□ 椎野潤ブログ(堀澤研究会第4回) 森林組合の行方―林業サプライチェーンの実現に向けて「森林の資源倉庫化」
堀澤正彦
「あてにならなかったからだよ」駆け出しのころ、懇意の製材会社の社長に地域産の丸太を使わなかった理由を問うたときのこの返答が前回の原稿を書きながらよみがえり脳裏をめぐっていました。あてにされるために時代の流れにものって丸太の増産体制整備を進め、計画生産体制を築くに至ったのですが、ボリューム勝負への追随には限界が見えてきました。いみじくも、本郷塾頭がコメントで、外国産材の強みは豊富な在庫で即納できる供給体制にあると指摘される反面、国産材事業者が在庫リスクを負ってまで追随することの難しさにも言及されています。
供給能力と在庫リスクの矛盾は木材産業に限らず永遠の課題です。特に木材は大型重量物なので物理的な負担も大きくなります。単純に注文があってから森林に手を付けるのではタイムリーな供給はできません。かといって、用途のマッチングがないままの生産(伐採)は山全体の価値を落とすことにつながります。これを解決するためには、川下からのデータを川上に遡上させて最適伐採をするデマンドプル、マーケットインの仕組みを構築することが必要です。これにより、立木の状態つまり森林を「仮想倉庫」とすることができるからです。ところが、現在の森林を「倉庫」と呼ぶことをはばかる問題があります。山側の情報活用の現状がぜい弱で、在庫管理がなされていない言わば不良在庫のような状態です。
「山にある木すぐには変えられない、林業は究極のプロダクトアウトである」本郷塾頭はこうも指摘されました。しかし、情報活用によりコントロールすることで一定レベルに変貌させることが可能です。レーザ計測などリモートセンシングによる高精度森林データを活用すれば、径級、材長から判別する採材予測(計画)をすることは可能になっているので、需要側の情報を突合させるアルゴリズムがあれば基幹的な仕組みになります。さらに、ヤング係数、虫害状況など品質評価をデータ化が必要です。単木は困難なのでエリア単位の統計値レベルでも実現すれば、管理された倉庫とすることができます。
かつて、品質までデータ化することを構想した時に強い批判を受けました。欠点までをさらすことで、所によっては低質材産地としての風評を受けるのではとの心配からでしたが、立木の情報を隠したところで丸太になれば露わになってしまいます。伐ってから複雑な流通にまみれるよりも明確な用途に向けたシンプルな流通のほうが良いにきまっています。需要先(用途)が多角化する近い将来、「あてにならない」を繰り返さぬように森林倉庫の管理適正化を目指さなければなりません。
☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫
ボリューム勝負は体力があればいいですが、なければ消耗戦に巻き込まれてしまいます。豊富な在庫を持てなければ、ビジネスパートナーとネットワークをつくって、サプライチェーンの中で在庫を融通しあって危険分散するのも方策だと思います。平時においては、原料を融通しあうことで、トラック輸送の輸送距離削減にもなります。
仲間どうしの情報網を構築し、できれば各製品の価格予想のもとに協議して生産計画を立てることができれば、サプライチェーンに血が通います。リモートセンシング技術により、森林倉庫の高精度なインベントリーが可能になってきました。注文に対して、適時に対応できるためには、ネットワークによりスケールメリットを創出し、品揃えを豊かにします。実行するためには、何よりも機動性を発揮できる路網が必要です。いまの林業の環境は昔とずいぶんちがってきているのではないでしょうか。
こうしたストックは、需給バランスのバッファになりますが、将来、国難級の災害がまったくないということはありえません。また、すべての林木が優良材ということもありえません。虫が入ったりした材も製品の強度に問題がなければ、欠点あるものの活用として、復興資材の備蓄などに活用できないでしょうか。こうした社会的備蓄に対して、ローリングストックしながら、税の優遇措置などがあれば、備蓄量は増え、やがては大いに役に立つのではないでしょうか。