☆巻頭の一言
今日のブログは、ポストコロナの「新しい動き」の第3弾です。ロボット君(注1)の新しい動きについての2編目です。(椎野潤記)
林業再生・山村振興への一言(再開) 2022年7月(№227)
□ 椎野潤(新)ブログ(438) ポストコロナの「新しい動き」(その3)
未熟な接客ロボットを人が補う サイバーエージェント+大阪大学 小売店などで100体実験 2022年7月22日
☆前書き
今日のブログは、「ポストコロナの「新しい動き」(その3) 「未熟な接客ロボットを人が補う サイバーエージェント+大阪大学 小売店などで100体実験」です。
2022年5月10日の日本経済新聞は、これを書いています。記事は以下のように書き出しています。
☆引用
「接客や物流などでロボット(注1)の導入が進む中、未熟なロボの判断を人が手伝う形の運用が増えている。サイバーエージェントと大阪大学は人とロボが「協業」する形で、パン屋などに接客ロボ100体を導入する。全自動の人型ロボは未来の象徴だが、現状の人工知能(AI、注2)のレベルでは完全な自律型は難しい。技術的な成熟化に向け試みが続く。」(参考資料1、2022年5月10日、日本経済新聞から引用)
☆解説
[ロボットの売り子ソータ]
接客の仕事は、ロボット(注1)に任せるには、最も難しい仕事です。ロボットによる接客にも、これまでに、成功例はありました。でもそれを仕事として、本格的に業務に定着させるまでには至りませんでした。あくまで、実験だったのです。
でも、コロナの終息の気配が、ようやく見えてきて、ポストコロナの開幕となると、実験だけをしているわけにはいきません。なんとか、実際に売らねばなりません。経済を実際に再開させねばならないのです。
ポストコロナの新しい動きとして、ロボットの利用として特徴的に現れたのは、「なんとしても、経済を再開しなければ」と言うことが最優先になったことです。結局、この一番難しい接客を、「ロボットを使って何としても行なおう」と言うことが、最も重要なことになったのです。
このブログでは、今、評判のロボット売り子、「Sota(ソータ)」君の活躍の紹介から始めましょう。
大阪府豊中市にあるパン屋に、2022年4月中旬から、飛ぶようにパンが売れると評判のロボット売り子が現れました。名前は「Sota(ソータ)」です。スタートアップのサイバーエージェントが大阪大学との共同実証(実証実験ではない)で使う小型ロボットです。来店客に、挨拶したり、お薦めのパンを紹介したりする仕事を行っています。
でも実は、ソータの声の主は、店から離れた大阪市内在住の声優の声なのです。「今カレーパンが焼きたてだよ。」声色こそ機械音ですがソータに取り付けたカメラで、客の様子を確認して、それに応じて声のテンションや強弱を付けているのです。
ソータは客の声をAIシステムで拾い自動で顔を向けたり手を振ったりしています。でも、パンを薦める際、客がどこに立ってどんなパンを見ているかまでは、現状のAIロボットシステムの技術レベルでは、把握が難しいのです。
そこで、声優がカメラ越しで客の様子をみて、好みを推測して、薦めるパンを決めて声をかけるのです。これはAIロボットが客に反応し、お薦めは人が担う形です。
2021年夏に、ソータを導入した際、人だけで接客した場合に比べて、6種類のパンが2倍売れました。ロボットに言われた方が、店員に直接言われるよりも、抵抗が少ないのです。しかし、肝心のお薦めは人に任せることで、接客業務の精度は維持できたのです。
[ロボットの売り子ソータの本格的な展開]
スタートアップのサーバーエージェントと大阪大学は、2021年1月からスーパーや空港、保育園などと連携し、合計100人(体)のソータを導入しました。これは、様々な場所で順次におこなう販売の「実証」です。(実証実験ではないのです。)
ここでは実証して駄目ならやめるのではないのです。やってみて難しければ、さらに力を入れて実施するのです。難しければ、人の関与を増やして、ロボットとしては不完全な状態に戻りますが、これで、どんどん進めるのです。これが、ポストコロナにおけるロボットの新しい扱い方です。
ここでのロボットは、工場などで単純作業を自動で繰り返す産業用ロボットとは異なり、パターン化できない現場での仕事です。ロボットと人が協業する近未来のあり方を、
粘り強く探るのです。
100人のソータ君たちの活躍で、様々なことが分かりました。大阪府吹田市のスーパーで、ソータ君が、チラシを配ったところ、人が配ったよりも、5倍も多く受け取ってもらえました。さらに、人による操作を知らせない操作者の顔写真は掲載するが声はロボット顔写真を掲載して声も本人 の3通りで実証してみました。すると、立ち止まったり受け取ったりする人の割合が多かったのはでした。
人の代替として、ロボットを導入しても、操作のために、1人が1体にかかりきりでは、コスト面で苦しい事業になります。そこで、2021年秋に実証を始めた東急ハンズ心斎橋店(大阪市)では、案内役として配置した20体のソータを4人の声優が操作しました。一人当たり5体を掛け持った計算になります。
これでも、ソータは、人を使うためコストはかかりますが、この「人」を常に能力アップし続ければ、ソータの接客能力を、永続的に進化させていくことが出来るのです。これは相棒ロボット君を進化させていく上で、重要な対策だと、私は思いました。
新型コロナウイルスの影響が永く残る中で、対面接客は、まだ、難しいのですが、ソータは、客に接するのはロボットですから、その点は、大丈夫です。ポストコロナ下で、また、一時的に感染が拡大しても、経済再開は、安全に続けられるのです。
