椎野 潤(しいの じゅん) 2025年8(研究報告№147)
「巻頭の一言」
ビジネスの成長と社会貢献を両立させる「ゼブラ企業(注1)」が全国で存在感を高めています。利益確保と社会課題の解決というお互いに相反するようにみえる目的の両立からゼブラ(シマウマ)と称されます。5年間で1.5倍に増えました。人口比で最多の鹿児島では、火山灰を付加価値の高い日用品に再生するなど、地域課題を解決しながら業績を伸ばしています。2025年7月5日、日経朝刊、2面記事、(桜井祐介)を参照・引用して記述。
[日本再生][地域創生] ゼブラ企業 社会貢献競う 鹿児島が最多 農産物EC代行 成長と両立、全国1.7万社。
ここでは、日本経済新聞の2025年7月5日、朝刊2面記事(桜井祐介)を紹介します。
「はじめに」
ゼブラ企業は、2017年に米国で提唱されました。高成長・高収益をめざすユニコーン企業(注2)と対比されています。2025年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)には、「地域の社会課題解決の担い手となる企業(注1)の育成に向け、社会的な評価を資金調達につなげる環境整備を進める」として盛り込まれました。
ゼブラ企業の公的な統計はないため、日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫の協力を得て、社会課題の解決が目的の事業を対象とする実績を基に、ゼブラ企業を広く捉えて企業数を推計しました。
2024年度は1万7493社で、新型コロナウイルス禍に伴う融資条件の変更で急変動した2021年度を除けば、増加傾向が続きます。
自治体の規模の影響を除くため、都道府県別に人口10万人あたりで比較しますと、鹿児島県が27.9社で最も多く、全国平均の2倍近いのです。宮崎県が27.4社、和歌山県が27.0社で、これに続きます。
[鹿児島県]
鹿児島県のゼブラ企業数は428社で、鹿児島市内が3割を占めます。
2024年設立の合同会社エシカルティ(鹿児島市)は火山灰が堆積した「シラス」を原料に食器用洗剤や角質落しを生産します。鹿児島県は県土の6割をシラスが覆っています。「水害や崖崩れの原因となり、県民にとっては厄介者ですが、鹿児島ならではの地域資源を生かしているのです」と、上原直子代表は話しています。
シラスを高温で焼き発泡させ中空にした「シラスバルーン(注3)」がベースで土壌改良材などにも利用します。商品の売れ行きは好調で、2026年6月期には黒字を見込んでいます。
鹿児島市の「オービジョン(注4)」は、複数の大手通販サイトへの出品を代行し、県の農産物の販路拡大を担います。「全国有数の農業県なのに、価値が伝わっていない」と大薗順士社長が2019年に設立しました。生産者の初期費用が不要なのが評価され、取り扱い商品は300生産者1000件に増えました。
行政も資金調達で後押しします。鹿児島市は、ふるさと納税の対象にゼブラ企業の事業を選び2025年7月から、寄付の募集を始めました。下鶴隆央市長は「ゼブラ企業と組むことで地域の持続可能性を高めていきたい」と期待しています。成功報酬型でゼブラ企業に行政サービスを任せる「ソーシャル・インパクト・ボンド」(SIB、注5)」の導入も進んでいます。
[滋賀県]
滋賀県東近江市は、東近江三方よし基金などと組み、2016年度「東近江市版SIB」を設けました。地域課題を解決する事業提案を採択し最大50万円を支援します。資金は住民から出資を募り、期間終了後、第三者機関が事業を評価します。目標を達成すれば、市が出資者に元本を償還します。
[おわりに]
SIBでゼブラ企業は資金を集めやすくなり、市は財政支出を、成果があった場合に限定できます。愛媛県西条市が2018年度、那覇市も2024年度から類似の仕組みを取り入れました。
ゼブラ企業に詳しい龍谷大学の深尾晶峰教授は「人口減少が進んだ地域を中心に、地域課題の解決に取り組むゼブラ企業が台頭してきました。その機運を生かすため、資金調達で支える仕組みづくりを、住民や自治体、地域金融機関は、実施する必要があります」と話しています。2025年7月5日、日経朝刊、2面記事、(桜井祐介)を参照・引用して記述。
