トランプ関税に思う

□ 椎野潤ブログ(金融研究会第22回) トランプ関税に思う

文責:角花菊次郎 

 トランプ関税、深謀遠慮か強大な権力をもてあそぶ軽率短慮か。アメリカ国内の産業保護や雇用創出を目的としたトランプ相互関税。他国が米国製品に高い関税をかけている場合、アメリカも同等の関税をかけるというもの。

 日本の木材輸入には一部の製材品や合板、集成材を除き、関税をほぼかけておらず、一方、アメリカへ輸出される日本の木材はトランプ相互関税の適用外となっているため、現時点での実害は生じていません。ただし、アメリカとカナダの間で起こっている「木材関税」をめぐる対立が、日本の林業や木材サプライチェーンにどのような影響をもたらすかについては、注視していかなければならないと思います。

 アメリカとカナダとの間には長い間、関税をめぐる争いが続いてきました。アメリカ側はカナダ産木材が政府補助によって不当に安くなっていると不満を募らせているようです。そのためトランプ大統領は「25%の追加関税」をカナダ産木材に適用すると表明。カナダからの木材輸入には最大40%もの関税が課される可能性が出てきています。この米加の木材関税をめぐる争い、日本の木材輸入にも大きな影響を与えそうです。

 アメリカはカナダの木材にかなりな割合を依存しています。そして、カナダ産の木材を国産に置き換えることはそう簡単ではないようです。2024年にアメリカで消費された木材の24%近くはカナダから輸入されたものでした。木材資源は豊富にあるといっても製材工場の新設や伐採能力の拡充、労働力の育成には時間がかかるといった状況は、国産材の増産が迅速にできなかったウッドショック時の日本と似た状況にあります。

 カナダ産木材は品質のバラツキが少なく、日本でも人気のある輸入木材です。今、トランプ関税によるアメリカとカナダとの報復合戦の影響で良質なカナダ産木材が輸出先を求めて日本に押し寄せるシナリオが囁かれています。一方、アメリカでは木材先物価格が2年半ぶりに高値を記録したそうです。アメリカ産の輸入木材の価格が高騰するかもしれません。

 次回のウッドショックは輸入材価格が暴落することになるのか、はたまた高騰することになるのか。いずれにせよ、あのウッドショックの再来が予感させられます。

 関税は、「不公正な貿易から自国を守る盾」として昔から使われてきた経済政策の手段です。ただ、今は国家安全保障上の脅威を排除するための「地政学的競争の剣」として、貿易面で相手国に打撃を与え、自国に有利な貿易条件を引き出そうとする意図で使われるものになってきました。

 日本は木材輸入に関し、丸太は0%、製材は0〜6%、合板は6〜10%、集成材は3.9〜6%と関税率はとても低く、ほぼ無税化されています(ただし、EPA/FTA締結国間での税率)。関税を「武器化」して高関税政策が実施される時代に日本は丸腰でどうやって戦っていくというのでしょうか。

 高関税が自国産業のコスト増や国際関係の悪化といった深刻な影響を及ぼすものと認識しつつも、日本の森林・林業を将来にわたって守りたいのなら、国産材サプライチェーンの強靭化や機械化など自力でできる範囲を超える問題にも対処していかなければなりません。そろそろ、木材関税の復活を真剣に考えてもいい時代になったのかもしれませんね。

以 上

☆まとめ 「塾頭の一言」 酒井秀夫

 今回のトランプ関税についてはいろいろな方が解説されていますが、根底にあるのはアメリカ経済が弱くなって国家財政が苦しいからでしょうか。株価の乱高下、米国債への信認、米国内での物価上昇と金利引き上げ、為替や雇用、そして税収への影響など、経済はそう簡単ではないです。

 日本に対しては、アメ車が売れないと難癖をつけてきていますが、「売れるものをつくる」というのが製造業の鉄則です。売れるものをつくってこなかったツケでもあり、それを関税で解決しようとするのは論理がちがうのではと思います。

 木材は日本では育成資源ですが、カナダでは天然資源という位置づけです。カナダ西部の森林地帯は地形が急峻で、天然林は伐り尽くしてしまいました。東部の森林地帯は比較的平坦で、大西洋をはさんだスウェーデンとサプライチェーンの共闘を組んで、人口の多い米国東部を市場にしてきました。これが米国の林産業を圧迫しているというのがトランプ政権の見方なのでしょうが、一方で米国も木材の安定供給によって、林産業はそれなりの恩恵を受けてきたはずです。

 カナダ材に関しては、本ブログの2024年9月3日と2025年2月11日で、木村木材工業株式会社代表取締役木村司さんの記事が大変参考になります。要約すると、

 「カナダの大径木から製材される造作材の原材料輸入が大幅に減少しているのに対して、国産材の大径木化が進み、無垢造作材の国産材比率が上がってきている。一番の原因は、カナダBC州で自然保護派が政権を握り、原生林を保護するために伐採延期区域が定められたことである。さらに先住民と木材会社との間で協議をしながら伐採が行われるようになったため、原生林から産出される大径木の伐採が大幅に減少し、質も落ちてきている。カナダから日本に輸入される幅150mm以上の柾目材はさらに価格高騰し、入手困難になるとみている。その一方でスギの大径木が増え続けており、品質も良くなり、見直されるのではないでしょうか。」

 そして、ウッドショックを踏まえて、

 「ウッドショック以後、供給の安定性を求めて原木の価格・数量を先に決めてから販売してほしいという話が出るようになった。いざというときのために素材生産者と製材工場の間で「つながり」をもっておきたいという狙いもあるのでは。国産材丸太も価格・数量先決めになり、旧態依然とした後決め体質を脱却し、林業が持続可能な産業になることを期待しています」と、新しい林業の形を提言しておられます。

 はたしてトランプ関税で、日本にカナダ産木材がなだれ込んでくるのでしょうか。いろいろなシナリオがあると思いますが、著者が指摘されるように、強靱な国産材サプライチェーンを防波堤にしなければなりません。日本は戦後、国土再建のために大量の木材を必要としました。樺太の森林資源を失った影響も大きかったと思いますが、木材輸入自由化を働きかけたのは政府ではなく木材業界からでした。結果論になりますが、それが後になって、円高とともに国内林業を圧迫するようになりました。相手が木材に関税をかけるのならば、これを機会にそれに勝てるだけの力をつけることも考えていかなければなりません。