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□ 椎野潤ブログ(塩地研究会第47回) 国産材原木も価格・数量先決めに
木村木材工業株式会社 代表取締役 木村 司
国産材原木は出してみないといくらで売れるかがわからない商品です。
以前は原木を製材工場に納入した後に品質を見て値決めをしていました。納入が先、値決めが後の「後決め」です。原木市場に出荷した場合は競りで買い方の意向が反映されて価格が決まります。生産者の意向は反映されない「究極の後決め」で、毎月価格が上下します。
引用元:林野庁https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/ryutsu/kyougikai.html
原木を出荷するまでには時間がかかります。現場の大きさによっては伐採現場の立木を購入してから原木の搬出を終えるまで1年半かかることもあります。
原木価格が後決めである限り、伐採現場ごとの採算の試算は想定価格で行うしかありません。実売価格が事前の想定価格を上回れば利益が出ますが、実売価格が想定価格を下回れば赤字が出てしまいます。1年半後の価格を予想することは不可能で、伐採して原木を出す仕事の採算は非常に不安定です。
一方、原木価格が先決めになれば、伐採現場ごとに採算を試算して、伐採をするかどうかを判断できます。先決めのポイントは、柱取り、土台取りなど需要のある原木だけではなく、B,C,D材も含めて価格と数量を事前に決めておくことです。伐採現場から出る原木は種類が多く、一つの販売先で全量を消費することは現実的ではありません。希望する原木の種類が異なる複数の販売先と価格・数量の先決めができれば、採算の見込みがたちます。
また、価格だけではなく数量を事前に決めておけば、「いらない」と言われることがありません。価格だけ決めた場合は需要先の都合で「いらない」と言われて販売先に困ってしまうことがあります。
実際、熊本県の素材生産業者で複数の販売先と事前に価格・数量を決めて安定した素材生産をしている会社があります。この素材生産業者は販売先に「何が欲しいの?」と聞いて、事前に価格と数量を決めてから伐採をしています。先決めには供給責任が伴います。供給責任を果たすためにお客様の希望にあう伐採現場を常に準備して伐採を続け、原木を供給している姿勢に感心します。
堀澤さんが1月28日に「森林の資源倉庫化」について書いていらっしゃいますが、森林のデータ化は供給責任を果たせるようになるための大切な一歩です。どこに何がどれだけあるかがわかれば、求められる需要に対して打ち手が打ちやすくなるからです。
ウッドショック以後、欲しい原木はいつでも手に入る状況ではないと気付いた需要先から、供給の安定性を求めて原木の価格・数量を先に決めてから販売してほしいという話が出るようになりました。今後、輸入材が減少して国産材比率が上がると国産材の需給が締まってきて、先決めが有利になると判断したのだと思いますし、私も同感です。また、素材生産者と製材工場の間で「つながり」をもっておくと、いざというときの強みにもなります。需要全体から見ればごく一部ではありますが、国産材の将来にとって良い傾向です。
国産材丸太も価格・数量先決めに。需要側に変化が感じられる今こそ、旧態依然とした後決め体質を脱却し、林業が持続可能な産業になることを心から期待しています。
今回で椎野ブログの執筆を止めます。ご一読いただいたみなさん、ありがとうございます。
以 上
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
従来、原木を製材工場に納入する場合、品質を見てから値決めをしており、価格決定権は製材工場側にありました。原木生産者にとっては、伐採を開始したときに売り上げの予想が困難とのことで、製材工場の提示価格を聞いて、よそへ持っていくことも、相場が上がるまでストックしておくことも現実的には不可能です。原木価格が先決めになれば、伐採現場ごとに採算を試算して、伐採をするかどうかを判断できるという、林業界のコペルニクス的転回の提言です。
伐採現場から出る原木は種類が多く、一つの販売先で全量を消費することは現実的ではなく、だからプロダクトアウト型の木材市場があったのでしょうが、原木の複数の販売先と価格・数量の先決めができれば、採算の見込みがたつとのことで、マーケットイン型に転換できます。山元から川中、川下にいたるサプライチェーンをバリューチェーンに昇華させるには、製材や合板、パルプ材など各製品の価格予想と数量、需要量の情報が重要です。需要側からもたらされる価格予想をサプライチェーンの関係者で共有できれば、まず生産量を決定でき、目標在庫量、顧客への輸送量、増産量、関係者間の協力などの波及効果も大きく、利益の最大化に結びついていきます。この実現のためには、森林資源の正確なデータ化が不可決ですが、これは本ブログの出発点でもありました。供給元の柔軟性とタフネスを備えるためには、チームワークと林道などのインフラも必要です。
ウッドショック以後、需要先から、原木の価格・数量を先に決めてから販売してほしいという話が出るようになり、先決めが有利になるという見方が生まれたのは、ウッドショックがもたらしてくれた啓示です。今後、外材の入手が為替や現地の都合で困難になったり、同時に国内の労働力不足から国産材の供給が滞ったりすることも予想されます。このようなウッドショックの再来に対して、今から木材価格の安定価格(最低価格)と安定数量(年間事業量)を保証し、あわせて原木生産者の新規参入を促していかなければなりません。
伐採現場から出る原木を一つの販売先で全量を消費することは容易ではないです。話しがそれますが、将来の国難級的災害に備えて、備蓄機構などが窓口となって、そうした余剰材を適正価格で引き受ける仕組みができれば、素材生産業者の歩留まりと採算性を向上させ、森林所有者にも利益を還元することができます。本ブログ(長坂研究会)の「恒久仕様の木造モバイル建築とは〜モバイル建築の地産地消化と希望の林業への取り組み〜(202年11月7日)にもつながっていく話しです。
木村様、今までの毎回の貴重なご寄稿ありがとうございました。