人気キャラクターが、着ぐるみの中に入っていると分かると緊張や警戒が和らいで親しみを憶える「コスチューム条件」と呼ぶ反応が知られています。ソータ君にも、これかありました。客は和らいで親しんでくれます。ソータ君は、ボスとコロナ下での強力な牽引者です。(参考資料1、2022年5月10日、日本経済新聞を参照引用して記述)
☆まとめ
AI(注1)で動くロボットを人が補う取り組みは、接客ほど複雑でない作業では、実用化が大分進んでいます。スタートアップのテレイグジスタンス(東京・中央)のロボットは、ファミリーマートやローソンの店舗で、飲料の品出しをしています。ここでは、AI、注2)を登載したロボットが飲料を自動で並べていますが、AIが対応できない事態が起きると、同社のオフィスに控えるスタッフが、仮想現実(VR)ゴーグル(注3)を装着して対応します。
スタートアップ、テレイグジスタンスは、ロボットは同社が保有し、遠隔業務と合わせた定額を毎月支払を受ける形で、貸し出しています。2022年3月には、ニチレイグループの川崎の倉庫での荷物の積み込みを、AI登載ロボットに人の遠隔操作アシストを付けて、開始しました。
同社は、2022年度中に、ロボットを操作する拠点をフィリッピンに設けます。遥か海を越えて、海外から、日本の現場にいるロボットに、人が支援する体制を作るのです。通信環境さえ整えば、言葉の壁を越えて、これが実現するのです。
ロボットの得意とするところと、人ならではのことを、世界レベルで組み合わせ、より高度の接客へ挑戦する活動は、今後、さらに、急速に展開していくと思われます。
私がブログの中心テーマとしている「林業再生・山村振興」では、高度AIの登載ロボットの対応が難しい業務が多いのです。難しいからこそ、「ソータ」を積極的に使うべきなのです。「ソータ」により、ロボットも実践での対応を習得し、遠隔操作する人間側も、多くのことを学び成長できるのです。そして、これを通じて、先が見えない難問の解決策が見えてくるはずなのです。他産業が、ポストコロナ下で難問に挑戦しているのに学び、日本の林業・山村も、元気に、溌剌として挑戦の旅に出ましょう。私は、これを、この上なく強く念願しています。
ポストコロナ時代を迎え、ようやく、最先端AI登載ロボットの未来にも、活路が見えてきました。これまで、常に障壁として立ちはだかっていた「コストの壁」を、とうとう、乗り越えたからです。
わが国も、コロナにより、経済が墜落しました。現在、「なんとしても、経済を再開しなければ」と言うことになり、ここで一番難しい接客を、「ロボットを使ってなんとしても行なおう」と言うことになったからです。その上で、コストのことを徹底的に考えようと言う、思考順序になったからです。みなさん万歳です。(参考資料1、2022年5月10日の日本経済新聞から参照引用して記述)
(注1)ロボット:「ロボット」は、劇作家のカレル・チャぺックが、1920年に発表した戯曲で、チェコ語の「強制労働(ロボータ)」をもじって作った言葉とされています。名前の由来通り、その発展の歴史は、労働と切り離せない関係にありました。1950〜1960年代に、米国で初の産業用ロボットが誕生しました。世界中の工場で、人の作業を代わって行うようになりました。一方、人や動物の姿に似せたロボットも開発されるようになりました。その役割も労働に止まらなくなりました。2本足で歩く人型ロボット、本物らしいイヌ型ロボットなどが登場しました。国際ロボット連盟によりますと、2019年の家庭・個人用ロボットの販売台数は2320万台です。2023年には2倍以上に伸びると予想されています。
(注2)人工知能=AI(artificial intelligence):「計算(computation)」という概念と「コンピューター(computer)」という道具を用いて「知能」を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す語。言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピューターに行わせる技術。計算機(コンピュータ)による知的な情報処理システムの設計や実現に関する研究分野。
(注3)仮想現実(VR)ゴーグル:仮想現実(バーチャルリアリティ)を体験することができるレンズが付いているゴーグルのこと。本格的なものから、スマホをはめ込んで使う簡易的なものまで種類がある。
「仮想現実」:限りなく現実に近い世界に没入する感覚が得られる装置(道具)。ゴーグル(goggles):目を保護するための、顔面に密着する道具。眼球を粉塵・砂塵・花粉・液体・汚物・風・雪・寒気・光から守る。保護メガネとも呼ばれる。
参考資料
(1)日本経済新聞、2022年5月10日。
(2) 椎野潤(新)ブログ(437) ポストコロナの「新しい動き」(その2) 同居のロボットは家族の一員 ロボットに頼られる家族には潤いが 2022年7月19日
[付記]2022年7月22日。
[追記 東京大学名誉教授 酒井秀夫先生の指導文]
2年もコロナが続くと、とくに若い世代は接客業が不得手になるのではと思います。リモートで、アメリカから米国の製品についてロボットが翻訳機能を介して日本語で説明するようになるかもしれません。メーカーもマーケティングにつながると思います。住宅展示場の説明も、製造担当の方がロボットを介して説明した方が説得力があるかもしれません。
実証して駄目ならやめるというのが、日本流だったかもしれませんが、やってみて難しければ、さらに力を入れて実施するという方向に向かいだしたとしたら、どん底を味わったポストコロナの新たな展開かもしれません。椎野先生は、コロナは未来を引き寄せたと仰っておられますが、ロボットと人が協業する時代がすぐそこに来て、これから次世代の活力が生まれてくればと思います。
酒井秀夫