林業再生・山村振興への一言(再出発) 2022年7月 (№224)
□椎野潤(新)ブログ(435)酒井秀夫ブログ「南九州林業・山村 総討論会」 司会 酒井秀夫、討論 本郷浩二、森田俊彦、小森胤樹、大竹野千里、椎野潤 2022年7月12日
[酒井秀夫ブログ]
[南九州林業・山村・総討論会]
酒井秀夫
本日6月28日は、オンライン座談会ですが、皆さん、椎野先生のブログに登場され、ブログによれば、森田さんは林業のご経験もあり、行政のネットワークを持っておられます。小森さん、大竹野さんは、地元でそれぞれの立場で斬新な取り組みをされています。初めてお会いする方もおられますので、自己紹介をお願いいたします。
森田俊彦
南大隅町町長をしていました。製材業もしていましたが、現在、南州エコプロジェクト株式会社を設立して、畜産業を支える飼料の自給化に取り組んでいます。耕作放棄地や遊休地に若い人を呼び込みたいと思っています。
大竹野千里
駿河木材有限会社を経営していますが、主婦目線、子育て目線で、「おおすみ100年の森」に取り組んでいます。里山ごとに事情もちがうので、ビジョンは簡単なようで、むずかしいです。
小森胤樹
後ほど、経緯を話しますが、作業員から林業会社の代表を経て、森林総合監理士として、市町村のバックアップをするため、フォレスター合同会社を立ち上げました。
本郷浩二
林野庁長官を経て、現在、全国木材組合連合会と全国木材協同組合連合会の副会長をしております。
森と人との関係
酒井
まず、大竹野さんに、森と人との関係についてお聞きしたいと思いますが、その前に、世の中の変化にも耐えられる九州の森はどのようなイメージでしょうか。
大竹野千里
世の中がどう変化しようとも、森はなくならないという前提での質問かと受け止めましたが、未来を描いた映画や子ども向けの書籍に載っている未来図などを見ると、森林はほとんどありません。テクノロジーやシステムが細部に行き渡り便利で快適な生活が描かれています。AIによる支配を描いた『レディ・プレイヤー』など分かりやすいかもしれません。『レディ・プレイヤー』は2016年に作られた映画ですが、我が子を見ているとそこで描かれたものはもはや空想の世界とは言えなくなっているようです。
「世の中の変化」とは、人間社会、文化の変化とも言い換えられます。その他、疫病の流行や自然災害による変化もあります。いずれにしても世の中がどう変化していこうと、その時を生きる人たちが、その時の森の存在、あるなしに関わらずに満足していれば「森と人との関係」は良好だといえるのではないでしょうか。
乱暴な言い方に聞こえるかもしれませんが、子育て真っ只中の親として思うこと、それは世の中の変化に森林が耐えるのではなく、森も存在理由をかえてこそ、そこに在り続けるのだということです。
酒井
森と人との関係は、これからどのような方向に変わっていけば望ましいとお考えでしょうか。
大竹野
今の日本社会において、森は公益的に必要とは言われていますが、私有林となると負の遺産となっていて、森と人との関係は「ねじれ関係」にあるといえます。
「森と人との関係性」を説く前に、今を生きる我々が、社会の一員として、地域の一員として、一人の人間として、どのように社会のあり方をデザインしていくべきか、しっかりと考えを持つことが肝要と思います。「社会のあり方」なんていうと大袈裟ですが、今生活している地域に自分は住み続けたいか、どうか。そんな感覚でいいと思います。大隅は県内でも上位の過疎地ですが、一方で地域コミュニティーが色濃く残っている地域でもあります。「われわれは大隅で生まれ育った」という意識、大隅に恩義を返そうという意識があります。
山の荒廃は地域の荒廃です。「森と人とのねじれた関係」を「森が元気であれば人(生活)も元気」とみんなが思うような方向に変わっていけばと思います。
酒井
小森さんの岐阜では現状はどのようになっているでしょうか。
小森
岐阜県というくくりで正解は持ち合わせていませんが、これまでの延長線上に答えはないのではないでしょうか。対症療法はやめるべきです。フォアキャストでなく、バックキャストで。ゴール設定がないまま進めても意味がないです。森林環境譲与税の意向調査にしても、目的のための手段であって、意向調査をすることが目的ではないです。
地元の次世代対策
酒井
地元の次世代の方を巻き込んでいくのには、どうしたらよいでしょうか。
大竹野