[まとめ]
この研究報告の執筆で参照・引用した、日本経済新聞の2025年7月5日朝刊2面記事に、三つの図表が記載されていた。「ゼブラ企業」誕生のランキング(2024年度)。(注)日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫のソーシャルビジネス関連資料件数をゼブラ企業数とみなした。人口10万人あたりで比較。各地で国の育成対象に。5年5割増加した。
[図表1]
図表1(注6)は、2025年7月5日の日経新聞紙上に、日本列島の地図として記載されていました。この図表は「ゼブラ企業」誕生のランキング(2024年度)」と題した図表でした。そして、この「誕生のランキング」を5段階に分けて整理し、これを日本列島の地図の上に、緑色系の色彩で塗り分けて記述しました。これは以下です。
第1群,「ゼブラ企業」誕生のランキング(2024年度)で、「25社以上誕生」していたところ(黒色)。
第2群,「ゼブラ企業」誕生のランキングで、「20〜25社未満」の誕生だったところ(黄緑色の右斜線)。
第3群,「ゼブラ企業」誕生のランキングで、「15〜20社未満」の誕生だったところ(濃い黄緑色)。
第4群,「ゼブラ企業」誕生のランキングで、「10〜15社未満」の誕生だったところ(淡い黄緑色)。
第5群,「ゼブラ企業」誕生のランキングで、「10社未満」の誕生だったところ(濃い青色)。
次に、この第1群から第6群の各地域について述べます。
[第1群]
ここでは「誕生のランキング(2024年度)」で、「25社以上誕生」していたところ(黒色)を第1群とよびました。第1群に入っていたのは以下の地域です。その第1群の第1位は、鹿児島県でした。また第2位は宮城県でした。第3位は和歌山県、第4位は大阪府でした。第1群に入っていたのはこの4ヶ所です。
ここで、第1群(ゼブラ企業の誕生で先頭にたっている集団)は、鹿児島、宮崎、和歌山、大阪でした。この4地域で、大阪を除いた3か所は、全国を牽引する牽引者としては新顔です。
[第2群]
第2群は、ゼブラ企業誕生が20〜25社未満だったところ(黄緑色の右斜線)でした。
ここに入っていたのは、石川県と熊本県でした。第2群に入っていたのは、この2県です。この2か所も新顔です。ここで第1群・第2群のリーダ−をみていますと日本国の未来の牽引者が、ここで大きく変換するかもしれないという、強い予感がします。
[第3群]
この第3群は、ゼブラ企業の誕生が15〜20社未満だったところ(濃い黄緑色)でした。
ここに入っていたのは、北海道、青森県、秋田県、岩手県、宮城県、山梨県、奈良県、長野県、鳥取県、島根県、福岡県、長崎県、大分県、愛媛県、香川県で、全部で15道県でした。第3群に並んでいる顔ぶれは、過去の多くのプロジェクトで、牽引者を経験したことがあるメンバーです。
[第4群]
第4群は、ゼブラ企業の誕生が10〜15社未満だったところ(淡い黄緑色)です。
ここに入っていたのは以下です。山形県、福島県、新潟県、富山県、東京都,神奈川県、愛知県、福井県、滋賀県、京都府、三重県,岡山県、広島県、山口県、佐賀県、徳島県、高知県で17か所でした。
第4群にも、一層、そうそうたるメンバーが揃っています。第3〜4群のメンバーが、これから急速に成長してきて、日本国を牽引して行ってくれると思います。
[第5群]
第5群は、ゼブラ企業誕生が「10社未満」だったところ(誕生社数は最下位、濃い青色)です。ここに、入っていたのは以下です。茨城県,栃木県,群馬県、長野県、岐阜県、千葉県、埼玉県、静岡県、沖縄県で9か所でした。
第5群は、今の時点では、立ち遅れた人達です。この人達には、今後、大いに頑張ってもらわねばなりません。
[図表2]
図表2(注7)は、「各地で国の育成対象に」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年7月5日の朝刊に掲載されていた図表です。これは以下の表です。
