくお願いいたします。(参考資料1、2022年6月25日、日本経済新聞(金岡弘記、山下宗一郎)を参照引用して記述)
(注1) ワイン ツーリズム: 地域のワイナリーやブドウ畑を訪れ、その土地の自然、文化、歴史、暮らしに触れ、つくり手や地元の人々と交流し、ワインやその土地の料理を味わう旅行のこと。
(注2)杜氏(とうじ): 日本酒の醸造工程を行う職人集団、特にその統率者をさす。
(注3) インフルエンサー(influencer): 世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のこと。その様な人物の発信する情報を企業が活用して宣伝することをインフルエンサー・マーケティングと呼んでいる。
参考資料
(1) 日本経済新聞、2022年6月25日。
[付記]2022年7月26日。
[愛読者の皆様へ御礼とお願い]
私は、永い間、愛読者の皆様のお支えをうけて、研究報告を続けてまいりました。しかし、本年、とうとう86歳になりました、難しい病も抱えました。この報告を最後として引退させていただききます。
幸い、後を引き継ぐ態勢は整いました、教え子達が「椎野ブログ」を書いて、私の後を引き継いでくれます。どうか、今後もご愛読をお願い申しあげます。長い間、どうも、有り難うございました。
椎野 潤
『本郷塾頭の一言』
「椎野先生の最後の報告ということです。残念ですが、ご病気の療養に差しさわりがあってはいけませんから、やむを得ないことと思わざるを得ません。先生の“林業再生と山村振興”のブログを長く読ませていただいて、サプライチェーンマネジメントの観点から林業や木材流通のありようの旧弊に気づかれて、この国においては面積としては大きいですが、人口が少なく経済規模も小さい、取り残された山村やその基幹産業であるべき林業に対し、その重要性、不可欠性を深く認識して叱咤激励してくださったことを、まさに天啓のように感じて来ました。
また、このブログ達には国や住民に対する愛と慈しみが溢れていると思います。ここに、椎野ブログの神髄があるのではないかと読ませていただいておりました。
特区については、規制に守られている側、守っている側にとっては厄介なものと認識しておりますが、先生の目線はそんな独りよがりをたしなめるように、地域が生き生きとなることができ、そこに住み続ける住民が前進していく糧になることを指し示してくださいます。(地域雇用の創出という御旗の下で)特定の企業の収益につながる特区ではなく、もちろん中心人物となる企業人はいらっしゃいますが、特別の区域が飛躍するための取組でなければならないのです。
それは頭で考えただけのものでなく、地域や地域の文化への愛と慈しみに裏打ちされていなければなりません。酒は過去から綿々と連なる地域の文化です。比較的新しい文化であるワインと言えどもです。地域の飛躍のための応援として酒特区は素敵な施策だったのだと思います。
最後にふさわしい報告です。
先生の最後のお言葉、「「林業・山村」の皆様、どうか、よろしくお願いします。」で、私も含め読者の皆さんは託されたのです。私どももその地域への愛と慈しみに溢れた活動を実践していきましょう。
けれど、一言、付け加えさせてください。先生、ご体調が戻ったなら、ぜひ、愛と慈しみのあるお導きを末永く綴っていってください。
本郷浩二