森林を知らないと考えるきっかけが生まれません。子どもたちがリアルを感じるようにさせるのは、大人の責任です。学校教育の中に森林、林業を入れて、自然に触れるようにしています。子どもたちは乾いたスポンジが水を吸収するように吸収していきます。木育です。
森田
先ずは興味を持っていただくことだと思います。今流行りのキャンプ、ツリーハウス、ログハウス、ジビエや山菜などの食、体験や遊びを通して森への導線を太くしていく。最初のスタイルは、4W車にブーツであっても、いつの間にか、軽トラで地下足袋に代わってくれればと思います。
酒井
林業事業体は、もっと「絡み合った人材連携を構築し、川上における横のつながり強化が不可欠」とされていますが、森と都市を結び付けるには、インタープリテーションが大事になっていくと思いますが、何か取り組んでおられるでしょうか。
森田
20年ほど前は、木造住宅建設を考えている方々の無料バスツアーをやっておりました。伐採現場から製材、プレカット工場、建築現場と新築完成住宅をバスの添乗員になり、木材の良さをお話ししながらやっており、かなり好評でした。またログビルダー育成講習会を週末開催で5か月ほどかけて、スギB材を活用して3坪ほどのログハウスをモデルで作っておりました。
小森
多種多様な場で、森林管理の重要性を伝えてきました。地元の小学校では、5年前から、5年生の授業で、実際山に行って、伐採を見せて、その後、授業で木を伐って使っていかないと山は守っていけないことを伝えています。山の手入れの話で、一番小さな子どもに話したのは、幼稚園の年長さんです。年長さんに間伐する意味を工夫して伝えました。
国産材の割り箸の普及活動もしているため、割り箸を通して、日本の森林の課題を伝えることをしています。なぜ、割り箸なのか、それは使ったことが無い人はいないからです。私が割り箸にこだわるのは、だれにとっても身近な木製品の問題を知ってもらうことが伝わりやすいとこれまでの経験上感じています。
林業界の課題
酒井
大隅半島では、地域外の業者によって昔の2、3倍の速さで皆伐され、地元に必要とする材が回らず、地元消費者の多種多様なニーズに応えられないとうかがっていますが、今の林業界に対して森田さんが強調されたいことは何でしょうか。行政に求められるものがあるとすれば何でしょうか。
森田
森林の伐採が無秩序に行われ、再造林されない事案や境界を越えた誤伐等が多発しております。意欲と能力のある林業事業体が、エリア内の森林を経営管理しようにも、一民間企業ができることには限りがあります。伐採計画と植林、育林の計画とコスト削減等を想像すると、広域のフィールドと林業事業体の集合体が行政と連携して計画すべきだと思います。森林環境保全や鳥獣害対策、里山づくりなど未来の山を創造するには、データベースシステムが必要だと思います。それらを完成に導くのは、やはり人です。林業関係者が川上川下などなく、情報共有して一体的に収益の分配がなされ、各事業所の最終目的を、自分たちの飯のタネは、健全な森林であることを第一義に思ってもらいたい。行政には、川上川下の垣根を超えた新たな組織システムができるときに、情報共有と組織設立の後押しをして頂ければと思います。それが結果として地域や国を守っていくことであり、生命、財産を効率的に守っていく方法だと思います。
大竹野
50年前木は1本3万円でしたが、いまは1万円です。土地ごと買ってくれという人もいます。植えたいけれど人手が足りないです。福祉の会社と連携していこうと思います。
Iターン者が多いですが、お金ではなく、暮らし方に重きをおかれています。行政へアプローチしながら、稼げるようにしていかなければならないと思います。
森田
移住のための補助はよいが、受け皿、窓口がないです。新規就業者の雇用促進計画で、移住のための空き家バンクをつくっても、空き家が足りない。副業を認めるようにして、いろいろな働き方ができるようにしたい。
小森
林業界は狭すぎます。今の手法では無理があるので、ESG投資がないと、環境を金にかえられない。地域内の子どもたちプラスアルファで地域の価値を高めなければ。誰が担うのかが課題です。
本郷
戦後の資源的な制約の中で、林業は金を生み出せなくなりました。持ち主も行政も、森林、林業に無関心になっていきました。無関心の次の世代の任せられる人に教える仕組みが必要です。
木をどう売って、お金に換え、都会の需要にどう応えていくか。顔の見える流通をつくって、木を高く買ってもらえるようにして、地域に競争力をつけて、山のまとまりをつくる必要があります。
