林福連携の可能性と課題

□ 椎野潤ブログ(大隅研究会第22回) 林福連携の可能性と課題                         

駿河木材有限会社

代表取締役 大竹野千里

 次々と事業を辞める育苗業者が出てくる中、いずれ自分達で植える分だけでも作られればと、育苗生産者講習を受講したのが平成28年。その後、山行き苗が増える兆しはなく、地域には植林されない荒れた山々が増えていました。「植えなければ我々の仕事がなくなる!」と、平成30年、県の支援を受けながらスギの育苗事業を始めました。

 平成5年創設の弊社、本業は素材生産であって、毎年地拵え・植付け・下刈り作業は行うものの、育苗は素人同然。資材整備などは県の補助もあって進めることができましたが、担い手の確保に苦労しました。この頃の県内スギ苗木の生産量が約161万本。県の支援を受けることのできる最低ラインの3万本を目標に初年度の差付け作業が始まりました。

 2月。普段なら国有林事業を終え、民有林を伐採整備する時期ですが、それを先延ばしして、作業員総出で山へ背負子を背負ってスギの枝を採りに行きました。山で採ってはハウスで差付け。これを繰り返すこと3ヶ月。ようやく、3万2千本の差付け作業を終えることができました。

 途方に暮れました。

 何故なら、差付ける間の3ヶ月。全くの無収入です。しかも育苗の売上で到底賄えるはずがありません。差付け作業を素材生産のプロがするにはデメリットしかありません。地元のおばちゃん達にパートで来てもらおうにも、地元特産品じゃが芋の収穫時期と重なってみんな忙しい。「どうしよう。苗作りを辞めるか?いや、それでは遅かれ早かれ業界がなくなるだけのこと。無責任だ。誰かいないか・・・」

 「!花の木の人たちはどうだろうか?」

 「花の木」とは、地元福祉法人の愛称で、この1年前に障害者自立支援として1名を雇用するという繋がりがありました。善は急げ。直ぐに福祉法人花の木の理事長に電話しました。果たして?!

 「2月は利用者さんの作業がなくて困っていたのです。是非、一緒にやらせてください」

 連携から5年、多くの試行錯誤を経て令和6年差付け本数は、6万4千本となりました。また、作業期間も1ヶ月半で終了し、嬉しいことだらけです。育苗作業は機械化されていない為、多くの作業を人力で行います。福祉施設の利用者さん達と楽しくおしゃべりしながらお仕事ができる、福祉法人花の木さんとの出会いには本当に感謝しています。

 勿論、この連携が順調だったわけではありません。ここに書ききれないほどの試行錯誤やドラマがありました。それでも企業と福祉事業所お互いに諦めず続けてこられたのには、共通の信念があったからだと思います。

 ・『障害者が作ったから』、と言われるような製品は作らない。

 ・連携を持続させる

 ここで強調したいことは、2つ目の信念「連携を持続させる」です。「連携を持続させる」とは、作業が毎年あるということ。育苗作業が毎年あるということは、林産業が安定して持続していることに他なりません。冒頭のような山行き苗の生産が経ち行かず次々と生産をやめていった過去を繰り返してはいけないのです。

 「林福連携」とても耳障りの良い言葉です。が、その言葉に課せられた我々林産業に関わる者への責任は大きいと思うのです。この記事を読んでいる方お一人お一人のお力が必要となります。今後も育苗事業を持続させるべく自分に課せられた役目を誠実に果たしていきたいと思っています。

☆まとめ 「塾頭の一言」 本郷浩二

 素晴らしい事例をご報告くださって、ありがとうございます。

 持続的とは何なのか。自然を対象とした仕事では、毎年収入があって、毎年その収入を基にした投資があって、毎年労働があるということと考えています。自然ではなく、人工物を対象にした仕事では、それは毎月という単位で考えなければならないものかもしれません。

 お金の話だけでなく、労働の持続が大事なことです。働き手が毎年働くことができるということです。造林プロセスで言うと下刈までは毎年仕事がありますが、除伐・間伐になると数年〜十年に一回しか作業が生じないということが起こるのです。そうなれば、人を毎年雇い続けることが難しくなり、事業が持続できなくなるということです。自家労働の場合は、自分の仕事を探さなくてはなりません。戦後の造林の活況の終わりに、山村から人が消えてしまったわけです。仕事がない期間に他の仕事と複合して働くとしても、その仕事の労働の方が持続的そして有利であれば、その労働が優線されて選択されてしまう恐れが強いのです。

 苗木生産についても、造林が必要な伐採をしなくなれば、植える苗木も無用になります。森林経営の集積・集約化が必要というのは、毎年、一定の収支差を確保して、一定の労働をし続けられるだけの大きさの経営を作るということだとこれまでも述べてきました。地域の中で補完しつつ、伐採、苗木生産、造林、保育、間伐と言った作業を毎年行い続けられる大きさが必要なのです。

 その労働の一つのあり方として福祉部門との連携が模索されてきましたが、その過程からして林業部門の利己主義に陥る危険性があります。このご報告の場合、双方に十分なメリット・利益を生む関係性を作ることにも苦労をされたのだと推察します。その関係性を実現されたお取組はたいへん素晴らしいことだと感じました。