図表2 各地で国の育成対象に
「各地の活動の名称」 「活動地域と活動体の名称」 図表1の群
十勝楽舎 北海道浦幌町 まちづくり 3
Wasshoi Lab 宮城県丸森町 地方創生コンサル 1
湘南ベルマーレ フットサルクラブ 神奈川県小田原市 スボーツクラブ 4
まちから 福井県高浜町 地域商社 4
千年建設 愛知県名古屋市 生活困窮者向け居住支援 4
ウエダ本社 京都府京都市 オフィスづくり 4
石見銀山生活観光研究所 島根県大田市 古民家再生 3
青空 沖縄県宮古島市 飲食業・農業 5
国は全国各地で、「ゼブラ企業」の育成への支援をしています。図表2では、この活動の名称と活動地域を、列記していました。
この図表2に、図表1の活動の群を付記してみました。すると、各地どこでも、「ゼブラ企業の育成支援」は行われていますが、特に、第4群が多く、ここで取り上げた8か所のうち、4か所が第4群でした。
[図表3]
図表3(注8)は、「5年で5割増加した」と題した図表でした。これは日本経済新聞の2025年7月5日の朝刊に掲載された図表です。これは以下です。
図表の左側縦欄には、0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8万社が列記されていました。また、横欄の下欄には、2015年度、18、21、2024年度と「年度」が記してありました。
この図表では、2015年度の0.8万戸からスタートして、2024年度の1.7万社に向けて、右肩上がりで増加しています。コロナ禍で打撃を受けた2021年度が、ただ1年間、落ち込んでいますが、その他は、きわめて順調です。「ゼブラ企業数」は2015年度の0.8万社から2024年度の1.7万社へと、この10年間で45%増加しました。
(注1)ゼブラ企業は2017年に、4人のアメリカの女性社会起業家が提唱した概念である。時価総額を重視するユニコーン企業と対比させて、社会課題解決と経済成長の両立を目指す企業を、白黒模様、群れで行動するゼブラ(シマウマ)にたとえて命名された。近年、日本でも注目を集めており、その特性に応じた投融資が行われ、潜在力を発揮することで、地域課題の解決につながる可能性が大きくなっている。
(注2)ユニコーン企業(Unicorn company)とは、「設立から10年以内」「企業評価額が10億ドル以上」「非上場企業」「テクノロジー企業」といった4つの条件をすべて満たしている企業を言う。
設立から10年以内に企業評価額が10億ドルを超えることは非常に困難であり、2023年 に「ユニコーン企業」という言葉が使われ始めた。
(注3)シラスバルーン:シラスを高温で焼き発泡させ、中空にしたものである。土壌改良材などにも利用される。
(注4)オービジョンとは:鹿児島の生産者と全国の消費者をつなぐ、鹿児島県特化型産地直送。2021年の公開時より農産物をはじめとした肉・魚・焼酎、工芸品など 鹿児島の作り手が生み出すこだわりの商品を数多く取り揃えている。取り扱う商品は、約300名の1000商品以上である。また、商品の生産者のこだわりや ストーリー・地域性にも着目し、ユーザーとの繋がりを生み出しながら、様々なコンテンツを通じて鹿児島のこだわりの逸品を全国に発信することに取り組んでいる。
(注5)ソーシャル・インバクト・ボンド(SIB:Social Impact Bond)とは、2010年に英国で開発された官民連携の社会投資モデルで、社会課題を解決するサービスに、投資家が資金を提供してプログラムを実施し、削減された財政支出など、プログラムで生み出された成果に応じて、自治体等が投資家等へ成果報酬を支払う仕組みである。これにより、行政は効果的な施策に予算を集中させ、民間事業者は高い成果を上げるインセンティブが働いている。