それには、持続性の先の未来を示すことだと思います。収益は長続きさせるためには欠くことができません。現状でできることをやることで、稼ぎ続けることができることを示すことが必要です。
林業や木材で稼ぎ続けられないとしても、森田さんが提示された木材を売ること以外の地域資源を活かしたビジネス、商売も、稼ぎ続ける重要な手法だと思います。加えて、独りぼっちではなく、同世代の仲間がいることも大事なことだと思います。
商売の流れに基づく連携、異業種も絡めた地域的な広がりの中での連携、縦横の連携の中で、仲間感覚が感じられるように行動を考えることが大事だと思います。
小森
地元の中小の製材業者に丸太が必要量いきわたっているのかについての詳細は把握していませんが、岐阜県内にも大型製材工場が増えてきており、私のいる郡上の大型製材工場への原木出荷は地域内だけでは足りない状況です。郡上市の森林監理委員会の委員として、今後郡上市内の製材工場が必要とする丸太を考えた場合、郡上市内で持続可能な形で生産可能か検討したことがあります。
資源的には年間成長量として存在するが、それを支えるマンパワーが全く足りない。現在でも人手不足のため、皆伐地の再造林率は50%程度しかできていないのに、必要量を生産するためにさらなる皆伐面積が必要となる。
数字的落としどころを検討したが、その数字が物理的に無理な数字であるため、検討を断念したという経緯がある。
やる気のスイッチをどう入れるか
酒井
森田さんに伺いますが、このブログで大隅森林組合の下清水組合長は、市民全体で意見を出し合っていくべきという指摘をされています。住民にやる気をおこさせる秘訣は何でしょうか。
森田
下清水組合長にもお聞きしましたが、とにかく市民を交えていく形が良いとのことでした。住民にやる気を起こさせるにはモット興味を持っていただくような働きかけが必要だと思います。例えば山の資産価値を見出してあげられればと、金銭的な面でばかりでなく環境貢献度の指数化等を見える化できれば、保有管理する方々には、地域のためになっているという自負の念が生まれるのではないかと思います。指数化されたものが、ポイントに代わり、水道料や公共料金が割引されるとか、環境税減免などあればそれに越したことはありませんが、何かしらの一般の方がわかりやすく、直結したアプローチが必要だと思います。
酒井
首長さんを説得して、連帯していく秘訣は何でしょうか。
森田
市町村の行政内部で、森林事業から流通、そして木材利用まで精通され、自分の職責後、何代も変わった後の市町村の森林体系を責任もって想像できるかたが、どの街にもいらっしゃるかどうか。しかし今は、行政がやらねばならい時が来たこと、今の行政組織のままでは、人と金とノウハウが無いことをお知らせし、近隣広域での連携が、人と事業費を効率よく運用、計画できるのだと説いております。最低限、伐って、使って、植えるを理解してもらうように努めています。
経験豊富な職員が不足
酒井
経験豊富な職員が不足していることに対して、有効な打開策はありますでしょうか。
森田
即効的な処置としては、再任用制度等で国、県専門職員、森林組合OBの採用や活用、時間をかけて育成していくとすれば、企業、団体と人事交流や委託など、各団体組織と連携を図ることが肝心かと思います。
小森
そのために、フォレスターズ合同会社を作りました。何のために森林総合監理士を民間にも開放したのか。市町村をバックアップする専門家として、行政職員だけでは足りない、無理という考えがあったからではないでしょうか。
市町村は林政アドバイザー制度を活用しきれていません。多くの市町村が日々雇用のような職員として、月15万前後の対価で人材募集しています。当初、林政アドバイザーの資格としては森林総合監理士等ではなかったかと思います。日本版フォレスターの能力の対価が月15万前後では、そのような人材は集まりません。林野庁が作った森林総合監理士が活躍できる対価とポジションを市町村に明示すべきだと考えます。
本郷
これまで何十年も儲からなかった林業、森林には各市町村もなかなか人を割けなかったし、専門職を雇い入れることはもっと難しかったはずです。ただ、これからは、雨の降り方も変わり、尋常ではなくなり、これまでとは異なった次元で、森林からの土砂崩壊や土石流の発生の危険性も高まっています。
このような中で、森林の管理は市町村の防災行政にとっても重大な事であり、不作為は許されなくなりつつあります。そのような観点で森林管理の専門職を雇い入れることを、首長さん方に認識していただくことが重要です。
しかし、新卒者や通常の新規採用枠では年齢制限があり、また臨時雇用では専門職としての正職員並みの給与を払うことはできず、市町村として経験豊富な者の雇用は難しいです。また、職員の定数管理の観点から定数に恒常的に空きがなければ長期雇用は難しいです。森林環境譲与税という財源があっても、使途として人件費も可としましたが、自治体の定数を増やすことは総務省が拒否しました。ですから、技術者給をちゃんと払ってコンサルタントや森林組合などに委託することが打開策となります。地場賃金(このような職の前例がないので横並びで安くなる)に基づく請負作業契約ではなく、一般的な外部委託契約で良いわけです。
地方創生の際にたくさんの都会のコンサルタントが高額のコンサルタント料をせしめたことを考えれば、現役の民間フォレスター、フォレスター資格等を有する公務員OBなどが設立したコンサルタント会社に、継続的にアウトソーシング(外部委託)することは可能と思います。財源も森林環境譲与税を使うことができます。使途は市町村長の説明責任に掛かっています。地域の森林整備に人的資源として不可欠であることを国民に説明すればOKです。また、地域の数市町村が連携してアウトソーシングすれば、一市町村の費用負担を減らすことも可能だと考えます。
なお、地方自治の考え方からして、林野庁が市町村に対して、職員としての対価(給与)と職務のポジションを明示することはできない感じがします。総務省の定員削減、人件費の総額抑制の政策の下ではやむを得ません。
森林環境譲与税の活用
酒井
森林環境譲与税で、森林が管理され、生きていけることを発信していくには、その手間や説明責任があると思います。フォレスターズ合同会社の知恵を利用して、地域が活性化して欲しいです。
話が、経験豊富な職員が不足していることから、森林環境譲与税の出番になってきました。本日の対談を踏まえて、木材を多様に使用できる環境を整備し、大きな価格変動にも対応できるシステムを備えるにはどうしたよいでしょうか。
本郷
森林環境譲与税はもともと森林の健全な管理のための間伐の実施予算が足りないことから発想されたもので、総務省がまとめたものです。林業の補助金がやってこなかったことを森林経営管理法の中で、財源を市町村に委ね、森林整備を行っていくことを狙った仕組みです。しかし、地域の実情で、森林管理、森林整備に係る別のニーズがあれば、補助金のように使途を限定するものでなく、首長さんの説明責任で使えることが許されている制度です。ただ、地方交付税のように一般財源に使うのは国民、国会を裏切るものです。
間伐がもう一通り実施されていて他に使うという場合ならばいざ知らず、間伐もあるけれど別のニーズというのであれば、600億円の税収では足らないはずです。まずは税収増を目論むためにも、今はしっかりと説明責任を果たすことが必要です。
ところで、現在の森林・林業基本計画では、ご質問の答としては、国際競争力の確保と地場競争力の確保として、施策をすみ分ける提案をしています。
国際競争力を確保するには、港に電話一本で明日届けられるように在庫されている輸入材と対抗できるように、また、都市圏の並材を中心とした大量の一般住宅(軸組大壁工法、2×4工法など)の需要に関しては、大手の国産材製材工場の大規模な量的安定供給力を伸ばしていき、価格だけではなく供給力としてもリスクの小さいものにすることが必要です。
一方で、地方の工務店による長寿命の優良な住宅、軸組真壁工法や寺社、公共施設といった、付加価値の高い材や見栄えのする木材が求められる需要のほか、畜舎や土木工事など地域で使われる木材需要に向けた、地域内で多様な木材供給ができる垂直連携を目指すことにしています。このためには、これまでと違い、いわゆるウッドショックを契機に、川上、川中、川下と呼ばれる業種の方たちの連携を構築することが何より大切であると思います。この連携が長く途切れてしまったため、ウッドショックが起こった時に、多くの工務店が国産材の仕入れ方がわからなくなってしまっていたことが露見してしまいました。そのようなことを支援する施策が、林野庁からも国土交通省からも講じられています。
地域で大手と同じものを目指しても勝ち目はなく、大手と違うことをしなければ儲けられないと考えています。悩みは、地域経済の地盤沈下から、地域で高価格の木材を使う需要が縮小してきていることです。高い建築物を建てられなくなっているわけです。