(注6)日本経済新聞2025年7月5日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。ゼブラ企業」誕生のランキング(2024年度)。(注)日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫のソーシャルビジネス関連融資件数を、ゼブラ企業数とみなした。人口10万人あたりで比較。
(注7)日本経済新聞2025年7月5日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。各地で国の育成対象に。
(注8)日本経済新聞2025年7月5日の日経朝刊2面には、三つの図表が掲載されていた。5年間で5割増加した。
(1) 日本経済新聞、2025年7月5日、朝刊(2面)。
[付記]2025年7月28日。
―森林パートナーズ株式会社 小柳より椎野先生への返信―
このたびは、椎野潤先生による「ゼブラ企業」に関するブログを拝読し深い感銘を受けました。地域課題の解決と経済成長を両立させるゼブラ企業の台頭が、確かに今、日本各地で静かに、しかし力強く進んでいることを改めて認識し、また各地の具体的な実践に刺激を受けました。
私たち森林パートナーズ株式会社は、埼玉県秩父地域を中心とする森林資源の生産・加工を担い、東京および埼玉を家づくりの主なフィールドとして活動する企業です。
都市に拠点を持ちながらも、山元との深い連携を通じて「需要起点の木材流通モデル」を実装してきた私たちは、ゼブラ企業の理念に強く共鳴しています。
■ 山に利益が還る仕組みの構築
現在の日本の林業・木材産業は、川上(山元)に利益が十分に戻らず、持続可能な森林経営が困難となる構造的課題を抱えています。森林パートナーズは、この構造に風穴を開けるべく、木材流通の情報共有プラットフォームを構築。QRコードやICタグを用いた木材のトレーサビリティ技術を導入し、伐採から加工・流通・建築までの情報を透明化しています。
この仕組みにより、都市の住宅需要から逆算して伐採・出荷を調整する「需要起点型の供給」が実現。フルオープンコストの見積もり制度も導入し、木材価格の透明化と関係者全体の納得感を両立しています。これにより、林業従事者にも継続的に利益が還元される経済的循環が生まれつつあります。
■ 埼玉・東京をつなぐ「第5群」からの挑戦
椎野先生のご報告にある通り、ゼブラ企業の出現数において埼玉県は「第5群(10社未満)」とされています。しかし、埼玉だからこそできる埼玉らしいゼブラ企業の在り方があると確信いたします。
当社は都市(首都圏)と山間地域(秩父)を実務レベルでつなぐ構造を有しており、都市での住宅需要と山林の管理再生を直接結びつける独自の役割を担っています。
この「都市型ゼブラ企業」としてのモデルは、埼玉県における新しい地域価値創出の先駆例として、自律的かつ持続可能な林業経営の新しい形を提示し得ると自負しています。
■ ゼブラ企業としての意志と展望
森林パートナーズの実践は、単なる「木材を売る事業」ではありません。
私たちは、地域の森林・流通・住環境の再構築を通じて、経済合理性と環境倫理、文化の継承を同時に満たす仕組みづくりに挑戦しています。
その一環として、以下のような制度活用と連携体制も検討、推進しております。:
・国産材住宅ローン優遇制度との連携(行政・金融機関との協議中)
・ジャパンウッドラベルによる消費者向け価値訴求
・地域の一般社団法人設立による市民啓発と都市部への情報発信
・J-クレジットやカーボンオフセット制度との連携
私たちは、こうした実装的な取り組みを通じて、社会課題の解決と利益の両立の実現をモデル化していきたいと考えております。
■ 終わりに:未来をつくるのは、現場で動く実践者たち
椎野先生のレポートにあるように、ゼブラ企業の登場は「未来の担い手」として社会的に注目を集めつつあります。しかし、その多くは行政や制度支援の届きにくい場所から、地道に、そして実務ベースで生まれています。
森林パートナーズも、そうした現場起点のゼブラ企業の一つだと認識いたします。
「林業が儲からない」と言われる時代の終わりを告げるために、そして森林と都市の関係性を再構築する新しい社会基盤を育むために、これからも歩みを進めてまいります。