そのような状況に対応するためには、これまでの生産、流通方法を改善し、労働生産性を上げて、無駄を省き、働く人の給与、山元の所得、買主(工務店、プレカット工場かもしれません)の懐の三方よしのサプライチェーンを築くことが、垂直連携とともに必要となる絶対の解決策であると考えます。
森田
森林環境譲与税は、行政内部でも使い方がわからない。議会でも質問がない。使い道のアイデアがない。行政からみて何するの。ビジョンを立ち上げにくい。実情把握していない。行政が予算つけると1町になる。実行も1社あるかないか。
林業補助ではできない地域がたくさんあるわけで、わかりやすく話せば利用者がでてくるのでは。もちろん、経営管理の行き届かない森林の事業費や、林道整備、人材育成等にあてられるところが当然ですが、森林環境税の使い方で、森林の無い都市部で木材消費に使っても最終的には、山に還るのではないか。
データベースシステムを基にサプライチェーンのしっかりとした構築がなされていれば可能かと思います。事前に年間や来月の必要原木の材積、形状がわかり、CLTや集成材、製材工場、バイオマス、輸出材の合計材積と分配率をデータベースと照らし合わせて計画搬出、その後の再造林計画をしていくことができればと思います。
木材価格に影響を及ぼすのは、やはりマーケットとして建築産業が大きいと思います。木造建築分野にデザイン性の豊かな設計、構造、職人が必要とされます。建築基準法がこのまま進んでいくと工場生産型の性能評価が値するプレハブのみが、新築になりえなくなると思います。この分野は、今後の木材流通の主役になっていくと思いますし期待するところです。
寺社仏閣などや欄間や建具を作る匠は無理かもしれませんが、3Dで加工する機械などがあるので、設計者がどれだけ付加価値の高い木材建築をデザインしてくれるかだと思います。ただこの分野はごく一部ですが、今ある木造住宅や内装など改修工事で期待したいです。どちらにしても、木材消費に対しての補助として環境税の還元ができ、かつ山にその恩恵が返すことのできるトレーサビリティの仕組みが必要と思います。
バイオマスなどもありますが、ほかの木材利用としては、セルロースナノファイバー的なものが、業界外からの参入と共に利用拡大されることに期待したいところです。
酒井
情報革命は、無から有を生みました。今日のお話を伺いますと、林業も無から有を生むときに至ったと思います。
椎野先生の一連のブログによれば、地域は「生命体」で、現場は生き物だと思います。集団が「生きている」状態になって、社会や環境に適合する一方で、適合したときに起こるリスクも回避していかなければなりません。椎野先生に今日の対談の総括をお願いします。
椎野
未来の幸福社会を作るために、それを目指して行く過程で、具体化したいと進めてきた「先導者たち」と名付けた「ブログ」の執筆がありました。それを書いたものが、現在、実存していのるのは2012年からです。すなわち、この「ブログ」のワード文書を電子データで保存し始めてから、今年で12年たちました。
でも、「先導者たち」と言う言葉を使いはじめたのは、50年も前のことなのです。その頃、私は36歳で夢多き青年でした。その頃、50年後の世界と考えていた時代が、今のような、こんな時代になるとは、全く考えていませんでした。
私は、50年先を考えるのは難しいからと、10年後を目標に、足元の問題を考えて、実施する努力を重ねていました。でも、毎年、毎年、遅々として進まなかったのです。
でも、コロナ危機が襲来して、10年後に目指していたことが、急に、来年の目標になりました。改革速度がにわかに、速度アップしたのです。
「働き方改革」「女性の社会進出」「子育て」などの10年後の私の目標が、来年、むしろ今年度内の目標になりました。この間、人口減少の改善などの大問題については、少しも見通しが立って来なかったのです。ですから、当然、在宅勤務、テレワーク、ワーケーションなどは、早急に進めねばならないことだったのです。でも、コロナがこなければ、これらも、遅々として進んでいなかったでしょう。でも、コロナの突風が強い追い風になり、俄かに、ぐんぐんと進みました。コロナ下では、これをやらなければ、会社も個人も、今日を生きていけなかったからです。結局、私たちは、コロナにチャンスを貰ったのです。
今こそ今日から50年先を、抜本的に見直すときなのです。私は今年、86歳になりましたから、その50年後に生きていることは、考えられませんが、50年後に100歳になる、今、50歳の方々には、50年後が今のような時代ならないように、本気で考えて貰わねばなりません。
いろいろな面で大事な「林業再生・山村新興」。日本各地の地域創生において、大きな位置を占めている「中山間地域」の創生を、今後も次々と次世代コロナ禍が襲来して時代の進行速度が加速し続けることも考慮に入れて、足元の改革から地道に進めていかねばならないのです。
林業は、代表的な一次産業です。漁業は、一緒に進化していく相棒として、丁度良いと私は考えていましたが、その漁業が、今、コロナを追い風として、凄く波に乗っているのです。最近、日本列島沿岸の海では、魚が急速に取れなくなっています。漁業関係者は、これに危機感を持ち、大転換を進めています。これまでの漁船漁業から養殖漁業へと大転換しています。新聞は、遠からず、漁獲量で両者は逆転すると予測しています。
日本各地で陸上養殖が活発に行われています。海のない県で、サバの養殖に成功しました。サバには、寄生虫がいることがあり、生食は推奨されないのですが、人工海水を開発し、水質管理を徹底して、安心して生食でき、地産地消で超鮮度の良いサバを、県民に供給し、地域創生にも繋げています。しかも、養殖水の中に出る魚の糞尿を食べる微生物を見付け出して、これを用いて養殖水を洗浄し、何かと障害を出す養殖水の外部への排出をゼロにする試行に成功しています。漁業界は、各地が切磋琢磨して、全員が強い熱意をもって養殖に邁進しているのです。
でも、このような改革を積極的に進めますと、これまで船で海に出ていた漁師さんたちには、仕事がなくなります。でも、漁師さんたちに危機感はないのです。日本列島沿岸に魚が減っていくのは、天命として受け入れて、自分たちに出来る新しい活路に情熱を傾けています。海苔、わかめの生産の改革、これまで食膳に登らなかった海藻類の海中養殖と食料化、さらに観光漁業の一層の推進などを進めています。
私のブログを長い間、愛読しくださっていた読者の皆様、林業関係の様々な仕事での大ベテランの方々。この海の人達が考えていることを、応用して考えてみていただけませんか。
苗木を作っている方、伐採の跡地に植苗して育林をしている方々。成木を伐採して山から丸太を出している方々。運んでいる人達。製材でいろいろと工夫をされている人々。製材品の流通やプレカットで苦労をされている人達。市場(いちば)の方々、そして物流・中間在庫で苦労されている方。製材品を住宅・木造建築物の建設現場に持ち込み、建築物作りに汗を流している方々。
そして、高齢化で体力の年々の減衰と戦っている方々。若い人が、なかなか集まってくれないので、仕事で魅力を感じさせようと苦労している人々。近年の大きなテーマである、女性のあらゆる分野への参画へ頭をひねっている方々。
そんな皆さんの身の回りに、日常の仕事の中に、海辺の人達が考えていることが、参考になることを探せないでしょうか。どうか、やってみてください。
そして海に生きる人達が、今の苦境を苦にせず、嬉々として新しい挑戦ができるのは、補助金の追い風の恩恵を受けた経験がないのが幸いしたのです。
一方で、林業・山村の皆さんは、戦中・戦後に、山の木を伐り尽くし、山が丸裸になったのを、官民一体となって、補助金の助けをかりて、見事に、日本の山林を、緑豊かな森に復活させました。皆さんは、日本国を救ったのです。
でも、日本国も、コロナで経済が打撃を受けました。その対策に、超多額の国債を発行しています。これにより財政は、大きな危機に直面しているのです。今後は、この問題点を解決しつつ、次なる経済の発展に、資金を投入して行かねばならないのです。
この時にあって、とりあえず、やり遂げた場所からは資金を引き揚げるべきだと、国の財務部門は主張するでしょう。国民も、産業の官・民も、同じことを考えるでしょう。でも、皆さんにとって、このような時代の到来は、むしろチャンスの到来なのです。どうか、ここで頑張ってください。
私は、今年、86歳になり後期高齢者です。然も、重い病をかかえています。ここで、永く続けてきたブログの執筆を、終了とすることにしました。引退します。読者の皆様、この後の日本の未来を、どうか、よろしく、お願いいたします。
☆引用資料
(1)酒井秀夫ブログ: 「南九州林業・山村 総討論会」 司会 酒井秀夫、討論 本郷浩二、森田俊彦、小森胤樹、大竹野千里、椎野潤 2022年7月12日。
[付記]2022年7月12日。